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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第12章 連れ去られた姫君

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第14話 人質

 緊張感に包まれる中、のんきを自覚しつつあった私とイサークに向かって。

 (ごう)を煮やした男二人が、同時に斬り掛かって来た。



 ダメ!

 逃げられない――!



 私は両目をつむり、亀が甲羅の中に頭を引っ込めるようなイメージで、小さく体を縮こめた。


 ――瞬間。

 『ドカッ』だの『ボスッ』だのって音がして、『ギャッ』だの『うぐっ』だのってうめき声も、聞こえて来たりして。


 何事だろうと、恐る恐る頭を上げて窺うと。

 数メートル先で、男二人が、ドサッという音と共に地面に突っ伏した。


「……え……?」


 私はしばし呆気に取られ、すぐには声も出せなかった。



 え……?

 ちょっと、嘘でしょ……?


 いくらイサークが強いからって……やっつけられるの早すぎじゃない?


 ……よっぽど、弱い人達だったのかな?

 それとも、イサークが……ホントのホントに、達人級に強いのかな?


 でも、どっちにしろ……私が目をつむってる間に、勝負はついちゃったワケだよ……ね?



「ねえ……。イサークって、超能力か何か、持ってたりするの?」


 目の前の光景が、すぐには受け入れられなくて。

 気絶した男達を、細い紐みたいなもので縛り上げているイサークに、思わず訊ねてしまった。


「ああ? チョーノーリョク?……なんだそりゃあ?」


 怪訝顔(けげんがお)で振り向く彼を見て、ようやく納得する。

 どうやらこれは、超能力によるものでも何でもなく、彼の実力らしいと。


「ああ……うん。わからないならいいの。……でも、ホントにイサークって強いんだねぇ。顔上げたら、二人とも伸びてるんだもん。ビックリしちゃった」


 話掛けている間にも。

 彼は男達を紐でグルグル巻きにし、森の木の一本に、二人まとめて縛り付け、逃げられないようにしてしまった。


 彼は『いっちょあがり』って感じで、両手をはたいて汚れを落とすと、特に自慢する風でもなく、


「べつに。こんなのどうってことねえさ。こいつらが、異常に弱すぎるんだ。剣もナイフも、使うまでもなく片付いちまったしよ。……ったく。こんなヤツらしか差し向けらんねえとは。俺も、甘く見られたもんだよな」


 心なしか傷付いたようで、ムスっと口をとがらせた。


「まあまあ。簡単に片付けられたんなら、よかったじゃない。誰もケガせずに済んだんだし」

「そりゃまあ、そうだけどよ……」


 まだどこか不満そうな彼をなだめ、私達は家へと引き返した。


「――あ。そー言えば、ニーナちゃんはどこにいるの? 当然、無事なんでしょ?」

「ああ。家ん中の、見つかりそうもないとこにいる。『声出さずにじっとしてろ』って言って、押し込めて来た」

「そっか。他の四人も、とっくに倒しちゃったんでしょ? それなら安全だよね。……あ~、よかったぁ……」


 ホッとして、自然に笑みがこぼれる。


「けど、中のヤツらは、拘束してる暇がなかったから、床に転がしたままなんだ。戻ったら、縛り上げとかねえと。目を覚ましたら、めんどくせえことになるしな」

「ええっ、そーなの? だったら急がないと!」

「ん?……お、おう。そーだな」


 顔を合わせてうなずき合い、私達はどちらからともなく走り出した。



 あいつらが目覚めてたとしても。

 ニーナちゃんは、秘密の場所に隠れてるんだから、それほど心配することはないはず。


 ……とは思うんだけど、万が一ってこともある。

 私はなんとなく胸騒ぎがして、妙に落ち着かない気持ちになっていた。



 ……大丈夫。

 悪い予感なんて、当たるワケない。


 大丈夫……大丈夫っ!




 祈るような気持ちで家の前まで来ると、私達は同時に息をのみ、立ち止まった。


「ニーナちゃん!」


 祈りも空しく、嫌な予感は当たってしまっていた。

 家の中で気絶していたはずの男一人が、ニーナちゃんを片手で抱え込み、彼女の喉元に剣先を突き付けて、私達を待ち構えていたのだ。


「動くなッ! ちょっとでも動いたら、おまえの妹の喉を掻き切ってやるッ!」

「兄さんっ! 私のことはいいから、早く逃げてぇええーーーッ!!」

「黙ってろガキがッ!! ブッ殺されてえのかッ!?」


 絶叫する彼女に、男の怒声が飛ぶ。


「きゃああッ!」


 男に頭を殴られる彼女を見て、


「やめろッ!! 妹には手を出すなぁッ!!」


 悲痛な声でイサークが叫んだ。

 その声で、自分が有利な立場にいることを、完全に実感したんだろう。男はすごくいやらしい笑みを浮かべた。


「やめて欲しかったら、武器を全部捨てろ! それから、その場にひざまずいて、頭を地面にこすりつけ、両手を上に上げな!」

「な――っ! なに言ってんのよ、この……っ」


 カッとなって、文句を言ってやろうとした私を、イサークが手で制する。


「よせっ! ニーナの命がかかってんだ!」

「――っ!」


 初めて聞く、弱気とも取れる声に、ズキンと胸が痛む。

 何も出来ない悔しさに、私は黙って唇を噛み締めた。


「武器は捨てる! 妹には、一切手を出さないでくれッ!!」


 イサークはそう言うと、持っていた剣と、懐に隠し持っていたナイフを、男のいる方に放り投げた。


「次は、ひざまずくんだったな!?」

「そうだ! それから、頭を地面にこすりつけろ! 両手を上げて、『許してください。何でも言う通りにします』と言え!」

「えっ、ちょ――っ!」



 することがひとつ増えてるじゃないッ!!

 こっちが手を出せないからって、あの男ぉおおッ!!


 はらわたが煮えくり返るくらい頭に来たけど、ぐっと堪えた。

 私が口出ししたら、更に無茶な要求が増えるかも知れない。



 でも……でもやっぱり――!

 イサークに、土下座みたいなことさせたくない!



 意を決し、


「待って! 人質なら私がなるから、ニーナちゃんを解放してッ!」


 私は男に、人質の交換を持ち掛けた。

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