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第4話 誘う唇

「リア……」


 甘い声でささやくと、ギルは私の片手を取り、親指から人差し指、中指へと、丁寧にキスを落として行く。


 軽くキスされてるだけなのに、妙にドキドキして、体中が熱くなって来てしまう。

 私はどんな顔していいのかわからないまま、ベッドに横たわり、彼がすることをぼんやりと見つめていた。


 唇が、指先から手のひらへ――手首から腕の内側へ、微かに触れながらすべって行く。

 彼はそこで動きを止め、視線を私に流して魅惑的に微笑むと、チュッと音を立ててキスをし、


「次は、どこにして欲しい?」


 誘うかのような、妖しい瞳でささやいた。


「ど――っ!……ど……どっ……どこ……って……」


 そんなことを訊かれるなんて、思ってもいなかった。


 私はめちゃくちゃ動揺して、戸惑いつつ彼を見返す。

 胸のドキドキは、今や、激しいバクバクにまで高まっていた。


「リアがキスして欲しいところは、どこ?……どこでもいいよ。ほら、言ってごらん?」


 私の顔の脇に手をつき、もう片方の指先で、優しく髪をすきながら。

 彼はますます(つや)めいた声で、私に訊ねる。


 でも、そんなこと……恥ずかしくて言えるワケがない。

 私は無言で、ふるふると首を横に振った。


「……ん? キスはして欲しくないの? それなら、どうして欲しい?」

「どっ、ど……どうしてって……」


 答えたくないって意味で、首を振っただけなのに。

 キスして欲しくないのか――なんて誤解された上、更に答えにくい質問をされてしまった。


 私はますます狼狽(ろうばい)し、ギュッと目をつむって、さっきよりも激しく首を振った。


「何もして欲しくないの?……ひどいな。ここまで私を(たかぶ)らせておいて、寸前で拒否するのかい?」

「ちっ、違――っ!……そーじゃ、なくてっ」

「そうじゃ……なくて?」

「だ、だからっ。だからっ、あの――」



 ……ああああっ、もうっ!!

 どーして欲しいかなんて、そんな恥ずかしいこと言えるワケないじゃないッ!

 ギルのバカあッ!!



 思わず涙がにじんで来て、必死に目で訴えた。

 それでも彼は、全く理解してくれなくて。


「おかしな人だな。泣きそうな顔をして……。それほどまでに、私が触れるのは嫌……?」



 ――違うッ!!

 違う違うっ、そーじゃないんだってばぁ…ッ!



 そう言いたいのに、パニクりすぎて声も出せない。

 空しく口をパクパクさせながら、私はしつこいくらい首を振り続けた。


 すると。


「っふ――!」


 突然、彼が吹き出したかと思ったら。

 お腹を抱えて、ケラケラと笑い出した。


 私はポカンと口を開けて彼を見つめ……。

 ようやく、からかわれていたことに気付くと、勢いよく起き上がり、思い切りにらみつけた。


「ひどい! こんな時にもからかうなんて……。からかうなんて――っ!」


 恥ずかしくて悔しくて、涙がぽろぽろこぼれて来る。


「あ……。す、すまない。君があんまり可愛い反応をするものだから、つい――」


 慌てて私へと伸ばされた手を、力一杯叩く。


「『つい』!? ついってなによ、ついって!? 人の気持ちも知らないで、こんな時までからかうなんて……っ! バカバカッ! ギルのバカぁッ!!」


 私は彼に背を向けて、ベッドにダイブするように突っ伏した。


「リア……。悪かった。今のは、完全に私が悪い。間違っていた。……お願いだ。機嫌を直してくれないか?」


 そう言って肩に手を置かれたけど、私はうつ伏せのまま首を振る。


「嫌っ! ギルなんて知らないっ! そうやって、いっつも人のことからかって……。前にも言ったけど、私はギルのおもちゃじゃないんだからっ!!」

「……リア……」


 困り果てたような声。

 彼は、しばらくの間何も言わず、私の頭を撫でていた。


 でも、いつしかその手も離れて行き、辺りは、何の音もしなくなって……。



 ……ギル?


 どっか行っちゃった……ワケじゃない……よね?

 ちゃんと、そこにいるよね?


 それとも。

 私がいつまでも拗ねてるから、怒って……どっか行っちゃったの?



 気になって、私はそろそろと、ギルのいるはずの方へ顔を戻し掛けた。

 瞬間、後ろ髪を、首元から肩の両側に払われ、ビクッと身をすくめる。


「……ギ……ギル……?」


 呼び掛けながら、彼の方へ顔を向けようとすると。

 いきなり、うなじにチュッと吸いつかれ、体の中心に、電流が流れるような感覚が走った。


「ひゃん…ッ!」


 堪らず声が漏れたとたん、彼は後ろから覆い被さり、両手を私の肩に置いて、うなじと首筋に繰り返しキスを落として行く。

 そのたびに、切ないような、逃げ出したいような感覚にとらわれ……。

 私は無意識に両手でシーツをつかむと、ギュッと握り締め、刺激が通りすぎるまで耐え続けた。


「リア……今はどうしても君が欲しい。いいだろう……?」


 彼の熱い吐息が、耳に掛かる。


 返事する余裕もなく、肩で息をしながら、顔を伏せていると。

 肯定の意味に捉えられてしまったのか、突然、ネグリジェを肩まで引き下ろされた。


 うなじや肩、背中にまでキスされ。

 体が甘くしびれるたびに、息が上がって行って……。


「や…っ!……あ……」


 怖くて、心細くて、叫び出しそうだった。

 全身に力を込め、目をつむって唇を噛み、感覚が通りすぎるのを待つ。


 彼の唇が、背中から離れた瞬間を狙って、『やめて』と懇願(こんがん)するために口を開くと。

 ドアが数回ノックされ、私達はハッと息をのんだ。

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