第4話 集いし者達
「よく来てくれたね、ギルフォードにリナリア姫。――ウォルフもご苦労だった」
数日前と変わらぬ笑顔。変わらぬ声。そして変わらぬ、優しくて温かなオーラ――。
国王様は、部屋の細長いテーブルの上座に腰掛け、穏やかに微笑んでいた。
隣には、もう一脚、椅子が並べられていて。
そこには、思わず息をのんでしまうほどの美しい女性が、国王様に寄り添うようにして座っていた。
この人が……アナベル、さん?
……なんて綺麗な人だろう。
そう言えば、フレディによく似てる。
腰の下辺りまであるブロンドの巻き毛は、自ら光を放っているかのように、キラキラと輝いて見えた。
透き通るような白い肌に、勝気な印象のツリ気味の目。瞳の色は、吸い込まれてしまいそうなほど、深みのあるスカイブルーで……。
ふっくらと艶めくチェリー色の唇は、ため息が出てしまいそうなほど、理想的に整っていた。
本当に、どのパーツを見ても、恐ろしいほど魅力的で……。
たっぷり数十秒ほどは、私は彼女に見惚れてしまっていたと思う。
「さあ、いつまでも突っ立っていないで、座って座って。――アセナ」
国王様は、斜め後ろで控えているアセナさんに目をやり、私達をそれぞれの席へ案内するよう指示した。
「はい。かしこまりました」
アセナさんはうやうやしく一礼すると、私達の方へと歩いて来て、
「ギルフォード様はこちらへ――。リナリア姫様は、こちらの席へお座りください」
それぞれの椅子を引いて私達を座らせると、再び一礼して、国王様の斜め後ろへと戻って行く。
アナベルさんに目を奪われていて、気付かなかったけど。
ギルの向かい側の席には、小さく縮こまるようにして、フレディが座っていた。
フレディ――?
……なんだか、フレディも顔色が悪いな。
ギルと同じように、微かに震えて……顔面蒼白って感じだけど……。
どーしたのかな?
ギルはともかく、フレディにとって、アナベルさんは実の母親なんだから……久々に会えたのに、震えてるなんておかしいよね?
久々すぎて緊張してる、とか?
それとも……体調が回復してるってゆーのは、嘘だったの?
気になって、じーっとフレディを見つめていると。
私達を見回した後、国王様が再び口を開いた。
「全員、揃ったようだね。――では、私の話を聞いてもらうとしようか。ダグラス。悪いが、見張りをしていてくれるかい?」
「かしこまりました、陛下」
ビリビリと空気を震わすような、貫禄ある低音の美声が響いて。
私はハッと息をのみ、声の主に注目した。
う――っ。
こりゃまた、国王様とは違ったタイプの、美中年さんじゃーないですか。
声も、スペシャル級に渋くてカッコいいし。
若い頃は、さぞかしおモテに……って、ううん。きっと今でもモテてるな、この人。そんな気がする。
思わずマジマジと見つめながら。
この人が、例のマイヤーズ卿なんだろうと、私は確信した。
言っちゃ悪いけど、国王様よりも、よっぽど国王様っぽく見える。――ギルが言っていた通りの人だった。
フレディやアナベルさんと比べると、ちょこっとだけ、髪の色はくすんで見えるけど。
やっぱり金髪だし、目は青いし、ツリ目気味だし……。
間違いなく、この三人は血縁者だってわかる。
ただ、その威厳たるや、凄まじいものがあって。
周囲を圧倒するほどの雰囲気を、全身からかもし出していて、私は知らず知らずのうちに、ごくりとツバをのみ込んでいた。
今日、初めて会ったのに。
(……この人だけは、絶対、敵に回しちゃいけない)
とにかく、何故かそう感じさせてしまうほどの、凄みのある人物だった。
マイヤーズ卿は、ドアを開けて外に出て行き、私はしばらくぼんやりと、そのドアを眺めていた。
見張りってことは、国王様が話している間中、ずっと、ドアの外で立ってるってことなんだろうか?
『マイヤーズ卿ほどの偉い人が、見張りに立つの?』って一瞬思ったけど。
国王様は、これから内々の話をするつもりなんだろうし、口が堅い見張り番の人にすら、聞かれたくない話ってことなんだろう。
ひとまず納得して、私は国王様に視線を戻した。
「わざわざ集まってもらって、申し訳なかったね。今日、ここへ君達を呼んだのは、他でもない。私の決意を、皆に知ってもらうためなんだ」
「……決意?」
怪訝顔でギルがつぶやくと、国王様は、ニコリと笑ってうなずく。
「うん、そうなんだ。……実はね。私は、あと数年もしたら……フレデリックに王位を譲り、隠居しようと考えている。それを皆に、伝えておこうと思ってね」
数秒固まった後、
「はぁあっ!?」
私達は一斉に声を上げ、愕然として、国王様を見返した。
そんな中、国王様は微笑など浮かべつつ、私達をゆっくりと見回して……。
一人、満足げにうなずいていた。




