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第4話 疑惑の人

 ウォルフさんから衝撃的な話を聞き、私は大きく目を見張った。


「しゅ…っ、首謀者っ!? 正室である、ギルの弟さんのお母様が……ギルのお母様を毒殺した犯人なの!?」


 あんまり驚いて、声がうわずってしまった。


「正確に申しますと、断定出来るほどの証拠は発見されませんでしたので、限りなく疑わしい――というだけの話なのですが」


 ウォルフさんはそう言って目をつむり、考え込むように沈黙した。

 しばらくしてから、再び目を開けると。


「しかし、直接毒を盛ったと思われるメイドが、こう証言したのです。『アナベル様に頼まれて、仕方なく毒を盛った』と……」

「メイドさんの証言?……でも、それだけじゃあ、決定打にはならないよね? メイドさんが、嘘ついてる可能性だってあるワケだし……」

「はい。ですから、すぐさまアナベル様にお伺いを立てようということになり、手分けして捜し回ったのですが、どちらにもいらっしゃらず……。ひとまず引き上げて、証言したメイドの元へと戻ってみると、床に、彼女の死体が転がっておりました。そして何故か、そこにアナベル様がいらっしゃったのです。アナベル様は、一同の顔を見渡しますと、にこりと微笑まれておっしゃいました。『彼女は罪の意識に耐えられず、私の前で毒をあおって死んだわ』……と」

「自分で毒を……。そのメイドさんは、頼まれたワケじゃなく、自分の意思でギルのお母様を殺した――ってアナベルさんに告白してから、自殺したってこと?」

「……はい。アナベル様がおっしゃるには、ですが……」



 証言者は、アナベルさんしかいない……。

 じゃあ、これもやっぱり――真犯人が確定出来るほどのものじゃない、か……。



「それで、確実な証拠があるワケじゃないのに、アナベルさんは幽閉されちゃって……今もまだ?」

「はい。幽閉と申しましても、(ろう)などではございませんが。普通の――この部屋と大差ない部屋に、見張りが外に二名。常に監視されている状態ではございますが、部屋の中の様子までが、見張られている訳ではございませんので、そこまで不自由ということもないかと――」

「そっか。……じゃあ、今回のことには、アナベルさんは無関係なのかな?」

「それは……今は何とも申せません。外部に密通者がいないとも限りませんし……」

「密通者?……そんな人がいるかも知れないのか……。でも、全然知らなかったな……。ギルが九歳の頃に、そんな辛い事件があったなんて……」


 ギルの様子を窺うと、さっきと少しも変わらず、苦しそうに息をしていて……私の胸はキュウっと痛んだ。



 毒を盛られるだなんて……。しかも、お母様がそのせいで亡くなって、自分だけが助かるなんて……。


 ……辛かったろうな、ギル。

 今まで何度も命を狙われて、危険な目に遭って来たのに、人前では明るく振る舞って……。


 やっぱり、無理してたのかな……?



 そう言えば、ザックスにいる時も、何度か、様子がおかしくなったことがあったよね?

 あれは――あの悲しげな表情は……『いつ何があるかわからない』って言ってた、あの言葉は……お母様を殺されてしまった、悲しい記憶があったからなの?



 ……ごめんね、ギル。

 私、何にも知らなくて。

 あなたに、こんな辛い過去があったなんて、想像すら出来なくて……。


 ギル……ごめんね。本当にごめんなさい。

 あなたに謝らなきゃいけないこと、たくさんあるのに――伝えたい気持ちだって、たくさんあるのに。それなのに――。



 私は彼の左手を両手でぎゅっと握り締めると、心でこう語り掛けた。



 待っててね、ギル。私がきっと、あなたをこんな目に遭わせた人間を、見つけ出してみせるから。

 見つけ出して、ここに連れて来て――絶対、あなたに謝らせるから。


 だからお願い。早く目を覚まして?……元気な姿を見せて。

 それが叶うなら、私……あなたに一生、許してもらえなくても構わない。

 ……ううん。あなたが許してくれるまで――たとえ許してくれなくても、あなたのために、今度こそ――本当に、何でもする。


 ――ホントよ? 絶対絶対、嘘なんてつかない。

 あなたが望むことなら、なんだってしてみせるから――!



 だから……。


 だから、早く元気になって?

 また意地悪なこと言って、私を困らせてみて?

 からかって笑って……キザなセリフで、私を戸惑わせてよ。


 ギル……。

 ねえ、ギル。ちゃんと聞いてる?


 あなたが好きなの。大好きなの。

 あなたの顔を見て、ちゃんと自分の言葉で……今度こそ伝えたいの。


 だから――だからお願い!!



 ギルの頬を両手で挟み込むと、ウォルフさんの前だと言うことも構わず、私はそっと彼の唇にキスをした。

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