第7話 暴走
二人共、相手が何か言ってくれるのを、待ってたんだと思う。
だけど、掛けるべき言葉がなかなか見つけられなくて、私達は、かなり長い間押し黙ったままだった。
すると、
「ヒ…ッ!」
突然、首筋にしびれが走り、私の体はビクンと跳ねた。
その感覚が治まらないうちに、ギルがうなじに強めのキスをして来て、私は堪らず身をよじる。
「や――っ!……ん……や……っ、めて――っ」
イヤイヤをするように首を振っても、彼はやめてくれなかった。
首の付け根辺りからうなじに向かい、舌先だけを軽く触れるようにしながら、焦らすように舐め上げて行く。
ゾクゾクとした甘いうずきに、私は反射的に両目を閉じて、全身に力を込めた。
そうして、私が必死に耐えている間にも。
彼は何度も、うなじに軽くキスをしたり、強く吸ったり、舌先でくすぐるように舐めたりと、行為に強弱を加えながら責め立てて来る。
快感の波が襲うたびに、私は両手で口元を覆い、声が漏れそうになるのを必死に堪えていた。
「……リア。声を聞かせてくれ。君の声が聞きたい」
切なげに耳元でささやかれても、私は口を押さえたまま首を振り、彼の欲求をはね除ける。
声を上げたとたん、波にのまれてしまいそうで怖かった。
のみ込まれて、流されて……全てをあやふやにされてしまうのが嫌だった。
「何故……」
彼は悲しそうな声でつぶやくと、突然、私の腰を持ち上げてその場に立たせた。
そして背後から覆い被さり、私の上半身を、うつ伏せの状態でテーブルに押し付ける。
「や…っ! なにするのギルっ?」
彼は答えないまま耳たぶにキスし、耳の周りを、中を舐め上げ、再び首の付け根からうなじへと、順々にキスを落として行く。
「イ、ヤ……っ!……も……やめてっ。……ど……して、すぐ……こんなっ、こと……っ」
気が付くと、涙が溢れていた。
溢れた涙は、ポタポタとテーブルに落ち、幾つも幾つも、クロスにシミを作る。
それでも、私の涙に気付いているはずの彼が、行為をやめてくれる気配はなかった。
「リア……! リア、許してくれ。共にいられる期限が迫っていると思うと、どうしても衝動を抑えられない。……君が欲しい。こうして、話している間も惜しいと感じるほど、君が欲しくて堪らないんだ!」
彼の手が、ボタンを外すために胸元へと伸ばされる。私はそれを阻止するため、テーブルに強く体を押し付けた。
「いや……イヤッ! やめてギルっ! お願いっ!」
「ダメだ! 止められない!……止まらないよ。もう手遅れなんだ!」
彼の腕が私の腰を抱え、テーブルから引き離すように持ち上げられる。
私の体は簡単に宙に浮き、その隙に、彼の右手が胸とテーブルの間に入り込んで来て、素早くボタンが外されてしまう。
「や…っ!……イヤ! イヤっ! こんなのヤダぁああッ!」
胸元を両手で隠し、私は夢中で叫んだ。
だけど、それすら無視して、彼は両手で襟元をつかみ、胸の下辺りまでネグリジェを引き下ろす。
「ひぁッ!?」
すかさず背中を強く吸われ、繰り返し繰り返しキスを受ける。
いつもなら、恥ずかしいながらも嬉しいはずのその行為が、今はただ、裏切りにしか思えなくて……。
刺激を感じるたび、両目から涙がこぼれた。
……どーして?
どーして、私……こんなに悲しいの?
ギルのことは、変わらず好きなはずなのに。
ずっと好きなままなのに。
彼がそうしたいって望むなら……彼のことが好きなら、全部、受け入れられるはずなのに。
たとえ強引だって、自分勝手だって、いつもなら許せてるはずなのに――!
なのに今は……どーしてなの?
悲しくて、辛くて堪らないよ……。
「リア……。好きだ。好きだ。好きだ! 君は私だけのものだ。誰にも……他の誰にも渡しはしない!」
私の体をいとも簡単に裏返し、仰向けにすると、彼は首筋に顔を埋めた。
続けて、彼の手が胸元に触れた瞬間、
「い――っ、やぁああああッ! ああああッ!! あああああーーーーーッ!!」
無意識のうちに絶叫していて、彼は弾かれたように、私から体を離した。
「……リア……」
呆然とつぶやく、彼の声が聞こえたような気がしたけど。
私はただただ、無我夢中で叫び続けた。
そうすれば、誰かが助けに来てくれるなんて、思ってたワケじゃない。
そうすれば、彼が行為を止めてくれる――なんて、計算があったワケでもなかった。
ただ、悲しくて。
どうしようもなく、悲しくて……。
気付いたら、叫んでしまっていた。




