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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第15章 国王陛下と第一王子

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第7話 国王陛下と朝食を・1

 国王陛下――ギルのお父様を前にしての、私の第一印象は、



 うわぁ……。

 なんだか優しそうで穏やかそうな……癒し系パパ、って感じの人だなぁ……。



 ――だった。


 失礼かも知れないけど、うちのお父様とは全く違うタイプ。

 『威厳(いげん)』とか『貫禄(かんろく)』とか『カリスマ性』とか、そういう言葉とは一切無縁な雰囲気ってゆーか……。


 とにかく、親近感さえ抱かせてしまうような、柔らかで温かなオーラをまとった人だった。


 顔立ちも、ギルともフレディとも、あんまり似てなくて。

 また違ったタイプの美形(美中年?)――って感じかな。


 何より、私が拍子抜けしてしまったのは。

 国王様の第一声が、


「うわぁ……これはこれは。すっかり綺麗になっちゃったねぇ、リナリア姫。数年前会った時は、まだまだ幼い女の子だったのに。……うん。これじゃあ、ギルフォードがメロメロになっちゃうのも、無理ないねぇ」


 ……とゆー、〝久し振りに会った親戚のおじさんが、姪に掛けるような言葉と、大差なかったから〟だった。



 ……しかも、『メロメロ』って……。

 国王様が、『メロメロ』って……。


 言葉のチョイスが、その……なんてゆーか……。



 呆気に取られて、入り口付近で固まってしまっていた私に向かい、国王様はニッコリと笑い掛け、


「さあさあ、早くこちらへいらっしゃい。君としたい話が、山ほどあるんだ」


 そう言って、片手を上げて手招きした。


「……リナリア姫様。陛下がお呼びでございますよ」


 国王様においでおいでされても、まだボーっとしてしまっていた私は。

 耳元でアセナさんにささやかれ、ようやく我に返った。


「あ……。はっ、はいっ!」


 慌ててドレスを両手で摘まみ、床からちょこっと浮かせると。

 裾を足で踏み付けてしまわないように、充分注意しながら、そろそろと、国王様が指し示す席に近付く。


 国王様との朝食ってくらいだから、



(きっと、長ーーーいテーブルの端と端に、向かい合わせで座らせられたりするんだろうなぁ……。大きな声で話さなきゃ聞こえないくらい、距離があったりするんだろうなぁ……)



 って、思ってたんだけど。


 意外にも、ギルの部屋にあるような、そこまで大きくない円形のテーブルで、向かい合わせの席ではあっても、距離はめっちゃ近かった。



 ……うぅ……。


 これはこれで、緊張するなぁ……。

 食事時のギルとの距離と、あんまり変わらないじゃない。



 ドキドキしながら、指し示された席まで来たものの。

 さっさと座るワケにも行かず、椅子の横でモジモジしていたら、アセナさんが椅子を引いてくれて。


「こちらへお座りください、リナリア姫様」

「は、はいっ」


 言われるがままに着席すると、国王様は、


「昨夜のメニューは、気に入ってくれたかい? 嫌いなものはなかった?」


 緊張をほぐそうとしてくれているのか、優しく微笑み掛け、穏やかな声で訊ねて来た。


「あっ、はいっ! 昨夜のお食事は、どれも素晴らしく美味しくて、かっ、感動いたしましたっ!」


 カチンコチンになったまま返答する私に、国王様は、満足そうにうんうんとうなずく。


「そう。それはよかった。嫌いなものばかりだったらどうしようと、少し心配だったんだよ。君の好みも、把握していなかったからね」

「わ、私っ。あまり、嫌いなものとかはないですっ。……あ。ゲテモノ系はちょっとダメかもですけど、それ以外なら、結構何でも食べます!」


「……ゲテモノ……系?……ええと、それは……どういうもののことかな?」


 きょとんとした顔で首をかしげる国王様を見て、私は内心『やっちまった』と冷や汗をかいた。



 もしかして、また……日本語使っちゃったのかな……?

 〝ゲテモノ〟は、この国の言葉にはない――ってことよね?


 うぅ……っ、マズいマズい。

 ちゃんと覚えとかなきゃ……。



「え……え~っと……。た、たとえば……む、虫……とか、ですかね?」

「虫!?……君の国では、虫を食べるのかい?」


「え?――あ、いえっ! こ、これは、その……。いっ、異国の話ですっ、異国の! ど、どこかの小さな国で、虫を食べる民族がいるって……き、聞いたことがあって。そ、それで――」


 思い切り焦って、とっさに、そーゆーことにしちゃったんだけど。

 国王様は、素直な性格の人らしい。すんなりと納得してくれた。


「ああ、なるほど。そう言えば、私も聞いたことがあったなぁ。あまりに昔のことで、忘れてしまっていたよ。……う~ん、虫かぁ。確かに、それはちょっと……私も食べられそうにないかな?」

「でっ、ですよね?」


 アハハハハと、笑ってごまかす。


「ああ、いけない。のんびり話をしていては、せっかくの料理が冷めてしまうね。――それでは、いただくとしようか。昨夜ほどのものは、用意出来なかったけれど。……まあ、朝からあれだけの品数を出されても、君も困ってしまうだろうしね」

「あ……。は、はい。……そうです、ね……」



 いやいやいや。

 意外と、朝からガッツリ食べられちゃったりするんですよ、私?



 なんて、心で答えつつも。

 食い意地の張った娘だと思われたくなかったから、もちろん、口にするのはやめておいた。

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