第9話 心が揺れる理由
ウォルフさんが部屋を出て行ってしまった後。
私はベッドの端に縮こまるように腰掛けながら、ギルがこんな風になってしまう理由を、ずっと考え続けていた。
ギルは、私のことは信じてるって言ってくれた。
私は心変わりなんかしないって。するワケがないって言ってくれた。
だけど、同時に……周りにいる男の人達は、信じられないとも言ってた。
いつ、誰が私を奪って行ってしまうか。それを考えると、怖くて堪らないって……確か、そんなようなことも。
つまり、ギルが頻繁に私を抱こ――っ、……う……も……求めて来る……のは。
その人達に、私を奪われてしまうかもって、考えちゃうからなのかな?
そういう、恐怖心みたいなものが、常に彼の中にはあって。
その恐怖心を、抑えることが出来なくなった時、私を求めずにはいられなくなっちゃうって……そんな感じ?
だとしたら。
私の周りに、男の人が一人もいなくなったら、ギルは安心出来るの?
女の人だけになったら……もうあんな風に、暴走することもなくなる?
……でも、さすがにそれは無理か。
護衛は、どーしたって、騎士さんってことになっちゃうもんね。
騎士さん達の中に、女性が一人でもいてくれたら、まだよかったんだけど。
この国では、女の人の働き口は、限られちゃってるみたいだから……『女性騎士』って存在自体が、あり得ないっぽいんだよなぁ……。
それに、いくらギルが妬くからって言ったって。
シリルを解任するのは、絶対に嫌だし!
それだけは、何が何でも嫌だしっ!
メイドさん達は、全員女の人だから、この問題には関係ないとしても。
オルブライト先生や、グレンジャー先生は……。
う~ん……。
さすがに、『男の人だから』って理由だけで、辞めてもらうワケには行かないよねぇ?
第一、剣術の稽古は、女性騎士がいない以上、グレンジャー師匠みたいな『剣術の達人』にしか、頼めないんだろうし。
先生は女性でも勤まる仕事だし、この世界でも、お願いすれば可能なんだろうけど……。(現に、桜さんがリナリアだった頃は、女性だったこともあるらしいし)
でも、もしそんなことを言い出そうものなら。
オルブライト先生が、どれだけ辛辣な言葉で反撃して来るかわからな……って、あー……考えただけでもゲンナリしちゃう。
あと、私の周りにいる男の人って言ったら、カイルだけど。
彼は旅に出ちゃってて、いつ頃戻って来られるかわかんないし。
すぐに帰って来たとしても、その時は、『私が好きなのはギルでした。ごめんなさい』って、ちゃんと伝えるつもりだし。
そうすればカイルだって、私の側にいたいだなんて、思わないに決まってる。
ギルが心配するようなことには、なるはずもな……い……。
『君は、カイルを選んだ。私ではなく、カイルを……』
『君はそれを思い出すたびに、カイルのことを想うだろう?』
『たとえば、カイルのような……君だけを想い、君のためならどんな努力も惜しまず、身分の差などにも屈しない。そんな男の方が、君には合って――』
『カイルが再び立ちふさがって、君の心を奪って行ってしまいやしないか……』
その時。
ギルがカイルについて話していたことが、一気に脳内を駆け巡った。
「あ……。そっか。そーゆーこと、か……」
発言のひとつひとつについて、改めて考えてみたら。
彼の心に巣くっている不安の源は、やっぱり、カイルなんじゃないかって気がして来た。
ギルはきっと、未だにカイルの存在を意識してるんだ。(……って、そんなことになっちゃった原因は、私が『二人とも好き』って、伝えちゃったことにあるんだろうけど……)
――うん。
やっぱり、そうとしか考えられない。
だってギルってば、私が自分の気持ちを伝えた後でも、何かというと、カイルの話持ち出して来て、気にしてる感じだったもんね。
じゃあ、もしも私が。
カイルの帰りを待たずに、『ギルが好き』ってことを手紙で伝えて、ごめんなさいしてケジメを付けたら……ギルの不安も、少しは取り除かれるのかな?
これ以上、カイルのことで気を揉むこともなくなる……のかな?
……そっか。
ギルの不安の要因は、私がまだ、カイルに気持ちを伝えてないってところに、あるのかも知れない。
だとしたら。
今、私が彼のために出来ることは……。