第7話 恋人の采配
……なんだか、私にはよくわからない話だけど……。
要するに、ギルとウォルフさんがよく知ってる、貴族の人達が関わってた……ってことなのかな?
ギルの様子からすると、その人達のこと、昔から信頼してたっぽいとゆーか、表向きには、支持してくれてた人達っぽいし。
その信頼が裏切られた、ってことだとすると……信じてた人達に、殺されそうになってたってことだと……すると……。
……ダメだ。
ギルになんて言ってあげればいいのか、さっぱりわかんないよ――!
「ギルフォード様。こちらでこうして考えておりまても、らちが明きません。御三家が関わっていらっしゃるとすると、私達が対処出来る範疇を、すでに超えてしまっております。至急、城にお戻りになりまして、国王陛下とマイヤーズ卿に、ご相談申し上げるしか、解決のしようがないと思われ――」
「そんなことはわかっている!……わかっているが……しかし……」
大声でウォルフさんの言葉をさえぎり、同意を示しはしたものの。
ギルはまだ、何か迷っているみたいだった。
悔しそうに唇を噛み、眉根を寄せてうつむいている。
「お二人のお力に頼りたくないとの、ギルフォード様のご心中はお察し致しますが……。御三家が関わっている疑いが出て来てしまった以上、私情を挟んでいる場合ではございません。どうか、速やかなご決断を――!」
いつも冷静なウォルフさんにしては、珍しく、切羽詰まった印象の声だった。
ギルは再び瞼を閉じ、しばらくの間、沈黙していたけれど――。
次に目を開けた時には、その瞳から、ためらいの色は消えていた。
「わかった。父上とマイヤーズ卿に御報告しよう。捕らえたまま放置している者達も、人目に触れぬよう、他の場所に移す必要があるな。――ウォルフ。そちらの指示は、おまえに任せる。城に戻ったら、至急手配しろ」
「はい。我が君のおおせのままに」
「リア。一刻も早く、城に戻らねばならない。彼らのことはどうする?」
「……えっ?……え、えっ? どどっ、どーする……って?」
それまで蚊帳の外――って感じだったから、すっかり気を抜いていた私は。
唐突に訊ねられ、一瞬パニクってしまった。
「君の国で預かる、という話ではなかったかい? これから、彼らをどうやってザックスへ向かわせるか、その方法は考えてある?」
「えっ?……あ……ごめん。そこまでは、全然……」
「では、城へ戻ったら、急いでセバスへ書状を送るといい。彼らのことを詳しく書いて、自分が戻るまで、彼らをどう扱えばいいか、彼らにどうしていて欲しいか、細かく指示しておくんだ。そこまでしておけば、後はセバスが、良いように取り計らってくれるだろう。――イサーク。ザックスまで歩いて行けるな?」
「あ、ああ。国から出たことはねえが、国境までの道順は、一応知ってる」
「そうか。それでは、検問所を通るために、私が一筆したためよう。王族しか使用が許可されていない、特別な紙がある。それが、即席の渡国許可証代わりになるはずだ。――リア、君は彼らの特徴をよくつかんでおいて、書状に、これこれこういう者達が城を訪ねる、と忘れずに書いておくんだ。いいね?」
「う、うん。わかった!」
「ならば、必要最低限の荷物をまとめて、すぐに発った方がいい。おまえ達を殺そうとする者が、またやって来るかもしれないからな。――そうだ、ウォルフ。おまえの仲間に、この者達が無事城に着くまで、見守っていてくれるよう頼んでおいてやれ」
「はい。かしこまりました」
ギルは次から次へと、いろいろなことを指示して行く。
あまりの手際の良さに、私は呆然としてしまった。
ギルってば、すごい……!
私だったら、短時間にあれだけのことを考えて、あれこれ指示してみせるなんて、とうてい出来っこないもん。
……やっぱりギルって、フレディやセバスチャンが言ってたように、次期国王にふさわしい、有能な王子様だったんだ……。
今更ながら、恋人の優れた一面を目の当たりにして。
不覚にも、私はうっとりと見惚れてしまった。




