第9話 国王陛下と朝食を・3
口に出しちゃったんだから、今更後には引けないと。
覚悟を決めた私は、自分の思っていることを、国王様に正直に伝えることにした。
「陛下のことを、詳しく知っているワケでもない私が、こうやって口を出すこと自体、とっても失礼で、間違ったことなのかも知れません。でも、それも承知の上で言わせていただきます。陛下は、確かに少し、頼りないところがあるように思えます。ギルもフレディも、似たようなことを言ってましたし……」
「……うん。だろうねぇ。やはり私は、二人にとっては頼りない父親で――」
「でもっ! 二人とも、『頼りない』とか『不甲斐ない』ってことは、口にしたことはあっても、『嫌い』だとか、『父親として最低』なんてことは、一度も言ってませんでした!……私には、フレディの気持ちまではわかりませんけど……少なくともギルは、陛下のことを大切に思ってるはずです。だって、アナベルさ――、アナベル様と、フレディを火あぶりに――なんて、ひどい話になった時、ギルは陛下のお気持ちを察して、止めに入ったんですよね? 陛下にすがるような瞳で見つめられて、『フレディまで巻き込むのはかわいそうだ』って、意見したんですよね? それは、ギルが陛下のことを、大切に思ってるからでしょう?……その時、ギルは……陛下の視線での訴えを、無視することだって出来たんです。冗談じゃないって、突っぱねることも出来たんです。……なのに、そうしなかったのは……ギルが、陛下のことが大好きだからじゃないんですか? とても大切に思ってるからじゃないんですか? 陛下のことが嫌いなら……間接的だったとしても、母親を殺した人の息子をかばうなんて、そんな辛い役割……最初から、引き受けられるワケないじゃありませんか!」
国王様は口をポカンと開けたまま、私を凝視している。
何か反論されるかな? と少しの間待ってみたけど、何も言って来る様子がなかったから、構わず先を続けた。
「陛下は二人から、国王としての資質は認めてもらえてないのかも知れませんけど……でも、父親としては好かれてるはずです! それに、アナベル様は、陛下のことを誰よりも愛してらしたんでしょう?……お世辞にも、正しいと思えるような愛し方ではなかったけど……それでも、罪に手を染めてしまうほどに強く、あなたのことを想ってたんじゃないですか! 陛下はいい伴侶になれなかったとおっしゃってましたけど、アナベル様にとっては、違ったんじゃないですか? 最高の伴侶――かけがえのない人だったんじゃないですか? だから、失いたくなくて……罪を犯してしまったんでしょう?」
「……リナリア姫……」
「ギルのお母様……えっと、セレスティーナ様のことはわかりませんけど……。でも、セレスティーナ様のお気持ちは、セレスティーナ様にしかわからないことですから。陛下をどんな伴侶だと思っていたかは、今更、知ることは出来ませんよね? だから……陛下が『いい伴侶になれなかった』って、後悔するのは自由ですけど、決め付けたりするのはよくないと思います!」
キッパリと告げた後も、私は国王様をまっすぐ見つめ続けた。
ここで目をそらしたりなんかしたら、勇気を出して意見した意味が、なくなってしまうと思ったから。
国王様は、しばらくの間身じろぎもせず、私を見つめ返していたけれど。
ふいに、柔らかな笑みを浮かべて、ため息をついた。
「……まったく、まいったなぁ……。まさか、リナリア姫からお説教されてしまうなんて、夢にも思っていなかったよ」
「えっ?――い、いえっ! 私、お説教なんて……。そんなつもりは、全然っ!」
焦って訂正しようとすると、国王様はクスクス笑って。
「いやぁ、ごめんごめん。忠告――と言った方がよかったかな? それとも、話を聞いての感想を、素直に述べてくれただけと、受け取っておいた方がいいのかな?」
「そ――っ、そーです感想ですっ!……たっ、ただの感想にすぎませんからっ!」
私は大きくうなずいて、『お説教』やら『忠告』やら、そんな偉そうなことじゃないんだ、ということを強調した。
「フフッ。……なるほどねぇ。あのギルフォードが、君の虜になってしまった理由が……今のでなんとなーく、わかってしまったなぁ」
ふむふむと、数回うなずいて。
国王様は、意味深な笑顔を私に向け、いたずらっ子っぽい仕草でウィンクした。
……あ。
今のはちょっと……ギルに、なんとなく似てたかも。
――ってゆーか。
ギルが私の『虜』って……まーた、そんな大袈裟なことを……!
……あぁ。
でも……こーゆーとこも、なんか似てるか……。
……うん。
間違いなく、ギルのお父様だわ。
私は妙に納得して、うつむいたまま、上目遣いで国王様を窺った。




