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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第4章 慌ただしい朝

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第2話 行動開始!

 よしっ!

 さっさと着替えて犯人捜し出して、ギルにもシリルにも、早く元気になってもらわなくっちゃ。


 ――うん。頑張るぞっ!



 張り切って戦闘服(?)に着替えると、その場でくるりと一回転してみる。


 うちの城で働いてくれてる、メイドさん達が着てるのと比べると、この城のメイド服は、ちょっと大人っぽいデザインかも知れない。

 黒のくるぶし丈の長袖ワンピースに、肩の辺りに大きめのフリルが付いた、白エプロンに白タイツ、黒の靴。

 頭には、カチューシャじゃなくて、ちょこんと乗せてるだけに見えなくもない、白のキャップ。


 メイド服の種類なんて、よくわからないけど……たぶん、正統派とか、クラシックスタイルとか……そんな風に言われてる部類の、デザインなんじゃないかな?



 さーて。

 どこかおかしいところがないか、ウォルフさんに、ちゃんと確認してもらってから、捜査開始しなきゃね。



 そう思って、部屋のドアを勢いよく開けると。

 何故か、ウォルフさんがギルの顔の両脇に腕を付いていて――それが一瞬、妖しい雰囲気に映ってしまい、ぎくりとして固まった。


 ウォルフさんは、その姿勢のまま、ゆっくり振り返り、


「リナリア様……。こう申しましては、失礼に当たってしまうかも知れませんが……そのようなお召し物も、よくお似合いでいらっしゃいますね。実に可愛らしい。我が主がご覧になられましたら、見惚れておしまいになったでしょう」


 ……なんてことを言ってくれちゃって。

 普通の状態で聞いてたら、照れまくっちゃってたと思うんだけど……ウォルフさんの不自然な体勢が気になって、それどころじゃなかった。


「あ……あの……ウォルフ、さん?……どーして……なんでそんなカッコ、してるの……?」

「――は? そんな格好……と申されますと?」

「だっ、だから、その……。な――、なんでギルの上に、覆い被さってる……の?」

「ああ、これは――ギルフォード様のお顔を拭き清めていたのです。このように――」


 ウォルフさんは、サイドボード上にある、水を張ったボウルに手を伸ばした。

 握っていた布を濡らし、軽く絞ってから、ギルの顔を、撫でるように拭き始める。



 ……あ。なーんだ。

 顔を拭いてあげてただけかぁ。


 や、ヤダなー私ってば。変な誤解しちゃうところだったよ。

 危ない危ない……。



「そ、そっか。ごめんなさい、余計なこと訊いちゃって。……えっと、それよりこの服、これで着方合ってるのかな? どこかおかしいところはない?」


 一応、全身を見てもらうために、その場でくるりと回る。

 ウォルフさんは小首を傾げながら、私の方へと歩いて来て、


「大変よくお似合いでいらっしゃいますが、髪は、まとめておかなければいけない決まりがございますので。……少々、失礼致します」


 そう言うと、内ポケットから、クシと細いリボンを取り出して、私の髪を、あっと言う間にまとめ上げ、キャップの中に収めてくれた。


「これで何の問題もございません。この城には、幾多(いくた)の使用人がおりますので、お姿を見られた程度では、怪しまれることはないと思いますが……注意するに越したことはございません。なるべく人目につかぬよう、お気を付けください」

「うん。ありがとう、ウォルフさん。……それで、ギルを襲った人について、何かわかったこととか、目撃者とか……新しい情報はない?」

「……はい。残念ながら、今のところは、何の情報も入って来てはおりません」

「そっか……。じゃあ、全く手掛かりなしなんだ? そーすると、どこから調べればいいかな……」


 思案する私に、ウォルフさんは優しい眼差しを向けて、


「どうか、ご無理をなさいませんように――。何の手掛かりもなしに、犯人を見つけるなど、土台(どだい)無茶な話でございます。私が、リナリア様が外へ出られることについて、反対しなかったのは、犯人を見つけていただくためではございません。部屋の中から出られない状態というのも、長い期間となると、そうとうお辛いだろうと……少しは、気分転換なさった方がよろしいだろうと、考えたからでございます」

「えっ!……そーなの?」

「はい。ですから、必ず犯人を捕らえるなどということは、お考えにならず――出来れば、危険なことは、一切なさらないでいただきたいのです。お気が晴れましたら、なるべく早くお戻りください」

「……う……うん……」



 なんか、最初っから、何の期待もされてなかったのかと思うと、ちょっと悲しいけど……。


 でも、確かに、手掛かりのない状態で、名探偵でもないズブの素人が、ちょっと辺りの様子を探りさえすれば、犯人見つけ出せる――なんて考えるのは、楽観にも程があるよね。

 悔しいけど……外を見回ってる間に、『何かヒントになるようなものでも、見つけられたらラッキー』くらいに思ってた方が、現実味あるか……。



「わかった。気分転換も兼ねて、探検して来る……って程度の気持ちで、この城を見て回ることにするよ。ここでまた、私が危険な目に遭っちゃったりしたら、それこそ、大迷惑だもんね」

「――はい。申し訳ございませんが、その通りでございます。ザックス王国の姫君に、もしものことがございますれば、この国との友好関係に、ヒビが入るどころの騒ぎではございません。くれぐれも、そのことをお忘れなきよう……」


 ウォルフさんの言葉に、こっくりとうなずくと、私は彼に背を向け、ドアへと向かった。

 そして、途中で肝心なことを聞き忘れてたことに気付き、慌てて振り返る。


「そうだ、ウォルフさん。ギルが襲われた場所って、どこだかわかる?」


 ウォルフさんは軽くうなずき、


「この部屋を出て、左へひたすらまっすぐに進みますと、突当たりの左手に、小さなドアがございます。そこを出たところに、別棟へと続く、短い通路があるのですが、それを少し行った先で、お倒れになっていたそうです。……まだ幾らか、ギルフォード様の血痕(けっこん)が、拭い切れずに残されておりますので……すぐおわかりになられるかと」

「……そ、か……。うん、わかりました。――あ、それから――この城のメイドさん達には、何か、守らなきゃいけない決まりとかってあります? たとえば、偉い人とは口聞いちゃいけないとか、見られたらダメとか――」

「ああ、それでしたら――。メイド達は、特に大切な用事を言付かった場合でもなければ、城主は無論のこと、その一族や、貴族などの客人らに、自ら話し掛けてはいけない――という決まりがございます。それと同時に、彼らの姿を目にしたら、速やかに脇の方へと移動し、彼らが行きすぎるまで、頭を下げていなくてはなりません」

「――な、なるほど。じゃあ、偉い人に会っちゃったら、ささっと端っこに寄って、じっと黙ったまま、頭下げ続けてればいいんだよね?」

「はい。それで間違いございません」



 な~んだ。

 やっぱりここでは、姿見られちゃいけないとかって、やっかいな決まりはないんだ?


 そんな妙な決まりあるのって、うちの城で働いてる人達の間でだけ……なのかな?


 だとしたら、ホント、考えなきゃね。

 納得行かない習慣とか決まりとかは、ちょっとずつでも、変えてかないと……。



 しみじみ思いながら、私はそうっとドアを開け、辺りに人がいないのを確認すると、約半日ぶりに、ギルの部屋以外の場所へ出た。

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