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第12話 完璧執事の打ち明け話

「我が主は、普段から気を張ってお過ごしになられています。常に、ご自身を大きく見せる努力をなさっておいでですので、何事にも、余裕を持って対処しているかのように思われがちなのですが……。その実、とても繊細で、傷付きやすい性質をお持ちのお方なのです。時に、危うささえ感じてしまうほどに……」

「危うさ?」

「はい。私は、あのお方がお生まれになられた時分から、お側で仕えさせていただいておりますので、あのお方のご性質やご気性などは、よく存じ上げているつもりです。ギルフォード様は、姫様がお選びになられるのは、自分ではないと……そのように思い込んでおられました。ですから、姫様にお別れも告げず、こちらに戻っていらした時には、すでに――永遠(とわ)の別れを、覚悟しておいでだったのです」

「え……。永遠の、別れ……?」


 呆然とする私に、ウォルフさんは静かにうなずいた。


「お二人は、一国の王子と王女であらせられますので、公務などの表向きの場では、お会いすることになるのは必然ではございますが……。それでも、私的に会うことは、二度とないだろうと――」



 私的に会うことは……ない……?


 そんな……。

 じゃあ、私がここに来なければ……ギルはもう、自分から会いに来る気はなかった、ってこと?



「姫様は、カイル様をお選びになる。そのように思われた時から、ほとんど諦めておいでだったのでしょう。ですから、尚更……姫様が『会いたかった』とおっしゃった時、即座に舞い上がっておしまいになられたのです。(はた)から拝見しておりましても、姫様がいらっしゃる前と後とでは、まるで別人のように感じられるほど、お心が浮き立っておられます。そのような状態なものですから、先ほども……抑え込んでいたお気持ちが、一度に溢れ出してしまわれたのでしょう」


 言われたとたん、さっきギルにされたことが、脳内でリピートされ……一気に顔が熱くなり、私は慌ててうつむいた。


「……ご安心ください。今頃は、さすがに早急すぎたと、反省していらっしゃるはずです。ギルフォード様は、リナリア様に嫌われてしまうことを、何より恐れておいでですから。怖がらせてしまったことがおわかりになりましたら、二度と、あのようなことはなさらないはずです」



 ……二度と?

 二度となんて、なにもそこまで……。



 ――って、いやっ、だからその――っ!

 わ、私はべつにっ、あ、あーゆーことをして欲しい――とかって、思ってるんじゃなくてッ!!



 ただ……。

 ギルに抱き締めてもらったり、頭撫でてもらったりするのは……恥ずかしいけど、嫌いじゃないし……。

 それだけで、ホッとする時もあるから……。


 それも全部含めて、これからは、ためらわれちゃたりするのかな?……って考えたら、ちょっと……。

 ちょっとだけ、寂しい……ような……。



「リナリア様? お顔が赤く染まっていらっしゃいますが……いかがなさいました?」

「えっ!?――う、ううんっ? なっ――なんでもないですよっ?」

「……さようでございますか。ならばよろしいのですが……」


 怪訝そうに首を傾げるウォルフさんに、慌てて笑ってみせる。

 ……でも、そうしてる間にも……私の心臓は、これでもかというくらい、激しいリズムを刻んでいた。



 あー……危なかった。

 ウォルフさん、勘が鋭そうだから。私の本心、見抜かれちゃうかと思った。


 ……実は、抱き締めてもらいたがってる……なんてことがバレちゃったりしたら、『はしたないですよ』なんて、また叱られちゃいそうだもんね……。



「え……っと、それにしても、ギルったら遅いですね。どこまで頭冷やしに行っちゃったんでしょう?」


 話題を変えたかったのと、ギルがどこまで行ったのか、心配になって来ちゃったこともあり、ウォルフさんに話を振ってみた。


「はい。……私も少々、心配になって参りました。やはり、お一人にさせるべきではなかったかも知れません」


 そう言って、ドアの方を窺うウォルフさんに、つと、違和感のようなものを抱いた。



 いくら仕えてる相手だからって、大の大人の――しかも、男性の一人歩きを、そこまで心配する?

 子供じゃないんだし、生まれた時から住んでる城の中なんだし……私みたいに、方向音痴ってワケでもないんだろうし。


 これはちょっと、さすがに過保護すぎるんじゃ……?



 そんなことを考えていたら、タイミングよくドアが開き、ギルが部屋に入って来た。

 私とウォルフさんの視線が、自分に注がれてることに気付くと、入口付近で、ギクリとした様子で足を止める。


「な……。ど、どうかしたのか? 何故、二人揃って……こちらを見ているんだ?」

「いえ。ギルフォード様のお帰りが遅いのではないかと、リナリア様とお話していた最中でしたので……」

「そうなのか? それほど時が経っているとは思わなかった。心配させてしまっていたなら、すまない」

「ご無事で何よりでございました。次に表へお出でになる時は、私が同行させていただきます」



 ……いやいやいやいや。

 『ご無事で何より』って……『表へお出でになる時は』って……城内なんでしょ?

 大の大人に大の大人が、過保護にも程がある――ってもんじゃない?



 二人のやり取りに、唖然(あぜん)としている私に気付くと、ギルは微かに顔を赤らめ、ウォルフさんを軽く睨んだ。


「ウォルフ、あまり大袈裟に騒ぐな。リアが呆れている」


 ウォルフさんも、ハッとしたように私を振り返り、


「申し訳ございません。これには訳がございまして――」

「ウォルフ!」


 何か説明しようとしたウォルフさんを、ギルが鋭い声を上げて制した。


「余計なことは言わなくていい。……リアは知らなくていいことだ」


 苦々しい顔のギルに、ウォルフさんは素直に頭を下げる。


「申し訳ございません。――かしこまりました」



 ……何? 『これには訳が』って、何かあるの?

 『リアは知らなくていいこと』って……。



 訊きたかったけど、二人の間に流れる空気が、妙に張り詰めている気がしたから、それ以上突っ込んで行けなかった。



 何か事情があるにしても、あからさまに秘密にされるのは……やっぱり、()け者にされてるみたいで寂しいな……。

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