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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第14章 浮きつ沈みつ

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第5話 救いの執事?

「あ……。ウォ……ウォルフさんが、来た……」


 なんとなくホッとして、起き上がろうとすると。

 ギルは、後ろから押え込むように体を重ね、


「しばらく放っておこう。ウォルフも、今日くらいは遠慮してくれるだろう」


 なんてことを言って、私のうなじにキスを落とした。


「な――っ!……に、言って……。ダメ――っ、だよ……。ウォルフさっ……ん、可哀……そ……」


 逃れようとする私を、彼は覆い被さることで制し、少しも解放してくれない。


「いいんだ。放っておく。いつもいつも、これからという時に限って、邪魔に入るんだからな。わざとやっているのかと、疑いたくなるよ。……まったく」


 不満そうにこぼしながら、彼ははぎ取ろうとするみたいに、両手でネグリジェの襟元をつかんだ。

 『下ろされる』と思った瞬間、


「ダ――っ、ダメぇえッ! やっぱりダメぇええッ!! ウォルフさんっ! ウォルフさぁああーーーんッ!!」


 思わず、叫んでしまっていた。


 私が助けを呼ぶとは、思ってもいなかったんだろう。

 ギルはギョッとしたように手を止め、戸惑いとも狼狽とも取れる声色で、後ろから問い掛けて来た。


「リ、リアっ? どうしたんだい? 急に叫ぶなんて――」

「いかがなさいましたっ、リナリア様!?」


 ウォルフさんの渋い声と共に、ドアが開け放たれる気配がした。

 一泊置いた後、ツカツカという足音が近付いて来て。


「我が君! またしても、あなた様は……そのような不埒(ふらち)な行いを……!」


 『呆れてものが言えない』といった感じで、ウォルフさんは途中で言葉を切った。

 ギルは慌てたように、


「ちっ、違うッ! 無理矢理ではないッ! これは……これはあくまで、合意の上でのことで――っ」

「合意の上……? お言葉ではございますが、そのような状態でおっしゃられましても……いささか、無理があるように思われますが?」


 脱がし掛けていたネグリジェに気付き、ギルはハッと息をのんだ。

 素早く襟元を引き上げ、取り繕うかのように弁解を始める。


「だ、だからこれは――っ!……そ、その……。こ、こういう愛し方もあるんだ! おまえは知らないだろうが、決して妙な行為を強要していた訳ではなく――っ!……そ、そうだろう、リア? 君は、嫌がってなどいなかったよね?」


 救いを求めるみたいに訊ねられ、私はゆるゆると起き上がった。

 ネグリジェの襟を整え、後ろを向いたままボタンを留める。


「さ……最初は、嫌じゃなかった、けど……」

「……けど?」


 ギルとウォルフさんが、声を合わせて先を促す。


「さ……さっきのは、ちょっと、怖くて……。困って、た……」


 ぼそぼそと返事する私を見つめ、ギルはショックを受けたように押し黙り……ウォルフさんは、深々とため息をついた。


「我が君? リナリア様は、このようにおっしゃっていますが……?」


 ウォルフさんにやんわり訊ねられ、ギルもまた、大きくため息をつく。


「ああ、わかっている。……悪いのは、全て私だ」


 ガックリと肩を落とす彼を見て、ちょっと申し訳ない気もしたけど。

 怖いって思っちゃったのは事実だから、私は言葉もなくウォルフさんに視線を移した。

 彼は『わかっております』と言うみたいに、ひとつ小さくうなずくと、


「それはそうと致しまして、ギルフォード様。国王陛下とマイヤーズ卿がお呼びでございます。至急、身だしなみを整えられまして、執務室へお向かいください」


 そう告げて、うやうやしく頭を下げた。

 国王様――ギルのお父様が呼んでるって、ウォルフさんに告げられたとたん、彼は憂鬱そうにため息をつき、


「わかった。面倒だが仕方がない。事が事だからな……」


 沈んだ声で漏らすと、すぐさま部屋を出て行こうとする。


「あ……。ちょっと待って!」


 私は慌てて、彼の手を取って引き留めた。

 怪訝顔で振り向く彼に、不安でいっぱいの気持ちを押し隠しながら、無理して笑いつつ訊ねる。


「あの……。さっき言ってたことだけど……あれは、大袈裟に言っただけだよね? ギルと私が離れ離れになるなんて……そんなこと、ありっこないよね?」

「……リア」


 彼は一瞬、悲しげに顔を曇らせたけど、すぐに微笑し、うなずいてくれた。


「ああ、大丈夫だ。あの時の私は、悲観的に考えすぎていた。今は、君のお陰で落ち着くことが出来たし……もう、弱気になったりはしないよ。絶対に、悲劇は回避してみせる。安心して待っていてくれ」

「……うん。待ってる」



 完全に不安が消えたワケじゃないけど、今は彼を信じよう。

 私がウジウジ考えてたって、何も変えられはしないんだし……。



 彼は私の肩に手を置き、頬にそっとキスすると、落ち着いた足取りで部屋から出て行った。


 閉じたドアをじっと見つめ、両手を胸の前で組み合わせて、私はしばらくその場でたたずんでいた。

 そこにウォルフさんが、


「リナリア様。私はご夕食を用意して参りますので、もうしばらくお待ちください」


 一礼して、そのまま立ち去ってしまうのかと思ったら、数歩先で立ち止まり。


「私としたことが、うっかりしておりました。――申し訳ございません、リナリア様。今宵の夕食は、準備に少々、お時間をいただくことになるやも知れないのです。その間、ただ待っていらっしゃるというのは、お辛いでしょう。いかがですか、湯浴みでもしておられては?」


 『ギルを待ってる間、どうしてようかな?』と考えていたところだったこともあって。


「えっ?……あ、ああ……。うん、そうだね。じゃあ、そうさせてもらおうかな」


 ウォルフさんの提案を受け入れ、私は素直にうなずいた。

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