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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第16章 すれ違いを乗り越えて

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第1話 心配性な恋人

 誰かに呼ばれた気がして、うっすらと目を開けると。

 心配そうに覗き込む、二つの瞳が目に入った。


「リア!……よかった。目を覚ましてくれて。……大丈夫かい? どこか痛むところはない? 何か欲しいものがあるなら、遠慮なく言ってくれ。すぐに用意させるよ」

「……ギル……?」


 彼はホッとした表情で私を見下ろしたまま、片手で私の左手を握り、もう片方の手で、優しく頭を撫でてくれていた。


「私……どーして……」



 確か、朝食を……国王様と……。



「突然、椅子から床へ倒れ込んだそうだよ。……覚えていないのかい?」

「……椅子、から……?」



 ……そっか。

 そー言えば、急にめまいがして……すごく、苦しくなって……。

 それから……なんか、目の前が……いきなり……真っ暗に……。



「気絶……しちゃったのかぁ……」


 ぼんやりしたままつぶやくと、握られている手に、微かな痛みが走った。

 思わず顔を歪め、ギルの方へ目をやると。

 彼は、私の左手を包むようにして握り締め、そこに額を当てて、祈るような格好でうつむいていた。


「ギル?……どーしたの?」

「…………怖かった」


「え?……怖い?」


 『何が?』と発するより先に、彼は私を素早く抱き起こし、何も言わずに抱き締めた。


「ギっ、ギル?……ホントに、どーしたの?」


 驚いて訊ねると、


「怖かった! 怖かったんだ! 君に何かあったら、どうしようかと思った……! ああ、リア! お願いだ。私を一人にしないでくれ! もうどこにも行かないでくれ!」


 今にも泣き出しそうな声で告げ、彼は私に頬ずりし、よりいっそう強い力で抱き締めて来る。

 息苦しさに顔をしかめながらも、私は両手を彼の背に回し、落ち着かせるように撫でながら、なるべく穏やかに話し掛けた。


「どこにも行かないで、って……。また、そんな大袈裟なこと言って。ちょっと気分が悪くなって、気絶しちゃったくらいで、そこまで心配しなくてもいいのに。その言い方じゃ、まるで、今にも死にそうだったみたいじゃない?」



 大事に思ってくれるのは嬉しいけど。

 具合が悪くなるたびに、こういう態度取られちゃったら、うっかり風邪も引いてられないよ。


 ……まったく。ギルってば。

 大袈裟な上に、心配性なんだから……。



 彼の胸に顔を埋めたまま、思わず苦笑してしまった。

 彼は私の肩に手を置き、強くつかんで体を離すと、怖いくらい真剣な瞳で私を見つめ、


「大袈裟だって?――大袈裟などであるものか! 倒れる時、床に激しく体を打ち付けたそうじゃないか! 頭だって打ったと聞いたよ! そんな状態で気まで失って……どうして心配せずにいられると思う!?……大袈裟なんかじゃない! ちっとも大袈裟なんかじゃないよ!」


 怒ってるみたいな強い口調で、私を責め立てる。


「ギル……。でも……私、ホントに……」



 緊張を(ほぐ)すために、朝食をパクパク食べちゃって……。

 苦しくなったのも、たぶん、そのせいだし……。


 とにかく。

 体調が悪くなったとか、病気だとか、そーゆーことじゃ全然ないのに。


 ……なのに、そこまで心配されちゃうと……なんだか恥ずかしくて……。

 めちゃめちゃ、申し訳ない気持ちになって来ちゃって……。


 ……うぅっ。

 すっごく()(たま)れないよぅ……。



「リア……。本当だね? 本当に、問題ないんだね? 痛いところもなければ、気分が悪い訳でもないね?」


 私の頬を両手で挟むと、彼は潤んだ熱い瞳で、じっと見つめて来る。

 瞬間。ドキッとなって、私はしつこいくらい、何度も何度もうなずいてしまった。


「……そうか。よかった」


 そこでようやく、彼は笑顔を見せてくれ、私もホッと息をついたんだけど。

 すぐにまた、真剣な顔に戻って、


「私をこんなに不安にさせるなんて……。悪い子だ。お仕置きをしなければいけないな」


 などと言ったかと思うと、私の後頭部に片手を回し、素早く唇を重ねて来た。


「――っ!」


 不意を突かれて、ビックリした私は、反射的に彼の体を押しやった。

 だけど、当然のことながら、びくともしなくて――。


 彼はそのまま唇を重ね続け、私の片手を取ると、ベッドへと押し倒した。


「んっ!?……ん……んぅっ」


 つかまれていない方の手で、力いっぱい、彼の体を押し返そうとするけど。

 一ミリも離れた感覚がないままに、私は一方的に与えられる彼からのキスを、受け入れ続けなければならなかった。



 もぉおおっ!

 どーしてまた、こんなことになってるのっ!?


 ……だいたい、『お仕置き』ってなんなのよ、『お仕置き』ってッ!?

 私、お仕置きされなきゃいけないようなこと、した覚えないんですけどっ?


 ……まったく!

 本気で心配してくれてる~って感動してたのに……最後にはいっつも、こうなっちゃうんだから!


 もう……ホントに……。

 この人の頭の中、いったい、どーなっちゃってるのよぉおおおーーーッ!?

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