第7話 国王陛下と朝食を・1
国王陛下――ギルのお父様を前にしての、私の第一印象は、
うわぁ……。
なんだか優しそうで穏やかそうな……癒し系パパ、って感じの人だなぁ……。
――だった。
失礼かも知れないけど、うちのお父様とは全く違うタイプ。
『威厳』とか『貫禄』とか『カリスマ性』とか、そういう言葉とは一切無縁な雰囲気ってゆーか……。
とにかく、親近感さえ抱かせてしまうような、柔らかで温かなオーラをまとった人だった。
顔立ちも、ギルともフレディとも、あんまり似てなくて。
また違ったタイプの美形(美中年?)――って感じかな。
何より、私が拍子抜けしてしまったのは。
国王様の第一声が、
「うわぁ……これはこれは。すっかり綺麗になっちゃったねぇ、リナリア姫。数年前会った時は、まだまだ幼い女の子だったのに。……うん。これじゃあ、ギルフォードがメロメロになっちゃうのも、無理ないねぇ」
……とゆー、〝久し振りに会った親戚のおじさんが、姪に掛けるような言葉と、大差なかったから〟だった。
……しかも、『メロメロ』って……。
国王様が、『メロメロ』って……。
言葉のチョイスが、その……なんてゆーか……。
呆気に取られて、入り口付近で固まってしまっていた私に向かい、国王様はニッコリと笑い掛け、
「さあさあ、早くこちらへいらっしゃい。君としたい話が、山ほどあるんだ」
そう言って、片手を上げて手招きした。
「……リナリア姫様。陛下がお呼びでございますよ」
国王様においでおいでされても、まだボーっとしてしまっていた私は。
耳元でアセナさんにささやかれ、ようやく我に返った。
「あ……。はっ、はいっ!」
慌ててドレスを両手で摘まみ、床からちょこっと浮かせると。
裾を足で踏み付けてしまわないように、充分注意しながら、そろそろと、国王様が指し示す席に近付く。
国王様との朝食ってくらいだから、
(きっと、長ーーーいテーブルの端と端に、向かい合わせで座らせられたりするんだろうなぁ……。大きな声で話さなきゃ聞こえないくらい、距離があったりするんだろうなぁ……)
って、思ってたんだけど。
意外にも、ギルの部屋にあるような、そこまで大きくない円形のテーブルで、向かい合わせの席ではあっても、距離はめっちゃ近かった。
……うぅ……。
これはこれで、緊張するなぁ……。
食事時のギルとの距離と、あんまり変わらないじゃない。
ドキドキしながら、指し示された席まで来たものの。
さっさと座るワケにも行かず、椅子の横でモジモジしていたら、アセナさんが椅子を引いてくれて。
「こちらへお座りください、リナリア姫様」
「は、はいっ」
言われるがままに着席すると、国王様は、
「昨夜のメニューは、気に入ってくれたかい? 嫌いなものはなかった?」
緊張をほぐそうとしてくれているのか、優しく微笑み掛け、穏やかな声で訊ねて来た。
「あっ、はいっ! 昨夜のお食事は、どれも素晴らしく美味しくて、かっ、感動いたしましたっ!」
カチンコチンになったまま返答する私に、国王様は、満足そうにうんうんとうなずく。
「そう。それはよかった。嫌いなものばかりだったらどうしようと、少し心配だったんだよ。君の好みも、把握していなかったからね」
「わ、私っ。あまり、嫌いなものとかはないですっ。……あ。ゲテモノ系はちょっとダメかもですけど、それ以外なら、結構何でも食べます!」
「……ゲテモノ……系?……ええと、それは……どういうもののことかな?」
きょとんとした顔で首をかしげる国王様を見て、私は内心『やっちまった』と冷や汗をかいた。
もしかして、また……日本語使っちゃったのかな……?
〝ゲテモノ〟は、この国の言葉にはない――ってことよね?
うぅ……っ、マズいマズい。
ちゃんと覚えとかなきゃ……。
「え……え~っと……。た、たとえば……む、虫……とか、ですかね?」
「虫!?……君の国では、虫を食べるのかい?」
「え?――あ、いえっ! こ、これは、その……。いっ、異国の話ですっ、異国の! ど、どこかの小さな国で、虫を食べる民族がいるって……き、聞いたことがあって。そ、それで――」
思い切り焦って、とっさに、そーゆーことにしちゃったんだけど。
国王様は、素直な性格の人らしい。すんなりと納得してくれた。
「ああ、なるほど。そう言えば、私も聞いたことがあったなぁ。あまりに昔のことで、忘れてしまっていたよ。……う~ん、虫かぁ。確かに、それはちょっと……私も食べられそうにないかな?」
「でっ、ですよね?」
アハハハハと、笑ってごまかす。
「ああ、いけない。のんびり話をしていては、せっかくの料理が冷めてしまうね。――それでは、いただくとしようか。昨夜ほどのものは、用意出来なかったけれど。……まあ、朝からあれだけの品数を出されても、君も困ってしまうだろうしね」
「あ……。は、はい。……そうです、ね……」
いやいやいや。
意外と、朝からガッツリ食べられちゃったりするんですよ、私?
なんて、心で答えつつも。
食い意地の張った娘だと思われたくなかったから、もちろん、口にするのはやめておいた。




