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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第17章 過去との決別

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第4話 集いし者達

「よく来てくれたね、ギルフォードにリナリア姫。――ウォルフもご苦労だった」


 数日前と変わらぬ笑顔。変わらぬ声。そして変わらぬ、優しくて温かなオーラ――。


 国王様は、部屋の細長いテーブルの上座に腰掛け、穏やかに微笑んでいた。

 隣には、もう一脚、椅子が並べられていて。

 そこには、思わず息をのんでしまうほどの美しい女性が、国王様に寄り添うようにして座っていた。



 この人が……アナベル、さん?


 ……なんて綺麗な人だろう。

 そう言えば、フレディによく似てる。



 腰の下辺りまであるブロンドの巻き毛は、自ら光を放っているかのように、キラキラと輝いて見えた。

 透き通るような白い肌に、勝気な印象のツリ気味の目。瞳の色は、吸い込まれてしまいそうなほど、深みのあるスカイブルーで……。

 ふっくらと(つや)めくチェリー色の唇は、ため息が出てしまいそうなほど、理想的に整っていた。


 本当に、どのパーツを見ても、恐ろしいほど魅力的で……。

 たっぷり数十秒ほどは、私は彼女に見惚れてしまっていたと思う。



「さあ、いつまでも突っ立っていないで、座って座って。――アセナ」


 国王様は、斜め後ろで控えているアセナさんに目をやり、私達をそれぞれの席へ案内するよう指示した。


「はい。かしこまりました」


 アセナさんはうやうやしく一礼すると、私達の方へと歩いて来て、


「ギルフォード様はこちらへ――。リナリア姫様は、こちらの席へお座りください」


 それぞれの椅子を引いて私達を座らせると、再び一礼して、国王様の斜め後ろへと戻って行く。

 アナベルさんに目を奪われていて、気付かなかったけど。

 ギルの向かい側の席には、小さく縮こまるようにして、フレディが座っていた。



 フレディ――?


 ……なんだか、フレディも顔色が悪いな。

 ギルと同じように、微かに震えて……顔面蒼白って感じだけど……。


 どーしたのかな?

 ギルはともかく、フレディにとって、アナベルさんは実の母親なんだから……久々に会えたのに、震えてるなんておかしいよね?


 久々すぎて緊張してる、とか?

 それとも……体調が回復してるってゆーのは、嘘だったの?



 気になって、じーっとフレディを見つめていると。

 私達を見回した後、国王様が再び口を開いた。


「全員、揃ったようだね。――では、私の話を聞いてもらうとしようか。ダグラス。悪いが、見張りをしていてくれるかい?」

「かしこまりました、陛下」


 ビリビリと空気を震わすような、貫禄ある低音の美声が響いて。

 私はハッと息をのみ、声の主に注目した。



 う――っ。

 こりゃまた、国王様とは違ったタイプの、美中年さんじゃーないですか。

 声も、スペシャル級に渋くてカッコいいし。

 若い頃は、さぞかしおモテに……って、ううん。きっと今でもモテてるな、この人。そんな気がする。



 思わずマジマジと見つめながら。

 この人が、例のマイヤーズ卿なんだろうと、私は確信した。


 言っちゃ悪いけど、国王様よりも、よっぽど国王様っぽく見える。――ギルが言っていた通りの人だった。


 フレディやアナベルさんと比べると、ちょこっとだけ、髪の色はくすんで見えるけど。

 やっぱり金髪(ブロンド)だし、目は青いし、ツリ目気味だし……。

 間違いなく、この三人は血縁者だってわかる。


 ただ、その威厳たるや、凄まじいものがあって。

 周囲を圧倒するほどの雰囲気を、全身からかもし出していて、私は知らず知らずのうちに、ごくりとツバをのみ込んでいた。


 今日、初めて会ったのに。



(……この人だけは、絶対、敵に回しちゃいけない)



 とにかく、何故かそう感じさせてしまうほどの、凄みのある人物だった。



 マイヤーズ卿は、ドアを開けて外に出て行き、私はしばらくぼんやりと、そのドアを眺めていた。


 見張りってことは、国王様が話している間中、ずっと、ドアの外で立ってるってことなんだろうか?

 『マイヤーズ卿ほどの偉い人が、見張りに立つの?』って一瞬思ったけど。

 国王様は、これから内々の話をするつもりなんだろうし、口が堅い見張り番の人にすら、聞かれたくない話ってことなんだろう。


 ひとまず納得して、私は国王様に視線を戻した。


「わざわざ集まってもらって、申し訳なかったね。今日、ここへ君達を呼んだのは、他でもない。私の決意を、皆に知ってもらうためなんだ」

「……決意?」


 怪訝顔でギルがつぶやくと、国王様は、ニコリと笑ってうなずく。


「うん、そうなんだ。……実はね。私は、あと数年もしたら……フレデリックに王位を譲り、隠居しようと考えている。それを皆に、伝えておこうと思ってね」


 数秒固まった後、


「はぁあっ!?」


 私達は一斉に声を上げ、愕然(がくぜん)として、国王様を見返した。


 そんな中、国王様は微笑など浮かべつつ、私達をゆっくりと見回して……。

 一人、満足げにうなずいていた。

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