表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/225

第1話 不可解な言動

 私達は秘密の通路を通って、無事に城へと戻って来ることが出来た。

 秘密の通路って言っても、その存在を知る者は、今や、ウォルフさんとアセナさんしかいないらしい。


 秘密ってくらいだから、あまり人には知られたくない、隠しておきたい通路だってゆーのはわかるんだけど……。

 国王様さえ知らないってゆーのは、どーしてなんだろう?


 不思議に思って訊ねると、


「先々代の国王陛下に、命じられていたのです。『あの通路は、大分古くなっていて危険だ。いっそ、存在ごと葬り去ってしまえ』と――」


 物騒なことを、ウォルフさんにさらりと言われてしまい、私はたちまち蒼くなった。


「き、危険……って?……た、確かに、あちこち傷んでるってゆーか……砂とか土とか水とか、小さい石ころとか……たまに、上から落ちて来たりしてたけど……。あれってやっぱり、相当危険だった……ってこと?」


 自然と声が震え、笑顔が引きつる。

 ウォルフさんが答えようとするのを、手で制し、ギルが口を開いた。


「ああ、そうだ。ウォルフから、その存在を知らされた時、運が悪ければ、通路自体が崩れて来て、生き埋めにだってなりかねないと、止められたんだが……。それでもいいと言ったんだ。誰にも気付かれずに、君を救出しに行くには、それしか方法がないと思ったからね」


「そんな! 生き埋めって……」



 あの通路、そこまで危険だったんだ!?


 ……あ~……、崩れて来なくてよかったぁ~~~。

 運が悪い方じゃなくて、ホントに助かったよぉ……。



 今更ながら、無事に戻って来られたのが、奇跡みたいに思えて来て。

 私は胸元を押さえ、ほぅっと小さくため息をついた。


「リア……。君にまで怖い思いをさせて、すまなかった。だが、わかって欲しい。ああするより、他になかったんだ」


 ギルは私の頬に手を当てて、辛そうに眉根を寄せる。

 私は慌てて頭を振り、


「う、ううんっ、だいじょーぶ! ちょっとびっくりしただけ。……ごめんね。ギル達を責めてるワケじゃないんだよ?」


 彼の手を取り、そっと両手で包み込んだ。


「リア……」


 彼はそのまま私を抱き寄せ、痛いくらい強く抱き締める。 


「よかった、君が無事で……。間に合わなかったらどうしようかと、怖くて堪らなかった。……リア……リアっ!」

「ギ……ギル……」



 いつもだったら、『ウォルフさんがいるのに!』――なんて、気にしちゃうところだけど……。


 今は……今だけは、誰が見ていようと、構わないと思った。

 私のことを心配してる間、この人は、きっと想像じゃ追い付けないくらい、辛い気持ちを抱え続けていたんだから。

 そんな彼を、冷たく突き放すなんて……出来るワケがなかった。



「ギルフォード様。私は命じられた任務を果たして参ります。その後で、国王陛下とマイヤーズ卿に、先ほどのことをお伝えし、これからどのようにしたらよいか、ご意見を伺って参りましょう。ご夕食は、少々遅れてしまうかも知れませんが、ご了承ください」


 私達に気を遣ってくれたのか、ウォルフさんはギルの返事を待たず、ドアの方へ歩いて行く。

 彼が部屋から出て行くと……しばらくの間、辺りはしんと静まり返った。


 私はギルの腕の中で、そっと目を閉じ、彼の鼓動に耳を澄ませる。

 ドク、ドク、ドク――って、いつもより大きく、速い鼓動。



 この音が静まるまで、こうしていよう。

 ……ううん。ずっとこうしていたい……。



 そう思い始めた頃。

 彼は突然体を離し、私の頬を両手で挟み込んで――怖いくらい真剣な顔で、じっと見つめて来た。


「ギル……?」


 どうしたんだろうと見返すと、いきなり唇が重ねられ、片手がネグリジェのボタンに伸びて来て――。


「んっ、んぅ……!……やっ、ちょ…っ! ちょっとギルっ? こっ、こんなこと、してる場合じゃ…っ!」


 驚いて肩を押しやり、どうにか顔を背けて、抗議の声を上げる。

 彼は私の言葉を聞き入れることなく、ボタンをひとつふたつと外すと。

 耳を甘噛みし、形をなぞるように、舌を這わせて来た。


「ヒ…っ!……や……ヤダっ、やめ……っ」


 みっつめのボタンが外され、舌が、唇が、首筋を上から下へとすべって行く。


「……ギ……ル……っ、もう……や――っ、ん……んん…っ」


 もう一度唇にキスされ、激しく求められて――なにがなんだかわからなくなる。

 押しやろうとする手をつかまれ、逃れようと顔をそらせても、また唇をふさがれ、体中、電流が走ったみたいにしびれて、身動きが取れなくなってしまう。



 ……ど……して……?


 拒みたい、のに……。

 拒まなきゃ……いけないって、思う……のに……。


 ……力が……。


 ……ダメ。

 ぜん、ぜん……入らなっ……。



 頭がくらくらして、息が上がって……。


 気が付くと、私はいつの間にか抱き上げられていた。

 何度目かのキスを受け入れているうちに、ベッドまで運ばれてしまう。


「ギル…っ。わ、私……昨夜、お風呂入っ…………ゆ、湯浴み……してな……い」


 息も絶え絶えになりながら、なんとかそれだけ伝えると、


「問題ない」


 彼は静かに答え、最後のボタンを外しに掛かった。


「や――っ、だ……。も、もんだ……い、ある……」


 ちっとも思い通りにならない腕を、励ますように持ち上げ――そのまま胸元へと運び、ボタンを外そうとしている彼の手に、そっと重ねる。


「おね……がい……。せめて……ゆ、湯浴み……させて?」

「ダメだ」

「や……。そん、な……」


 恥ずかしくて、涙がにじんで来る。

 私は必死に頭を振るけど、悲しいほど力が入らなくて……それだけじゃ、意思表示になっていない気がした。


「リア……。そんな顔しないでくれ。私は……君を傷付けたい訳じゃない。傷付けたくなんかないんだ!」

「……ギ……ル……?」


 何故だか、彼まで泣きそうな顔をしていて、私は戸惑って首をかしげる。


「リア――!」


 彼は私の両手を取って握り締めると、その上に、まるで祈りを捧げるみたいにして、額を押し当てた。


 ――その時、ようやく気が付いた。

 彼の手も、微かに震えていることに……。


「ギル?……ど、どー……したの?……なんで……震えて、るの……?」


 訊ねると、彼は大きく頭を振って。


「いや。……なんでもない。なんでもないんだ。……本当に、なんでも……」


 否定した後、彼はしばらく沈黙し……震えが治まるのを待つように、その姿勢のままうつむいていた。


「……いや。やはり、君に嘘はつきたくない。……リア。私は怖い。怖いんだ――!」

「怖……い?……って、なにが……?」

「君を……諦めなければならなくなるかも知れない。失うことになるかも知れない。そのことが……とても怖いんだ」

「……え……?」


 意味がわからなくて、すぐには言葉を返すことさえ出来なかった。



 私を……諦める……?

 失うことになるかも……って、どーゆーこと……?



「ギル……? あなた……なにを言ってるの……? ど、どーして…っ、なんで私を、諦めなきゃいけないの?」


 混乱の中、喚き立てたい気持ちを必死に抑え込み、彼に問い掛けた。

 だけど、彼はうつむいたまま……震える手で、私の両手を握ったまま、何も答えてくれない。


「ねえ……何か言って?……ど……どし、て……黙ってるの?……言ってくれなきゃ、なにも……何もわかんないよっ!」



 沈黙が怖くて――。

 答えてくれない彼が、怖くて。


 私は何度も、繰り返し繰り返し訊ねては、明確な答えを求めた。

 太陽が傾き、夕闇が迫る時刻になっても、彼は押し黙ったまま、方を震わせるばかりで……。


 私は薄暗い部屋の中で――心細さに、泣き出したくなる気持ちと闘いながら、彼の返事を、ひたすらに待ち続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ