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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第16章 すれ違いを乗り越えて

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第7話 暴走

 二人共、相手が何か言ってくれるのを、待ってたんだと思う。


 だけど、掛けるべき言葉がなかなか見つけられなくて、私達は、かなり長い間押し黙ったままだった。

 すると、


「ヒ…ッ!」


 突然、首筋にしびれが走り、私の体はビクンと跳ねた。

 その感覚が治まらないうちに、ギルがうなじに強めのキスをして来て、私は堪らず身をよじる。


「や――っ!……ん……や……っ、めて――っ」


 イヤイヤをするように首を振っても、彼はやめてくれなかった。

 首の付け根辺りからうなじに向かい、舌先だけを軽く触れるようにしながら、焦らすように舐め上げて行く。

 ゾクゾクとした甘いうずきに、私は反射的に両目を閉じて、全身に力を込めた。


 そうして、私が必死に耐えている間にも。

 彼は何度も、うなじに軽くキスをしたり、強く吸ったり、舌先でくすぐるように舐めたりと、行為に強弱を加えながら責め立てて来る。


 快感の波が襲うたびに、私は両手で口元を覆い、声が漏れそうになるのを必死に堪えていた。


「……リア。声を聞かせてくれ。君の声が聞きたい」


 切なげに耳元でささやかれても、私は口を押さえたまま首を振り、彼の欲求をはね除ける。

 声を上げたとたん、波にのまれてしまいそうで怖かった。

 のみ込まれて、流されて……全てをあやふやにされてしまうのが嫌だった。


「何故……」


 彼は悲しそうな声でつぶやくと、突然、私の腰を持ち上げてその場に立たせた。

 そして背後から覆い被さり、私の上半身を、うつ伏せの状態でテーブルに押し付ける。


「や…っ! なにするのギルっ?」


 彼は答えないまま耳たぶにキスし、耳の周りを、中を舐め上げ、再び首の付け根からうなじへと、順々にキスを落として行く。


「イ、ヤ……っ!……も……やめてっ。……ど……して、すぐ……こんなっ、こと……っ」


 気が付くと、涙が溢れていた。

 溢れた涙は、ポタポタとテーブルに落ち、幾つも幾つも、クロスにシミを作る。


 それでも、私の涙に気付いているはずの彼が、行為をやめてくれる気配はなかった。


「リア……! リア、許してくれ。共にいられる期限が迫っていると思うと、どうしても衝動を抑えられない。……君が欲しい。こうして、話している間も惜しいと感じるほど、君が欲しくて堪らないんだ!」


 彼の手が、ボタンを外すために胸元へと伸ばされる。私はそれを阻止するため、テーブルに強く体を押し付けた。 


「いや……イヤッ! やめてギルっ! お願いっ!」

「ダメだ! 止められない!……止まらないよ。もう手遅れなんだ!」


 彼の腕が私の腰を抱え、テーブルから引き離すように持ち上げられる。

 私の体は簡単に宙に浮き、その隙に、彼の右手が胸とテーブルの間に入り込んで来て、素早くボタンが外されてしまう。


「や…っ!……イヤ! イヤっ! こんなのヤダぁああッ!」


 胸元を両手で隠し、私は夢中で叫んだ。

 だけど、それすら無視して、彼は両手で襟元をつかみ、胸の下辺りまでネグリジェを引き下ろす。


「ひぁッ!?」


 すかさず背中を強く吸われ、繰り返し繰り返しキスを受ける。


 いつもなら、恥ずかしいながらも嬉しいはずのその行為が、今はただ、裏切りにしか思えなくて……。

 刺激を感じるたび、両目から涙がこぼれた。



 ……どーして?

 どーして、私……こんなに悲しいの?


 ギルのことは、変わらず好きなはずなのに。

 ずっと好きなままなのに。

 彼がそうしたいって望むなら……彼のことが好きなら、全部、受け入れられるはずなのに。


 たとえ強引だって、自分勝手だって、いつもなら許せてるはずなのに――!



 なのに今は……どーしてなの?

 悲しくて、辛くて堪らないよ……。



「リア……。好きだ。好きだ。好きだ! 君は私だけのものだ。誰にも……他の誰にも渡しはしない!」


 私の体をいとも簡単に裏返し、仰向けにすると、彼は首筋に顔を埋めた。

 続けて、彼の手が胸元に触れた瞬間、


「い――っ、やぁああああッ! ああああッ!! あああああーーーーーッ!!」


 無意識のうちに絶叫していて、彼は弾かれたように、私から体を離した。


「……リア……」


 呆然とつぶやく、彼の声が聞こえたような気がしたけど。

 私はただただ、無我夢中で叫び続けた。



 そうすれば、誰かが助けに来てくれるなんて、思ってたワケじゃない。

 そうすれば、彼が行為を止めてくれる――なんて、計算があったワケでもなかった。


 ただ、悲しくて。

 どうしようもなく、悲しくて……。


 気付いたら、叫んでしまっていた。

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