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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第17章 過去との決別

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第13話 恋人の選択

 アナベルさんが死刑を宣告された場合、自分も死のうと思っていた――というようなアセナさんの告白に、私はヒヤッとして声を上げた。


「そんな! アセナさんが死ななきゃいけない理由なんてないじゃな――っ」

「いいえ! 理由はございます。アナベル様に、毒の話をお聞かせしてしまったのも、実際に購入し、お見せしたのも私なのですから」


「でも、ちゃんと保管してたんでしょ? 知らない間に、盗まれるかすり替えられるかしちゃっただけなんでしょ? だったら、アセナさんには、死罪になるほどの罪なんてないじゃない!」


「いいえ!……アナベル様は、我が主。私が、一生お仕えすると誓った、かけがえのないお方です。そのお方が、罪人となられたのであれば、共に罰を受けるのは当然でございます!」


「えっ? アセナさんの主って……フレディじゃないの?」


「アナベル様が、幽閉という罰をお受けになられたと同時に、フレデリック様の専属執事に任命されたのです。アナベル様の大切なお子様であらせられる、フレデリック様の執事ということであれば、全力で務めさせていただくのは当然のこと。ですが……私が主と定めておりますのは、今も昔も――そしてこれからも、アナベル様お一人でございます」


 強い意志を感じさせる眼差しで、アセナさんはまっすぐに見返して来る。



 騎士が、生涯ただ一人の主を定めるように、執事もまた、同じような気持ちで、主を定めるってことなんだろうか?

 だとしたら……ウォルフさんも、ギルをただ一人の主として、定めてるのかな?



 ……この世界の主従関係って、すごく繋がりが深いんだなぁ……。



 しみじみと感動してるところに、


「おまえが誰を主と定めていようが、そんなことはどうだっていい! 今私が知りたいのは、たったひとつだけだ。結局おまえは、その主とやらの口から、真実を聞き出せたのか? それとも、何も知り得ぬうちに――あの女は、あのような状態になってしまったのか?」


 ギルの厳しい声が飛び、私はようやく我に返った。


「……申し訳ございません。真実をお聞きすることが出来ぬまま、アナベル様は……」


 頭を垂れるアセナさんを、しばらくの間、じっとにらみ据え。

 ギルは深いため息をつくと、辛そうに顔を背けた。


「わかった。もういい。……もう疲れた。どれだけ真実を知りたいと願っても、どうせ、これ以上のことは出て来はしないのだろう? それに……真実が知れたところで、母上は……戻って来てはくださらない」


 疲れ切ったような、ギルの言葉が切なくて、胸がキュッとした。


 私は彼の手を両手で握り、腕におでこを押し当てる。

 彼は黙ったまま、優しく頭を撫でてくれて……それからアセナさんに向き直ると、暗い声で告げた。


「アセナ、これで気が済んだか?……話が済んだなら、出て行ってくれ。すまないが、ウォルフ――おまえもだ」

「ギルフォード様!……ですが、私はまだ……罰を受けておりません!」


 アセナさんの言葉に、ギルは訝しげに目を細める。


「罰?……いったい、何の話だ?」

「で、ですから……! 毒のことを、長年黙っていた罪と、勝手に毒を処分した罪と、それから――」


「もういいと言っただろう。……疲れたとも言った。今更、おまえを罰したところで何になる? それに、おまえはただ――罰を受けることによって、己の罪の意識を、軽減したいだけではないのか? そんなくだらない理由で、私をわずらわせるな。いい迷惑だ」


「……ギルフォード……様……」


 呆然とつぶやくアセナさんの肩に、ウォルフさんは柔らかく手を置き、微笑むように目を細めた。


「アセナ。我が主が、許すとおっしゃっているんだ。――失礼しよう」

「し……しかしウォルフ――」

「いいんだ。……さあ、行こう」


 アセナさんに優しく語り掛け、(いたわ)るように肩を抱いて、ウォルフさんはドアへと向かう。

 彼らはドアの前で振り向き、私達に向かって一礼すると、静かに部屋を出て行った。


 私は彼らを見送りながら、



(ウォルフさんが敬語使ってないところって、初めて見たなぁ。姉弟の間じゃあ、やっぱり敬語は使わないのか……)



 なんてことを考えていて。


 深刻な話の後でも、こんなどーでもいいようなことを考えてる私は……やっぱり、ちょっとのんきなのかも知れない。

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