第4話 ザックスへの手紙
そーだ、そーだよ!
手紙だ!!
ザックスに、イサークとニーナちゃんのことをお願いするための手紙を、急いで書いて送らなきゃいけないんだった!
うわ~~~っ、どーしよー!?
今からでも間に合うかな!?
……最悪の場合。
間に合わなかったとしても、シリルが一緒なんだから、そこまで困ったことにはならないと思うけど……。
「ギル、ごめん! 至急、ザックスに手紙書かなきゃいけないんだった! どこかに紙と――あと、なにか書くものない? ペンでも筆でも、なんでもいーんだけど」
――って言っても、この世界には、さすがに筆はないだろうな……。
とにかく、書けるものならなんだっていーのよっ!
紙とペン!
早く用意してっ! 早く早くぅうーーーーーッ!!
「手紙?……ああ、そうか。そう言えば、私も忘れていた。ザックスに、書状を送らなければならないんだったね」
「うん、そう! 城に着いたら、すぐ書こうって思ってたのに、うっかり忘れてて……。ごめん。やっぱり私、相当なうっかり者だわ……」
落ち込んで、ガックリと肩を落とす。
「まあ、そんなに落ち込まないで。大丈夫だよ。シリル達が城に着くのは、たぶん、明日辺りだろうし……。書状も、今夜中に出せば、朝には届くだろう。何も心配いらないよ」
彼は元気付けるようにニコリと笑い、明るい声で励ましてくれる。
「ホント? まだ間に合う?」
「ああ、間に合うよ。問題ない」
「そっか。よかったぁ……」
ホッと胸を撫で下ろしてから、改めて、紙とペンをお願いすると、彼は素早く立ち上がり、ベッド脇の机に向かった。
引き出しを開け、一枚の上質そうな紙と、ペンとインク壺のようなものを両手に持って、こちらに戻って来ると、私の前に並べた。
「これでいいかい? 一枚では足りないようなら、また持って来るが――」
「ううん、これで充分。ありがとう、ギル」
私は早速、ペン先をインクに浸し、セバスチャンへの手紙を書き始めた。
こうして、当たり前のように、こっちの世界の読み書きも出来ちゃう――ってのが、未だに不思議で堪らないけど。
……まあ、出来るものは出来るんだから、しょーがないよね。
たぶん、あっちの世界では、桜さんも同じような経験をしてるはずだし……。
私が思うに。
桜さんがこっちの世界で得た知識と、私があっちの世界で得た知識。
それらがすっかり、入れ換わっちゃった。もしくは、記憶を共有出来てる……ってことなんじゃないかなぁ?
だから、こっちの世界にいきなり戻って来ても、話すのも書くのも、全く不自由せずに済んでるってゆーか……。
どんな方法を用いたら、そんなことが可能になるのか。
仕組みはさっぱりわからないけど、これが、本当に神様の力で起こったことなんだとしたら。
やっぱり、神様ってすごい存在だったんだなぁって、つくづく感動しちゃうんだよね。
……神様。あっちの世界に、無事着けたかな?
桜さんに、ちゃんと会えてたらいいなぁ……。
神様のことを考えたら、なんだか、しんみりしそうになっちゃったけど。
どうにか手紙を書き終え、私はホッとして息をついた。
それから、紙を細長く折りたたみ、ウォルフさんが来た時に渡そうと、テーブルの隅に置く。
これで、もう大丈夫!
ちょこっと(?)遅れちゃったけど、まだ間に合うって、ギルも言ってくれてるし。
でも……手紙を受け取ったら、セバスチャン、ビックリするだろうなぁ……。
いきなり二人も、ザックスに受け入れてくれ、ついでに城で雇ってあげてくれ――なんて言われても、困っちゃうだろうけど。
……そーだ。
他国の人を受け入れてほしいなんて、こんな重要なこと……お父様とか、国の許可とかも、当然必要なんだろうし。
あっちに戻ったら、セバスチャンはもちろんだけど、先生にも、こっぴどく叱られるだろうな。
……うぅっ。
今から覚悟しておかなきゃ……。
先生の顔を思い浮かべたら、背筋がヒヤッとしてしまったけど。
私はふるふると首を振り、先生の記憶を、ムリヤリ脳内から追い出そうとした。
……まあ、そんなことをしても。
強烈な先生の記憶を追い出すことなんて、出来るワケないんだけどね。




