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第3話 返り血の美剣士

 私達が身構えた時には、その騎士らしき人達に素早く周りを囲まれていて、逃げ道なんかどこにもなかった。

 シリルは静かに剣を抜き、体勢を低くして……どうやら、相手の出方を(うかが)っているみたい。


 私はキッと敵を睨みつけ、


「な――っ、なんなんですか、あなた達はっ!? 私達に、何かご用ですかっ!?」


 思わず、そう訊ねていた。


 剣を抜いて向かって来てる人達に、わざわざ丁寧(ていねい)な言葉遣いすることはないんじゃない? と我ながら思ったけど……。


 でも、相手の目的がわからない以上、一応は……姫としては、敬語使っといた方がいいかな~……って、とっさに判断しちゃったらしいんだもん、この頭。



「用?……そうだな。用と言えば用だな」


 ニヤリと笑って、騎士っぽい人の一人が言った。


「用って……。いったい、どんな用ですか? 剣を持ってなきゃこなせない用事って、なんなんです!?」


 じりじりと距離を詰めて来る相手側に、内心焦りを抱きつつ、私は必死に虚勢(きょせい)を張った。


「剣でこなす用事なんて、一つしかないだろう? ザックス王国第一王女、リナリア。……あんたを殺すことだよ」

「な……っ!」



 ……殺す?

 殺すって……どうして私を?



「それ以上近付くな! それ以上姫様に近付いたら……斬る!」


 シリルの言葉にも、敵はいっこうにひるむ様子がない。シリルを子供だと思って、甘く見ているのは明らかだった。

 彼は悔しそうに唇を噛むと、向かって来る相手から私をかばうように、立ち位置を数歩移動させた。


「ザックス王国の騎士連中も、焼きが回ったなぁ? こーんな綺麗な顔したか弱い子供一人が、姫様の護衛なんてよ。よっぽど人手が足りてねえんだろう?――なあ、お姫様よぉ?」


 とても騎士とは思えない。

 まるで、街のゴロツキみたいな口調で、敵が私達をあざ笑う。


「あなた達、誰なの? 格好は一応、騎士みたいに見えるけど……その下品な話し方じゃあ、本物の騎士じゃないわよね? それで本物って言い張るんだったら、どこの国の人達か知らないけど、そちらの国の方が、よっぽど焼きが回ってるんじゃないの?」


 あくまでも冷静を装って言い放つと、敵は一瞬ひるんだように見えた。だけどすぐ、口元に下卑(げび)た笑いを浮かべながら、


「これはこれは。ザックス王国のお姫様は、内気でおしとやかな性格らしいと聞いてたんだが……。やっぱり、噂なんて当てにならねえってことなんだな。なかなかに気の強ぇこと言ってくれんじゃねえか」


 そう言って、私の肩へと手を伸ばす。


「姫様に触れるなッ!!」


 そんな声が聞こえたのと、目の前の敵が左手を押さえて後ずさるのとが、ほぼ同時に感じられた。


「……シリル?」


 気が付くと、シリルの両手には、しっかりと剣が握られていて――。

 敵に目を向けると、腕の辺りからは血がにじんでいた。


「……シリル……」



 嘘みたい……。

 今、全然――シリルがどう動いたのかわからなかった。これっぽっちも見えなかった。

 気が付いた時には、もう、こんな状態で……。



「クソ…ッ! このガキッ!!」


 左手をかばいながら、敵が大きく剣を振り上げ、シリルに向かって斬り下ろす。

 でも、あっと思った時には、シリルは素早く身をかわし、敵の後方に移動して、背中から袈裟懸(けさが)けに斬り下ろしていた。


「ぅぎゃああッ!!」


 悲鳴を上げ、敵が膝から崩れ落ちる。


「シリルっ!!」


 思わず声を上げると、シリルは見たこともないような冷たい表情で、敵をじっと見下ろしていた。


「シリル……」



 これが……剣士としてのシリルなの……?

 こんな……こんなことって……。



 私はショックを受けていた。天才剣士としてのシリルに――じゃなく、敵を冷たく見下ろす、シリルの顔に……。



 あんな顔……。

 あんな冷酷さを感じさせるような顔、シリルがするなんて……。



 敵の返り血を浴びてたたずむシリルは、この世のものとは思えないほどに妖しく、美しかった。

 顔立ちが整いすぎているがゆえに、いっそうその姿は凄みを増し、寒気を覚えるほどの恐怖すら感じさせた。



 ……もちろん、そう感じたのは、ほんの一瞬で……。

 シリルはすぐ、表情を妖しいものから厳しいものへと切り替え、


「子供だと思って甘く見ると、痛い目を見るぞ! おまえらのような小物の相手など、私一人で充分だ! さあっ、掛かって来い!!」


 シリルとは思えないような勇ましい言葉で、敵を挑発するのだった。

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