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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第15章 国王陛下と第一王子

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第8話 国王陛下と朝食を・2

 ルドウィンの朝食メニューは、ザックスとほとんど変わりがなく。

 なんだかホッとしたような、ガッカリしたような……複雑な心境だった。


 それでもやっぱり、パンもスープも、チーズもハムもフルーツも。

 どれもこれも、ため息が出ちゃうほど美味しかったんだけど。



 ……ふむ。なるほど。

 料理人さん達の腕も、ザックスとほぼ互角――ってとこか。


 これまた、ホッとしたような、ガッカリしたような……って、いやっ! 張り合うつもりは、全然ないんだけどねっ?


 ……ん~……。


 こーゆーのも、愛国心ってヤツなのかなぁ?

 張り合うつもりは全くないのに、ちょこっとだけ、悔しいような気もしちゃうんだもんなぁ……。



 あれこれと考えながら、黙々と食べ進めていたら。

 前方から視線を感じて、私は何気なく顔を上げた。


 すると。

 両肘をテーブルの上につき、両手を重ね合わせたところに、顎をちょこんとのせた国王様が、私が食べる様子を、ニコニコと見守っていて……。

 瞬間、口の中のものを、全て吹き出しそうになり、私は慌てて、片手で口元を覆った。 


「ああ……ごめんごめん。君が、あまりにも幸せそうに、次から次へと、食べ物を口に運んで行くものだから。ああ、噂通りだなぁと、思わず見入ってしまってね」



 うっ、噂どーりっ!?


 ……それっていったい、どーゆーことっ!?

 いったい、どこから出た噂なのっ!?


 ……まさかギルが!?

 それとも、ウォルフさんが!?



 めちゃめちゃ恥ずかしくて、グラスに入った飲み物(たぶんフルーツジュース)で、口の中のものを一気に流し込む。

 それから両手を膝に置き、ひたすら縮こまるようにして、私は沈黙してうつむいた。


「ああ……すまないね。もしかして、気に障ったかな?……決して、悪い意味で言ったんじゃないんだよ? 本当に、幸せそうに食べる姿が可愛らしいと、人伝(ひとづて)に聞いていたものだから……。ああ、噂通りだなぁと、嬉しくなってしまったんだ」



 だからっ!

 その『人伝』の『人』って、誰なんですかっ!?



 確認したかったけど、どーしても切り出す勇気が持てず、私は無言でうつむいたまま、しばらく顔を上げられずにいた。

 国王様は、深々とため息をついて。


「ダメだなぁ。……またやってしまったか。いつもこんな風だから、息子二人にも、呆れられてしまうんだろうねぇ。『王の器ではない』と……」


 しょんぼりした様子に、


「そんなっ! 二人とも呆れてなんか――!」


 とっさに反応してしまい、私は顔を上げて、大きく首を横に振った。

 だけど、国王様は寂しげに微笑み、


「いいんだよ。本当のことだから。……昔から、嫌というほど感じていたんだ。私は、王になれるような器ではないとね」

「国王さ――っ、いえ、陛下……」



 特に、卑下(ひげ)してるって感じでもなく。

 全て理解して、受け入れてる……って感じの言い方だった。


 いっそ、清々(すがすが)しい。

 そんな印象さえ、抱いてしまうほどに。



「王らしくない王というのは、自他共に認めるところなんだ。もしも、私と同じ世代に、ダグ……マイヤーズが、生を受けていてくれなかったら……私の近しいところに、生まれてくれていなかったら。きっと私は、王位にはつけていなかったろう」


「マイヤーズ卿……ですか?」

「うん。とても素晴らしい男でね。私の親友なんだ」



 誇らしげに微笑む国王様に、一瞬、ドキッとした。

 もちろん、ときめいたって意味じゃなく……。

 すごく自然に、『親友』とか言えちゃう国王様なんて、素敵だなって思って……。



「だが、彼が素晴らしすぎるがゆえに……私が甘えすぎてしまったんだ。全てにおいて頼りすぎ、いろいろなことを、任せすぎてしまった。だから、他の一族の者に……古くから支え続けてくれていた者達に、不快感や、不信感を与えてしまっていたんだろう。……私は、今回のことが起こってしまうまで、そんなことにすら気付けなかった。まさか、私のせいで……ギルフォードを、何度も危険な目に遭わせていたなんて……。今回のことで、つくづく思い知らされたよ。やはり私には、国を維持して行く力などないのだと。……いや。今までだって、充分わかっていたつもりだったんだが」


 辛そうに告げた後、国王様は、暗い表情でうつむいてしまった。

 国王様の顔から、笑顔が消えてしまったことが悲しくて、私の胸はツキンと痛んだ。


「国だけではない。ギルフォードにとっても、フレデリックにとっても、私は良い父親にはなれなかった。彼らの母親にとっての、良い伴侶(はんりょ)にすら……。私は何ひとつ、まともに維持して行くことが出来ない。不良品のような人間なのかも知れないね」


 寂しそうに、自嘲(じちょう)するような笑みを浮かべる国王様に、堪らず叫んだ。


「そんなことありませんっ! 不良品だなんて……! そんな、自分のことを物みたいに言うのはやめてくださいっ!」

「……え?……リナリア……姫?」


 大きく目を見開いて、国王様は私を凝視する。


 国王様に対して大声を上げるなんて、私ったらと、さすがに後悔したけれど。

 ここまで言ってしまったら、もう後には引けない。


 私は覚悟を決め、まっすぐに国王様を見返した。

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