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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第13章 兄妹のゆくえ

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第4話 二人だけの世界

「君がさらわれた時、正直なことを言えば……君を追う方を、優先させようかとも思った。――いや。本音を言えばそうしたかった。だが、私がフレディを放ったまま、迷わず君を追ったと知ったら、君はどう思うだろうと、とっさに考えた。……君は、きっと悲しむだろうと思った。弟を見殺しにして、迷うことなく、恋人を救出しに向かったと知ったら、君は私を許さないだろう。……だから、すぐに追うことが出来なかった。それがどんなに辛いことか、想像してみてくれ――! この身を切り刻まれた方が――生きたまま火あぶりにされた方が、よほどマシだ! 私がうろたえている間にも、君が、どんなひどい目に遭っているかと考えたら、気が違ってしまいそうだった!……もう、あんなことは二度とごめんだ。あの辛さを、もう一度味わわなくてはならないくらいなら、殺された方がずっとマシだッ!!」


「……ギル……」



 キスされてる間は、絶対、文句言ってやろうって思ってたけど……。

 今の告白で、そんな気持ち、全部どっかに行っちゃった。



 私がのんきに気を失ってる間、ギルは、一人で辛い気持ちを抱えて……。

 苦しみながら、それでも……フレディを助けてくれたんだね。


 私が悲しむから……って言ってたけど、ホントは、それだけじゃないでしょう?

 ギルだって、フレディに、死んで欲しくなんかなかったんだよね?


 だから、放っておけなかった。……ね、そうなんでしょう?



 ……ありがとう、ギル。

 フレディを助けてくれて……見捨てないでいてくれて。


 そして、ごめんね。

 いっぱい、辛い想いさせちゃって……苦しめて、ごめん。



「ギル……ごめんなさい。私、もうどこにも行かないから。ずっとあなたの側にいるから。寂しい想いなんて、もう絶対させないから――!」


 抱き締めている腕に力を込めると、彼はもっと強く抱いて、


「ああ、そうしてくれ。そうでなければ、本当に気が違ってしまうかも知れないよ。……リア。もう二度と離さない! 誰にも君を渡すものか!」


 情熱的な言葉を口にした後、私の顎を上向かせ、もう一度甘いキスをする。

 今度は私も拒まず、真正面から受け止め、受け入れて……。

 一時(いっとき)、自分達だけの世界に浸ってしまっていた。


 すると、


「あーあぁ。――ったく。いつまでイチャついてんだ、世間知らずの貴族の坊ちゃん、嬢ちゃん共はよぉ。……これだから嫌なんだ、金持ちってヤツは。金も暇も有り余ってやがるから、愛だの恋だのくっだらねえ、腹の足しにもなんねえようなことに、うつつを抜かしてられんだよな」


 つまらなそうな、イサークのぼやき声が聞こえて来て……。


「ちょっ、ちょっと兄さん! 王子様とお姫様に向かって、なんてこと――!」


 ニーナちゃんに注意されても、イサークはどこ吹く風って感じだ。

 ふいっと横を向き、私達に当て付けるように言い放つ。


「ニーナ。おまえは、こーんなチャラチャラしたヤツらみてえになんじゃねえぞ? 愛だのなんだのって、子供のうちから言い始めやがったら、俺はぜってぇ許さねえからなっ?」

「な……っ!」



 なんですって!?

 チャラチャラしたヤツらぁ――!?



 反論しようと口を開きかけると、ギルの手が、制するように私の腕をつかんだ。

 その代わり、彼はイサークに向かい、


「貴様という奴は、己の立場というものがわかっていないらしいな? リアがかばってくれていなかったら、貴様がどういう運命に見舞われていたか……想像する頭すらないのか?」


 冷たい視線を上に投げて(イサークの方が、ちょっとだけ背が高いから)問い掛けると、返事を待つように腕を組んだ。

 イサークも負けじと腕を組み、


「へっ! 姫さんに従うってぇ約束は、一応したがな。あんたに従うつもりなんざ、これからだって毛頭ねえよ。あんたが何を言おうが、一切聞く耳なんざ持たねえからな」


 負い目があるはずのギルに対しても、これっぽっちも悪びれず、挑むような言葉を吐く。



 これが漫画のひとコマだったなら。

 背景には……そうだなぁ。稲妻でも、走らせちゃってるところかなぁ?


 ……あ、でも。

 大きい火花バチバチバチィッ――とか、二人の間に激しく散らせる方が、イメージとしては近かったりする?



 私の心の声が、この時、もしも周りに漏れちゃってたとしたら。

 きっとまた、『のんき』だって、呆れられてしまったに違いない。



 心の声を発してしまわないように、充分気を付けつつ――。

 私は()(すべ)なく、彼らを交互に見つめていた。

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