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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第5章 悪夢からの解放と新たな火種
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第2話 目覚めのキス

 今度こそ。

 今度こそ、キスしたら……目覚めてくれそうな気がした。

 目を開けて、私を見て――にっこり笑ってくれるような、そんな気が……。



 だけど、ギルの唇に、あと少しで触れるというところで、思い直す。



 また、勝手に都合よく考えて……。

 もし、目覚めてくれなかったら、どうするつもりなの?

 試してみて、結局、何の効果もなかったら……私は、絶望せずにいられる?



 そう思うと、怖くて。

 自分の無力さを、思い知らされるだけのような気がして……。


 ――どうしても、触れることが出来なかった。



「ギル。私、どうすればいい? 何をしてあげれば、あなたは目覚めてくれるの……?」


 声が震えて。涙が溢れそうで。

 ……もう、どうしていいかわからない……。



 今なら、あなたが望めばなんだってするのに。

 あなたが目覚めてくれるなら、なんだってしてみせるのに――!



「ねえ、教えて? 私はあなたに、何をしてあげればいいの? どうすればいいのか、ちゃんと言って? そうすれば、私……なんだってする。今度はごまかしたりしない。はぐらかしたりもしない。逃げたりもしない。だから……だから言って! お願い、ハッキリ言ってよ!――何をすればいいのっ!?」


 堪らずに、両手で顔を覆った。

 ――とたん、涙が後から後から溢れて来て、幾筋も頬を伝って……。


「それならやはり、キスして欲しいな」

「――っ!」


 ビクンと肩が揺れ、心臓が大きく飛び跳ねる。


「……え……?」



 今の声……。

 少し低くて、微かに甘い響きの――この声、は……。



「どうしたんだい、リア? 私が望めば、何でもしてくれるんだろう?……とするとやはり、まずは君からのキスが欲しい」

「――ギル!?」


 驚いて顔を上げると、ギルが横たわったまま、僅かに顔をこちらに傾けて……柔らかく微笑んでいた。


「ギル……。あ……あぁ……」


 再び涙が(せき)を切ったように溢れ出し、頬から顎を伝っては、服の上に落ちる。


「リア――」


 ギルがその姿勢のまま、『おいで』と言っているように、大きく両手を広げた。

 それを見た私は、自分でも驚くほど素直に、すぐさまその胸に飛び込んだ。


「ギルっ!――ギル、ギル!……ギルぅっ!」


 私は何度も彼の名を呼びながら、その胸元に顔を埋め、涙を落とした。

 彼はそんな私の肩を抱き、愛おしむように、何度も頭を撫でながら、優しい声色でささやく。


「すまない、リア。……心配させたね。おまけに、君を幾度も泣かせてしまった。……本当に、すまなかった」

「……ギル……。よかった。――ホントに、よかったぁ……」


 私はそれだけ言うのが精一杯で、あとはしばらく、ギルの胸にしがみつくようにして泣き続けた。

 その間、彼は私の頭を繰り返し撫でたり、胸元に置かれた私の手を握って、口元に寄せ、指先にキスしたりした。


 いつもだったら、恥ずかしくて、うろたえて、逃げ出してるところだけど……。

 今は自然に、受け入れることが出来る。



 ……だって、ギルが目を覚ましてくれたんだもん。

 優しく笑って、抱き寄せてくれたんだもん。

 こんなに嬉しいのに……拒む理由なんて、あるワケないよ。



 ギルが襲われてから、まだたった一日。

 ――ううん。時間に換算したら、半日も経ってないのかも知れない。


 それなのに、なんて長く感じる時だったろう。

 こんなにも長く、怖い思いをしたことなんて――今まで、きっとなかった。


 不安から解放され、愛する人の懐に抱かれて……私の心は、ようやく落ち着きを取り戻し、涙はいつしか引いていた。


 この上ない幸福感に満たされていたためだろうか。私は、いつもより大胆になっていたらしい。

 少し体を起こし、顔を寄せると、私はギルの唇に、自ら唇を重ねた。

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