第2話 甘く切ないお仕置き
彼の言うところの『お仕置き』――熱いキスを受けながら。
私は彼の体に組み敷かれ、ろくに抵抗も出来ないような状態で、ギュウっと目をつむっていた。
「……リア。このまま続けても、いい……?」
耳元で艶っぽくささやかれ、ゾクゾクした感覚が全身を駆け巡る。
彼は返事を待つこともせず、私の耳の形に添って舌を這わせてから、耳たぶを甘噛みして来た。
「――っ、ん……。だ……ダメ……っ! ダメダメっ! ダメだってばぁっ!」
思いっ切り拒否したのに、いっこうにやめてくれる気配がない。
「ギル…っ! ダメっ……だって……言っ……てる、のに……」
「ダメ?……どうして?」
ささやくように訊ねると。
彼は首筋へと唇を移動させながら、上から下へと、軽く触れるだけのキスを落として行く。
「だ……、あっ、だっ……て、まだ朝……っ!……ん、んっ――」
「……知らないの? もう、昼近いよ?」
「ひ――っ、る……だとっ、しても……。な……尚、更……ウォルフさん……が……。――あっ!」
少し強めに首筋を吸われ、体にビリッとしびれが走る。
私はいやいやをし、涙目で彼を見上げて、『もうやめて』と訴えた。
「ウォルフには、しばらく遠慮するように言ってある。だから……当分来ないよ」
魅惑的に微笑んで、彼は再び耳元に口を寄せると、意地悪くささやいた。
「さあ、どうする?」
そんな――!
それじゃ……今日はウォルフさん、助けに来てくれないってこと?
絶望的な気分になって、私の両目からは、とうとう大粒の涙がこぼれ落ちた。
「リア!」
何故か、今度はギルの方が、泣き出しそうな顔になって、私を見下ろす。
「そんなに、嫌……?」
そっと片手を手首から離すと、彼は私の髪をすくように撫で、悲しげな声で問い掛けて来る。
私は微かに首を振ることで、彼の言葉を否定した。
「そうじゃ……ない。……そうじゃない、けど……。でも……」
「でも……?」
……わかんない。
自分の気持ちが、本当によくわからないの。
ギルがイヤなワケじゃない。
……ホントに、そんなんじゃないんだけど。
……でも。
最近、どーしていっも、こんな風になっちゃうのかなって……。
これからも、こんなことばっかりになっちゃうのかなって、ちょっと、怖くて……。
体だけを求められてるのかなって、なんだか、切なくなっちゃったりも、して……。
ギルが好きなのに……。
大好きなのに、こんなこと考えたり、疑っちゃうような私は……やっぱり変なのかなって、思ったりも……して……。
なんだか頭が……ごっちゃに、なって……。
「……よく、わかんない……」
考えた末、ようやくそれだけ伝えると、再び涙がぽろぽろとこぼれて来た。
勝手に溢れては、こぼれ落ちる涙を、彼の指先が、優しく拭ってくれる。
私を愛おしむように注がれる眼差しは、少し寂しげに揺れていた。
「わかったよ。……もう何もしない」
そう言って、彼はぎこちなく笑みを浮かべると、私の体を抱き起こした。
それから、両手で私の左手を包み込むように握って、指先にそっとキスを落とす。
「すまない。泣かせるつもりはなかったんだが……。ダメだな私は。少しでも、心に不安や迷いがあると、君を求めずにはいられなくなる……」
「ギル……。あっ、あの……ごめんなさい。嫌なワケじゃないの。……嫌なワケじゃ、ないんだけど……」
「いいよ。無理に説明しようとしなくても。わかっているつもりだから。……君が心配だったのは、本心だったはずなのに……。すぐに君を求めたりした、私が無神経すぎたんだ」
彼は自嘲気味に薄く笑って、私の頭を数回撫でた。
「さあ、ではどうしようか? 昼食には、まだ少し時間があるし……。そうだ。今朝の話でも、詳しく聞かせてもらおうかな?」
「今朝の……話?」
「そう。今朝、父上とどんな話をしたんんだい? あの人のことだから、気の利いた話などは出来なかったんだろうが……よかったら、聞かせてくれないか?」
ホントは、どうしても聞きたいってワケでもないんだろうけど……。
その場の雰囲気を変えるために、わざと別の話を振ってくれたことを察して、私は小さくうなずいた。




