表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/225

第13話 罠にかかった姫

 再びウォルフさんが出て行ってしまって、部屋には私とギルだけが残された。

 私はテーブルの前で固まったまま、長い沈黙にひたすら耐えていたんだけど……。


「リア」

「はっ、はいっ!?」


 突然名前を呼ばれて、思わず身構える。

 そんな私を、ギルは傷付いたような顔で見つめると。


「先ほどはすまなかった。君を怖がらせるつもりはなかったんだ。だが……君の気持ちより、己の気持ちを優先してしまったことは事実だ。本当に、申し訳ないと思っている」


 さすがに反省したのか、ションボリとうつむいてしまった。


「あ……。そんな、あんまり気にしすぎないで? 確かに、ちょっと怖かったけど……でも、怒ってるワケじゃないからっ」


 焦って答える私に、ギルは僅かに顔を上げ、不安そうに訊ねる。


「……本当に? 私を許してくれるのかい?」

「だ、だから、許すも何も、怒ってるワケじゃないんだってば。もう大丈夫だから……」

「しかし、君は名を呼んだだけで、(おび)えるように身をすくめただろう? それはまだ、私を怖がっている証拠ではないのかい?」

「そ、それは……。ずっと黙り込んだ状態で、いきなり名前呼ばれたりしたら、誰だって驚くでしょ? それだけだよ。怖がってなんかいないってば」

「……本当に、それだけ?」

「ホントのホントにそれだけっ!!」


 キッパリ言い切っても、まだギルは沈んだ顔でうつむいて……。


「あーもうっ! しょーがないなぁ!」


 いー加減イラッと来て、私はテーブルに両手をつき、ガタタっとわざと音を立てて立ち上がった。

 ギルの側まで歩いて行って、膝の上に置かれている手に、自分の両手を重ねる。


「ほらっ、怖がってなんかいないでしょ? これでちゃんとわかったよね?」

「……リア……」


 ギルはそっと私の手を握ると、ゆっくりと顔を上げ……見覚えのある、極上の微笑みを……。



 こ……この笑顔、は……。



 全身の血が、サーっと引いて行くのを感じた。

 でもその時には、ギルは私の片手を取って思い切り引っ張り、私を自分の膝に座らせることに成功していた。

 後ろからギュッと抱き締めて来ると、


「フフッ。つーかまーえたっ」


 まるで子供みたいに、はしゃいだ声を上げる。


「……ギル……。あなたって人は……いったい、どこまで……」


 またしても、簡単に(わな)に掛かってしまった自分に、ガッカリするやら。

 ()りもせず、卑怯(ひきょう)な罠を仕掛けて来るギルに、呆れるやらで……。

 私はもはや、怒る気力さえ失っていた。


「ああ……。こうして後ろから抱き締めている方が、より強く感じる。君はいつも、良い香りがするね」


 ぎゅむむと抱き締められたまま、耳元でささやかれ、瞬時に顔が熱くなる。


「なっ、なにバカなこと……! モコモコの泡で全身洗ったばっかりなんだから、いい香りがするのは、その泡のせいに決まってるでしょっ!!」

「いや。それだけではないよ。こうして君を抱き締めるのは、何度目になるか、よく覚えていないが……。いつだって、君は良い香りがしていたからね」

「そっ、そんなことは今、どーでもよくてっ!――ギルっ、あなたさっき、『頭を冷やして来る』って言って出て行って、帰って来たばかりじゃない! なのに、なんなのこれはっ!? 全ッ然、頭冷えてないじゃないのっ!!」


 ムダだとは知りつつも、私は、どうにかしてギルの腕から逃れようと、ジタバタもがいてたんだけど……。

 余裕で押さえ込んで、彼はくすりと笑った。


「いいや、冷やして来たよ? 冷やした上で考えたんだ。君に怖がられることなく、自分の欲求を叶えるためには、どうしたらいいのかを……ね」


 唇が耳に当たるほどの距離での、(あや)しいささやき。瞬間クラっとして、体中から、一気に力が抜けそうになる。

 それを懸命に堪えつつ、私はドキドキしながら訊ねた。


「よ、欲求を叶えるため……って……。どっ、どーゆー……こと?」

「……うん。怖がられてしまうのは、やはり……君が、こういうことに慣れていないせいだと思うんだ。だから、恐怖心をなくすためには、こうやって、触れ合う機会を少しずつ増やして行くしかない、という結論に達したんだよ」



 な……何が、『という結論に達した』よっ!?

 勝手に結論出さないでッ!!



「ね? これから毎日、少しずつこういう機会を設けて……もっと、お互いわかり合おう? そうすれば、怖いなんて思わなくなるから」


 そう言った後、ギルは私のうなじに、チュッとキスをした。


「ひゃ…っ?」


 背筋がゾクゾクッとして、思わず声が漏れてしまう。


「もうっ、ギルのバカっ! こんなことして……またウォルフさんが戻って来たら、叱られるに決まってるんだからっ! それが嫌だったら、早く、こんな悪ふざけは――」

「問題ないよ。ドアには鍵を掛けたから」

「……え?」


 固まる私に、ギルは再び、耳元で妖しくささやいた。


「ドアには鍵を掛けたから、ウォルフは入って来られない。当分、この部屋は……私とリアの二人きりだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ