表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/225

第12話 かけがえのない人

 ……『かけがえのないお方』?



 私はぽかんとウォルフさんを見つめ、少しの間固まった。



 え……『かけがえのない』って……なんでそんな、大袈裟な話になるの?

 ギルが小さい頃の私の笑顔を、心の支えにしてたって言ったって……セバスチャンの話によると、私はただ木登りして、遊んでただけみたいだし……。


 ただ普通に遊んでただけなのに、『恩人』とか『かけがえのないお方』とか言われても、ピンと来ないとゆーか……どうも落ち着かない。



「そっ、そんな風に言われても困るよっ。恩人だのなんだのって、私自身は、何にもしてないんだし。ただ遊んで笑ってるとこに、偶然ギルが通り掛かって――って、それだけの話でしょ? たったそれだけなのに、そこまで持ち上げてくれちゃったって……な、何にも出ないよっ?」


 ウォルフさんの眼差しが、あまりにも温かくて。

 言ってる途中で、妙に恥ずかしくなって来てしまった。


「リナリア様に、何かしていただきたくて、このようなことを申しているのではございません。ギルフォード様と私の、正直な想いを、お伝えしているだけでございます。リナリア様は、そのままでよろしいのです。あなた様が何もなさらなくても、リナリア様の存在そのものが、私達にとっての救いであり――我が主にとっては、生きる希望なのですから」

「生きる……希望……?」

「はい。リナリア様は、『何を大袈裟なことを』と、お思いになられるかも知れませんが……決して、大袈裟なことではないのです。それと申しますのも、我が主――ギルフォード様は、セレスティーナ様を失ってしまってからというもの、そのお心のどこかで……『死』を望んでおられるような(ふし)が、たびたび見受けられたからでございます」

「え…っ!? 死を望んで……って、それってどーゆーことっ!?」


 『死』などという不吉な言葉が胸を()き、私は動揺した。



 そんなの嘘だ。ギルが死を望んでるだなんて、そんなの……そんなの絶対嘘っ!!


 だってギルが……ギルがそんなこと望むはずない。望むワケないじゃない――!



 でも……じゃあ、どーしてギルは目を覚まさないの……?

 治癒能力があるのに。シリルは一度目覚めてるのに。……なのにどーして?



 ……『死にたい』って、思ってるからじゃないの?

 体は治ってるのに、心が目覚めることを拒否してるんだとしたら――?


 だったら……もしそうだとしたら、ギルはこのまま……?



「リナリア様!」


 右手の温かな感触で、我に返る。

 反射的に視線を下にやると、私の手は小刻みに震えていて……その手をそっと包むように、ウォルフさんの両手が重ねられていた。


「申し訳ございません。リナリア様のお心を乱してしまったようですね。――ですが、どうか誤解なさらないでください。今でも死を望んでおられる、と申した訳ではございません」

「――え?」


 答えを求めてウォルフさんを見つめる。すると彼は、まるで微笑むように目を細め、


「死を望んでおられたのは、リナリア様にお会いする前までのことです。今は、むしろ逆でしょう。あなた様がずっと側にいらしてくださるのであれば、『生きたい』と……きっと、そう思っていらっしゃるはずです」

「……生き……たい?……ほ……ホント、に……?」

「はい。間違いございません。ギルフォード様に長年仕えさせていただいている、このウォルフが保証致します。あのお方は今、リナリア様のために生きようと、必死に闘っていらっしゃるはずです。きっと、もうすぐ目覚めてくださるでしょう。……いいえ。絶対にお目覚めになられます」

「ウォルフさん……」

「あと少しだけ、ご辛抱(しんぼう)ください。どうかお願い致します、リナリア様」


 彼の瞳をじっと見返してから、私はこくんとうなずいた。


「うん。そうだよね。あと少しの辛抱だよね。ギルはきっと――絶対、目覚めてくれるよね?」

「はい。無論でございます。あのお方が、そう簡単に、あなた様を諦められるはずがございません。今頃は、夢の中で、早くリナリア様のお顔が見たい、腕に抱きたい、肌に触れたいと……もがいていらっしゃることでしょう」

「えッ!?……は、肌って……。うぉ、ウォルフさんっ?」


 一気に顔が熱くなり、私はうろたえ、言葉の意味を問うように彼を見上げた。

 だけど、そんな視線も涼しい顔(たぶん…)で受け止め、普段といっこうに変わらぬ口調で、彼は私に問い返した。


「はい。いかがなさいましたか、リナリア様?」

「……い、いかがなさいましたか、って……」



 お願いだから、さらっと恥ずかしいこと言わないで欲しい……。

 そんなこと言われちゃったら、変に意識しちゃうってゆーか、気になっちゃうし……。


 ギルが……う、腕に抱きたい――?

 ……はっ、は、肌に触れたいっ――だなん、て――……。



 そこで何故か、唐突に今朝の夢を思い出し、私の全身はたちまちカーッと熱くなって、思わず両手で頬を押さえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ