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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第13章 兄妹のゆくえ

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第2話 なりふり構わず

「ギルっ! あんまり怖がらせるようなこと言わないでっ!」


 『牢獄』だの『死罪』だのと、平気で口にするギルに頭に来て。

 ニーナちゃんをギュッとしながら、思い切りにらみ据えると、彼は困ったように口をへの字にした。


「私だって、好きでこんな話をしているわけではないよ。しかし……客観的に見て、死罪が一番あり得るんだ。現実から目をそらして、気休めを言ったところで、今更どうにもならないだろう?」

「だからって、こんな小さな子の前で、そんな物騒な話しなくても――っ!」


「仕方ないじゃないか。もう時間がないんだ。今ここで、この男をどうするか決めてしまわないと、城に戻れない。……私達は、秘密の通路から抜け出して来たんだ。早く城に戻らねば、大変なことになる。私だけなら、部屋で寝込んでいることになっているのだから、しばらくは気付かれることはないだろうが……ウォルフはそうは行かない。城を留守にしていれば、誰かしらに怪しまれてしまうだろう? そうなる前に、戻らなくてはいけないんだ」


「秘密の……通路?」



 へえ~……そんなものがあったんだ?


 なんかそーゆーのって、いかにもお城~って感じでいいなぁ。

 ……フフッ。ちょっとワクワクしちゃうよね。



 ――ってダメダメっ!

 今は、ワクワクしてる場合じゃないんだってば!



「でも、ここで決めなきゃいけないって言っても、死罪なんてひどすぎるよ! お兄さんがいなくなっちゃったら、ニーナちゃんはどーなるのよっ!?」

「彼女は……気の毒だが、身寄りのない子供達のための施設にでも、預けるしかないだろうね。他に引き取り手がないのであれば、の話だが――」


「だからっ! その引き取り手は、私ってことでいーじゃない! うちの城のメイドさんになってもらうよっ!」

「……まあ、どうしてもそうしたいのであれば、彼女についてだけは、君に任せてもいい」


「ホントっ? ありがとうギル! 感謝しますっ!」


 彼が許してくれたのが嬉しくて、ニーナちゃんを強く抱き締め、おまけに頬ずりまでしてしまった。


「だが、兄はまた別だ。このまま、黙って見逃すことは出来ないし、君に預ける訳にも行かないよ。……第一、私のことはまだいいが……君は、シリルの気持ちを考えたことはあるのかい? 彼は、もう少しで殺されるところだったんだよ? 自分を殺そうとした男が、同じ国にいるというのは……あまり、気持ちの良いものではないんじゃないかな?――シリル。正直なところ、君はどう思う?」

「えっ?」


 急に話を振られて、ビックリしたんだろう。

 シリルは目をぱちぱちさせて、ギルと私を交互に見やった。


「君だって、自分を殺そうとした男のことなど、許せやしないだろう? 同じ国にいたくはないよね?」

「ギルっ! 誘導するみたいな訊き方はやめてっ!」


 そうは言いつつも、私は内心反省していた。



 私、イサークとニーナちゃんを助けたいって、そればかりで……。

 シリルや、ギルやフレディの気持ちまで、考えてなかった。


 みんな、私にとって大切な人達なのに。

 イサークとニーナちゃん兄妹に出会うまでは、彼らが傷付けられたり、殺されそうになったこと、ずっと『許せない』って思ってたはずなのに……。



 ……そーだよ。

 みんなが死なずに済んだのは(フレディのことは確認してないけど、生きてるって確信してるし)、ギルの治癒能力のお陰なんだ。

 彼にその力がなかったら、今頃、きっとみんな……。



 考えたら、突然怖くなってしまった。


 結果だけ見れば、みんな生きてるんだし、だからこそ、イサークを許そうって気持ちにもなれたんだけど……。


 でも、もし……もしも、この中の誰か一人でも、命を落としてしまってたら?

 ……私は、今と同じように、イサークのこと許せてたのかな?



 そこまで考えて、私は思い切り首を振った。



 そんなの、わかんない!

 もしも、だったら……なんて話は、いくら考えたってわかんないよ!

 経験してみなきゃ、わかるワケない!


 だから……もう考えないって決めた!



 とにかく、今。

 今私は、二人を助けたい。


 ――助けたい!

 助けたいの!!


 二人には、これから幸せになってもらいたい。

 それだけなんだってば……ッ!



 私は意を決して、ニーナちゃんから体を離すと。

 シリルとギルの前で正座し、両手をついて、深く頭を下げた。


「ひ――っ、姫様っ!?」

「リア? 君はなにを――っ」


 シリルとギルが、同時に声を上げたけど、私は顔を上げなかった。



 こんなことするのは、むしろ、卑怯なのかもしれない。

 相手の同情心や、良心に訴える方法を取るなんて、ズルいことなのかもしれないけど……。


 でも、私……先生みたいに、頭良くないから。

 こういう場合どうすればいいかなんて、全然思いつかないんだもの。


 どうすれば、イサークを許してもらえるのか。

 どうすれば、この兄弟を引き離さずにいられるのか。


 ……情けないけど、どうしてあげることが一番いいのか、私にはわからないから……。


 卑怯だとしても。

 ズルかったとしても。

 愚かだとしても……。


 今の私には、こうすることしか出来ないんだ!



「シリル、ギル、お願い! イサークのこと、許してあげてくださいッ!……お願い! お願いします!……もう少しで、命を落としてたかもしれないあなた達に、お願い出来ることじゃないってことは、わかってるんだけど……。でも、それでも……お願いしますっ! イサークを許してあげてくださいっ! お願いしますっ! お願いしますッ!!」


「リア、やめるんだ! そんなことをしてはいけない!」


 屈み込み、私の両手を取って、ギルは強引に立ち上がらせようとする。

 シリルも私と同じように、その場にひざまずき、泣きそうな顔で訴えて来た。


「そうですよ、姫様! お願いですから、こんなことしないでください! 僕…っ、僕、姫様にこんな……こんなこと、させてしまうなんて……」


 うっと詰まり、シリルはとうとう泣き出してしまった。


「シリル……。ごめんね。こんな、卑怯かもしれないことして、ごめんなさい。でも、私……どうしても、イサークのこと、許してあげてほしくて――」


「許します! いくらだって許します!!……僕、少しも恨んでなんかいません。僕が許せないのは、自分自身なんです。僕が弱いから……僕が弱かったから、姫様のこと、ちゃんとお守りすることが出来なくて……。そのことが悔しいだけなんですッ! だから……だから、姫様が許すとおっしゃる人なら、どなただって許します。許しますから――っ」


「シリル!」


 彼をギュッと抱き締めて、もう一度謝った。


「ごめんね。ごめんねシリル。ありがとう……」

「姫様――っ。僕の方こそ、ごめんなさ……い……」


 抱き締め合う私達を前に、ギルは、今日何度目かのため息をつく。


「……まったく。呆れたお姫様だ。泣き虫の護衛というのも、困ったものだな」


 顔は見えなかったけど、声の調子は、とても優しかった。

 そのやわらかさ、温かさで、ギルも許してくれたんだと感じ、私は心底ホッとした。



 その後、しばらくの間。

 私とシリルは、地面に膝をついたまま抱き締め合っていた。

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