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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第15章 国王陛下と第一王子

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第4話 姫がドレスに着替えたら

 今の声、って……。



「アセナ!」

「アセナさんっ?」


 再び、ギルと声が重なった。


 ここからじゃ、当然顔は見えないけど。

 声の主は、アセナさんに違いなかった。


「何故おまえがここにいる!? いったい、誰の許可を得て――っ」

「国王陛下ですけどぉ? 何か文句あるのかしら、ギルフォード様?」


 さらりと返され、ギルは驚いたように、一瞬言葉を失っていた。


「な……っ、ち、父上だと!?」

「ええ、その通りですとも。昨夜のうちに申し付かりましたわぁ~? 『リナリア姫の着付けを手伝ってやってくれ』ってね」


「そ……っ、そんな話、私は聞いていない!――ウォルフ、おまえは知っていたのか?」

「いいえ。私も初耳でございます」


「あぁ~ら、疑うのぉ?……べつにいいのよ、あたしはどっちだって? お姫様がウォルフでいいって言うなら、あたしは引き上げますけどぉ?」

「だっ、ダメッ!! お願いしますアセナさん! 私の着付けを手伝って!」


 ここでアセナさんに帰られてしまったら、いよいよ追い詰められてしまう。

 そう思った私は、慌ててアセナさんを引き留めた。


「……と、お姫様はおっしゃってますけどぉ?」


 そんなセリフの後、しばらく沈黙が続いて……。


「この女に貸しを作らねばならないのは、非常に不愉快だが……仕方がない。リア。アセナならいいんだね?」


 ギルの問い掛けに、私はこくこくと何度もうなずいた。(向こうには見えないってわかってても、つい……)


「うん! アセナさんなら問題ない! だって今日、満月じゃないもん! だから大丈夫っ……なんでしょ?」


 一応、確認のために訊ねると、また少しの沈黙があり、


「わかった。アセナをそちらへ行かせる。――アセナ、くれぐれも余計なことは言うなよ? 至急、着付けと髪結いを済ませ、リアを私の元へ返せ」


 アセナさんに向かって発せられたギルの言葉に、私は『ん?』と首をかしげた。



 『余計なことは言うな』って、どーゆー意味なんだろ?

 私をいじめるな、とか……そーゆー意味なのかな?


 それに……『私の元へ返せ』って言い方も、なんか変じゃない?

 べつに、人質に取られるワケじゃないんだから。たかが着付けと髪結いで、そこまで大袈裟なこと言わなくても……。



 毎度のことながら、彼の大袈裟な物言いには呆れてしまう。


 アセナさんのこと、ハッキリ『嫌いだ』って言ってたし。

 なるべく私には近付けたくなくて、妙に構えた言い方になっちゃうのかも知れないけど。


 ……それにしても。

 信頼度の差が、姉と弟では、かなり激しいよねぇ……。



 ――なんてことを、つらつらと考えているうちに。


 アセナさんが、ドレスとリボンとクシと……あと、あれは……えぇと……なんだろ?

 とにかく、なんだか見たことのない、下着っぽいものを持って、部屋の中に入って来た。


「おはようございます、リナリア姫様。さ~あ、ちゃちゃっと済ませちゃいましょうねぇ~」


 彼女はまず、下着っぽいものを私の上半身に装着させ、くるりと私の体を反転させると、


「そぉ~……ぅれッ!!」


 掛け声と共に、腰の辺りから長く伸びている紐を、力任せに引っ張った。


「い――っ!……イタッ、痛い痛い痛い痛いッ!! 痛いよアセナさんっ!」

「少しのぉ、間ぁ、我慢してぇっ、くださいっ、ませぇっ! これがぁっ、淑女のぉっ、たしなみっ、ですわぁああっ!!」


 声が途切れるたびに、ぐいっぐいっと紐が引き絞られる。

 力任せに体を締め付けられる苦痛で、何度もうめき声が漏れた。


「しゅ……淑女、の……たしな……みぃっ? こっ……これっ、がぁ……っ?」


 言いながら、私は思い出していた。



 そーだ。

 そー言えば、向こうの世界にいた頃、テレビか何かで、観たことがあったっけ。


 昔の外国の女性は、下がほわんと広がったドレスを着る時に、『コルセット』ってゆー、強力な補正下着を使ってたって。

 それで腰をギュギュウッと締め付けて、くびれが際立つようにしてたんだとか……。


 つまりこれは、それと同じようなもので。

 今私は、無理矢理に、腰を締め付けられてるってワケか。



 ……って、ちょっと待って?

 こんなキッツいので、ギュウギュウお腹を締め付けたら……朝食どころの話じゃなくなっちゃうじゃない!


 ううん。

 それどころか、苦しくて辛くて……そのうち、失神しちゃうかも知れない!!



 そんな予感に震え、拷問(ごうもん)のような苦しさに、涙目になっちゃったりしながら。

 私はどうにかこうにか、地獄の時間を耐え抜いた。


 こうして。

 クラクラする頭を、込み上げて来そうな吐き気を、ひたすら堪えている間に。

 アセナさんは私にドレスを着せ、髪を結い、この世界に来てから初めてと言ってもいいくらいの『本物のお姫様』っぽく、私を変身させたのだった。

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