第10話 食後の会話は驚愕と共に
結局、ごちそうはすっかり冷めてしまって、ガッカリしたけど。
『温め直して参りましょうか?』ってゆーウォルフさんの申し出は、丁重にお断りした。
散々彼を無視しちゃった上に、長いことお待たせしちゃった結果だもん。
悪いのはこっちなんだから、更に迷惑なんて掛けられないよ。
それに、ごちそうは、冷めてても充分美味しかったし。
久し振りに、お腹がはち切れそうなほどの満腹感味わえて、幸福な気持ちにもなれたし。
私としては、それでもう充分だった。
ギルはギルで、すっかりいつもの調子を取り戻して、ご機嫌な様子だし……。
……まったく。人騒がせなんだから。
勝手に一人で落ち込んで、ウジウジ考えてたと思ったら。
なんなの、今のあの……ゆるみまくった顔は?
「――ん? どうかしたかい、リア? 私の顔に、何か付いている?」
食後のフルーツを、上品に口に運びながら、彼は微笑して小首をかしげる。
「……ううん。べつに、なんにも付いてないけど。ギルは、つくづく幸せな人だなぁ~って思って、感心してたとこ」
私は私で、食後のケーキを大胆に頬張り、モグモグしてゴックンとのみ込んだ後、呆れ顔でため息をついた。
「幸せ?――うん。それはもちろん、幸せに決まっているよ。愛する人と、これからも共に生きられるということが、確約されたのだからね。その上、ほら――こうして、夕食も共に出来ている。幸せでないはずがないだろう?」
「……う……ん……。そぉ……だね……」
今や、背景にバラとかキラキラした光とかを、わんさか背負わせたくなるくらい、彼はまばゆいばかりに輝いて見えた。
……正直、ちょっとげんなりする。
感情の起伏の激しさに、ついて行けないってゆーか……。
まあ、そりゃあ……ずっとウジウジされてるのも、困りものだけど。
かと言って、こうもわかりやすく、思いっ切り浮上されちゃうとねぇ? それはそれで、疲れるなぁ……なんて。
ギルの中の不安要素が、完全に取り払われたんなら、喜ばしいことではあるんだけど……。
――ん?
不安要素?
「そー言えば……ねえ、ギル。結局、あなたの命を狙ってた人達って、何者だったの? 予想通りの、貴族の三人? それとも、もっと別の人?」
肝心な、事件の結末を訊いてなかったことに、今更ながら気が付いて。
食後の紅茶(っぽいもの)が入ったティーカップを、両手で持ちながら訊ねる。
「ああ……うん。予想通りの貴族達だったよ」
「えッ!? ホントに例の三人だったの!?……だって、それじゃ……。その三人が犯人ってことなら、大変なことになっちゃうって話じゃなかったっけ?」
えっと、確か……いにしえのきずな、だっけ?
昔から王族を守って来てくれたってゆー、貴族さん達の集まり?
その、すごい力を持った人達の半数だかが、今回の事件に関わってたりしたら、かなりマズイことになる……とかって……。
「それが……私を殺そうとしていたのは、本当に、その三名だけだったようなんだ。他には、誰一人として関わってはいないらしい。同一族の者達――三家にも、とっくに確認済みなんだそうだ。……どうやら、今回のことだけではなく、以前、私が狙われた事件の頃から、彼ら三名が関わっているのではないかと、怪しんでいたそうでね。水面下で調べていたらしい」
「ええっ!? 前の事件から怪しんでたの!?……国王様が?」
「……いや。残念ながら父上は……それほど頭が切れる人ではないし、頼りになる人でもないんだよ。彼らを怪しみ、秘密裏に調査を進めていたのは、マイヤーズ卿だそうだ」
「へえ~……? すごい人なんだね、そのマイヤーズ卿って人」
国王様が頼りにならない、ってゆーのは、ちょっと残念ってゆーか、その……いろいろと不安だけど。
側に、そーゆーすごい人が付いててくれてるんなら、心強いし、助かっちゃうよね。
「そうだね。父が国王を続けていられるのも、全て彼のお陰と言っても過言ではないほど、優れた人物ではある。その点は、この国の誰もが認めるところだろう」
「ほぇ~。そこまで切れ者なんだ?……どーゆー人なの、その……マイヤーズ卿って?」
「どういう人と言われても……。そうだな。素晴らしく優秀で、威厳があり、全てにおいて抜かりなく、且つ、狡猾なところもあり……見た目も中身も、父より、よほど国王らしく見える人だよ」
「ええっ?……ちょ、ちょっとギルってば。マイヤーズ卿って人が、いくら優れた人だからって、そこまでズケズケ言っちゃあ、国王様に失礼っても――」
「その上彼は、父の正室のアナベル王妃の兄であり、フレデリックの伯父でもある人だ」
「……へっ?……アナ……ベル……?」
その意味を理解したとたん、私の顔はこわばり、体はピタリと静止した。
アナベルさん……って……。
アナベルって……あの、アナベル……さん?
ギルと……ギルのお母様に、毒を盛っ……いや、盛らせたってゆー……あの……?
あの人のお兄さんっ!?
フレディの伯父さんですって――!?