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第1話 震える少女

 話を聞き終わると、ニーナちゃんは真っ青な顔で、カタカタと震え出した。


 兄が人殺しをしようとしてたってことも、もちろん、ショックだったみたいだけど。

 殺そうとしていたのが、この国の王子と隣国の姫で――しかもそれが、目の前にいる私とギルだってことが、何より驚愕(きょうがく)だったらしい。


「ご……ごごごっ、ご、ごめんなさっ――、いっ、いえ、も、ももっ、申し訳ございませんっ――でしたっ! ま、まさか兄が、そんな恐ろしいこと…っ、……お、王子様と、おおっ、おひ――お姫様っ……を、こ――っ、こ、こっ、殺そう――と、してたなんて……。わたしっ、……わ……たし、全然、知らなく……て……」


 ニーナちゃんの震える声。潤んだ瞳――。

 胸の前で組み合わせた手を、指の痕が手の甲に残っちゃうんじゃないかって、心配になっちゃうくらいに握り締めて、彼女は私とギルを見上げた。


「ニーナちゃん! そんなの全然、気にしなくていいんだってば! あなたは何も知らなかったんだから、謝る必要だってないし。……ねっ? そーでしょ、ギル?」

「――え?……あ、ああ……」


 ギルは複雑な表情で私をチラリと窺うと、小さくため息をつき、


「まあ、確かに。この少女に、罪があるはずもないが……」

「ほらっ、ギルもこう言って――」

「しかしっ!!」


 急に大声を出して、私とニーナちゃんの肩は、同時にビクッと跳ねた。


「しかしね、リア。この子の兄の話は、また別だよ。奴は、三人も殺そうとしたんだ。そう簡単に許す訳には行かない」


 決然として言い放つ、ギルを前に。

 真っ青な――ううん、真っ白と言ってもいいくらいの顔色で見上げながら、突如ニーナちゃんは、大粒の涙をポロっとこぼした。


「ニーナちゃんっ?……もうっ、ギルったら! 妹さんがいる前で、そんな厳しいこと言わなくてもいーじゃないっ!」


 私は彼女をギュッと抱き締め、彼をにらみながら抗議する。


「だが、今ここで話し合わずに、どこで話し合うと言うんだい? まさか、二人とも城に連れて行く――なんてことは、いくら君でも言わないだろう?」

「え? 城に連れてっちゃダメなの?」

「……リア」


 ギルは呆れたように、大きなため息をついた。


「君とシリルのことを、周囲に気付かれぬようにしているだけでも、かなり苦労しているんだよ? それを、二人も増やせだって? 無茶を言わないでくれ」

「う……っ。それは……。ギルにもウォルフさんにも、迷惑掛けちゃってて、申し訳ないとは思ってるけど……」


「だったら、わかってくれるね? その話は、ここで片付けてしまおう」

「か……片付ける?」


 首をかしげる私の頭に、ギルはポンと手を置いて。


「リア。君は、この二人を国へ連れて行くと言ったね? それで、連れて行ってから、どうするつもりなんだい?」

「え?……どうする、って……。えっと、まず……ニーナちゃんには、メイド見習いにでもなってもらって……それで、イサークは……」



 えっと……。

 うぅ~ん……。


 ……正直言って、イサークのことについては、そこまで深く考えてなかった……。


 とりあえず、セバスチャンに手紙を出して、私が戻るまで、二人のことお願いして……詳しいことは、あっちに戻ってから決めよう――なんて思ってたから。



 正直に告げると、ギルは再びため息をついて、片手で額を押さえた。


「まあ、君のことだから、そんなところではないかと思ってはいたが……」


 彼の反応に、私は思わずムッとして、ニーナちゃんを抱き締めながらにらみ付ける。


「なによ、『そんなところではないか』って? 思いっ切り、バカにしてるでしょ?」

「バカになどしていないよ。ただ、後先考えず、実行に移そうとするのは、君の悪い癖だと思っただけだ」


「な――っ! あ、後先考えずってなによっ!? 私だって、ちゃんと考えてるもんっ! 詳しいとこまでは考えてなかったってだけで、大まかなことは、ちゃんと考えてたもんっ!」

「……大まかなこと、ね……」


 ため息まじりにつぶやかれ、私はますますカーッとなった。


「なによなによっ、まるっきりバカにしてるじゃないっ! そこまでゆーなら、ギルは、二人をこれからどーするかとか、さぞや詳しく細かく、先々のことまで、ちゃーんと考えてくれてるんでしょーねッ!?」


 皮肉を込めて言ってやったつもりなのに、彼はあっさりとうなずいた。


「ああ、考えているよ。まずは男の方だが。私とシリルとフレディ、実際には殺せなかったとは言え、三人も襲って重傷を負わせたのは事実だからね。捕らえて、(しか)るべきところで裁きを受けさせれば、どんなに軽く見繕(みつくろ)ったところで、数十年は牢獄から出られないだろう。重い罰ならば、死罪だってあり得る」

「しっ、死罪っ!?」


 あんまり驚いて、声が裏返ってしまった私に対し、ギルは少しも動じることなく言い切った。


「当然だろう? この国の王子二人と、隣国の――見習いとは言え、姫の護衛役である少年の命を、奪おうとしたんだからね。どちらかと言えば、牢獄に入れられるより、死罪の方が、可能性は高いと思うよ」


「……死……罪……」


 私の胸元に顔を埋めたまま、ニーナちゃんが震え声でつぶやいた。

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