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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第15章 国王陛下と第一王子

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第5話 アセナの忠言

 く…っ、苦しい……。

 苦しすぎるっ!


 なんでわざわざ、ここまで体を締め付けなきゃいけないのっ?


 こんなにウエストを締め付け――ってか、固定されちゃってたら、絶対体によくないよ!

 この姿じゃ、腰を屈めるのだって一苦労……ううん。ほとんど不可能かも知れない。


 ダメだよ!

 こんな超強力補正下着、今すぐ廃止しなきゃ!

 絶対絶対、デリケートな女性の体に、悪影響を及ぼすってば!



 くびれた腰を強調して、少しでも美しく見せようっていう、女性の涙ぐましい努力には、敬服に似た感情さえ抱くけど……。



 でもでもっ、こんなに体に悪いことを続けてくなんて、やっぱりよくないよ!

 いくら〝美しくなるため〟に必要なプロセスなんだと、強く主張されようとも、わたしは大大大大、大反対っ!


 それに……。

 ここまで締め付けられちゃったら、お腹いっぱい食べられないじゃないッ!!



 きらびやかなドレスを着ることが出来た、感動なんかよりも。

 食事を思う存分楽しめないことへの、怒りの方をフツフツとたぎらせていたら、


「とてもお似合いですわ、リナリア姫様。今のそのお姿……フレデリック様には、あまりお見せしたくありませんわね」


 アセナさんがため息まじりに漏らしたセリフに、私はハッと息をのんだ。


「フレディ、目を覚ましたんですかっ? 元気なんですよねっ?」


 思わず早口になって訊ねると、彼女は僅かに首をかしげて。


「さあ……。本当にお元気かどうかまでは、私にはわかりかねますけど。今朝はほんの一瞬だけ、お目覚めになりましたわ」

「そうですか。よかったぁ……。じゃあ、すぐによくなりますよね?」


 目を覚ましたなら、一度、ちゃんとお見舞いに行かなきゃ。

 チラッと思った時だった。


「そうですわね。姫様が、ずっとお側に付いていて差し上げられましたら、たちどころにお元気になられるかも知れませんわ。……私と交代してくださいます?」


 唐突にお願いされてしまい、ちょっと焦った。


「えっ?……あ、あの……。お、お見舞いに行きたいとは、思ってますけど……。でも、ずっとは――」



 ずっとフレディの側に――なんて、ギルが許してくれるとは思えない。


 ……でも、フレディは、あんな重症を負った後なんだし。

 必死にお願いすれば、もしかしたら……。



「無理に決まってますわよね。あなた様は、ギルフォード様の恋人――婚約者でいらっしゃるのですから」


 きちんと返事する前に、アセナさんに『無理に決まってる』と断定されてしまい、私は慌てて、


『お約束は出来ませんけど、一応、ギルにお願いしてみます』


 そう伝えようと思った。

 だけど、


「出来ないとおっしゃるのでしたら、今後一切――とまでは申しませんけど、なるべく、フレデリック様には近付かないでいただけません?……これ以上、あのお方のお心を惑わすようなことは、なさらないでいただきたいのです」


 すかさずピシャリと拒絶され、私は言うべき言葉を失った。


「あなた様に悪気がないということは、充分存じておりますわ。ですが、あなた様が親しい者にお向けになる無邪気な好意は、時に、人を深く傷付ける凶器にもなり得るのだということを、ご理解いただきたいのです。……フレデリック様は、あなた様に、強く惹かれていらっしゃいます。懸命に、お気持ちを抑え込もうとしてはおられますが……。あなた様が、不用意にお優しいことをして差し上げますと……抑えられていた感情が、決壊した川のように、溢れ出してしまうかも知れません。その恐れがあることは……あなた様も、身をもっておわかりのはずですわよね?」  


「――っ!」



 ……アセナさんも、あのことを知ってるんだ……。

 私が、フレディにされたこと……。


 でも、全部?

 全てを知ってるの?



 あの場にアセナさんはいなかったけど、ウォルフさんはいた。

 アセナさんは、フレディ専属の執事なんだから、ウォルフさんから知らされてたって、ちっともおかしくないけど――。


 それとも……フレディから、直接聞いたのかな?



「フレデリック様は、あなた様への想いを、どうにかして断ち切ろうと、努力しておられる最中なのです。そのような時に、あなた様に周りをうろうろされてしまっては、断ち切れるものも、断ち切れなくなってしまいます。ですから、どうか――あのお方のことは、そっとしておいて差し上げてください」


 彼女の顔をしばらくじっと見つめた後、私はぎこちなくうなずいた。


「……わかりました。お見舞いには行きません。……ただ、あの……お大事にと。それだけお伝え願えませんか?」

「はい。確かに(うけたまわ)りましたわ」

「ありがとう、アセナさん」


 ホッとして笑みをこぼすと、ドアをノックする音と、


「アセナ、まだか!? いったい、いつまで手間取っているんだ! もう時間がないぞ!」


 イラついてるようなギルの声がして、代わりに私が返事をした。


「準備出来てるよっ! ごめんね。今行くからっ」


 ドアノブに手を掛け、少しだけ後ろを振り返る。


「着付け、手伝ってくれてありがとう。……それから……フレディを傷付けて、ごめんなさい」


 それだけ伝え、彼女の返事を待たずに外へ出た。

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