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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第12章 連れ去られた姫君

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第11話 現れたのは

 男は一瞬、驚いたように目を見張った。

 前髪を掻き上げ、その手を頭上に持って行って、軽くクシャクシャっと掻くと、呆れたように微笑む。


「つくづく変なヤツだよな、あんた。あれだけあんたらをつけ狙って、殺そうとした男に……『自分の国に来い』、かよ?」


「そーよ。――でも、誤解しないで。あなたの罪を許したワケじゃない。あなたには、後でちゃーんと(つぐな)ってもらうんだから。……それに、私が元いた世か――じゃない。私の国には、『罪を憎んで人を憎まず』って言葉があってね。あなたさえ、罪を認めて、反省して……これからも、ちゃんと償ってく気があるんなら、それでいいんじゃないかなって思って。その姿勢さえ貫いてくれるなら、あなたの罪を、必要以上に追及する気はないよ」


「罪を憎んで……人を、憎まず?……ハッ。ずいぶんお優しいお言葉だな。世間知らずのあんたらしいっちゃあ、あんたらしいが」


 冷やかすみたいな言い方だけど、トゲトゲしさは感じられない。

 私はホッとしながら、彼に答えを求めた。


「それで? 私の国に来てくれる気はあるの? それともないの?」


 男はしばらくの間、私の本意を見極めようとするかのように、探るような目つきで、私をじっと見つめていた。


 やがて、小さなため息をつき、


「わかった。あんたの国に行ってやるよ。そこでちゃんと、俺が仕出かしたことに対する、罰を受ける」


 自分の口から罪を認め、償うことを約束してくれた。

 私はすっかり満足し、男に向かって片手を差し出す。


「……なんだ、この手は?」

「握手だよ! 仲直りの握手。ここから先は、敵じゃなく、味方になってくれるんでしょ?」

「…………」


 男は、ためらいながらも手を差し出す。

 私は素早くその手を取って、再びギュッと握り締めた。


「よろしくね! えー……っと……。ごめん。あなたの名前、なんだっけ?」

「……イサークだ。イサーク・ガルバン」

「そっか、イサーク。――じゃあ、改めてよろしく、イサーク!」


 私はにっこり笑って、握り締めた手をブンブンと上下に振った。

 イサークはふいっと目をそらせると、


「もういいだろ。手ぇ離せ」


 ぶっきらぼうにつぶやき、私の手を振り(ほど)いた。


「うん。じゃあ早速、外に出て、あの人達に伝えて来るね。あなたの身柄は、私が預かることになったって。それで一応、このことは解決するでしょ」

「解決、ね……。そううまく行けばいいがな。第一、あんたの恋人が許さねえ――って話じゃなかったか?」


「う――っ。そ、それは……。でもっ、ちゃ、ちゃんと説得してみせるからっ」

「……ま、期待せずに待ってるよ」


 イサークは、私から目をそらせたまま窓辺から離れ、部屋のドアへと近付いた。

 ドアを開け、外に出るよう顎先で(うなが)す。

 私は、なるべく音を立てないようにしながら外へ出て、下へと続く階段を見つけ、目を丸くした。



 ……ここ、二階だったんだ?


 そっか。

 そー言えばあの部屋の天井、なんだか中心の方が高くなってたっけ。

 屋根裏部屋――ってゆーところだったのかも知れない。



「どうした? 早く下に行けよ」


 ボーっと考えてたら、イサークに(いぶか)しがられてしまった。

 私は慌ててうなずくと、そろそろと階段を下りた。


「俺はニーナの様子を見て来る。おまえは、一足先にあいつらのところに行って、話をつけておいてくれ」


 下に着いたとたん、そう言われ、


「うん、わかった。ギルが来てれば話は早いんだけど……来てなかったら、ちょっとややこしいかも。……でもまあ、なんとか、わかってもらえるように頑張るよ」


 ちょっと不安ではあったけど、なんとかなるだろうと気楽に請け負って、私は玄関らしいドアへと向かった。



 ドアの前に立ち、ひとつ深呼吸してから、えいやっと開けて外に出る。


 瞬間、木々の間の暗闇で、何者かがうごめく気配がした。

 私はほんの少しだけ(ひる)んだけど、気力を(ふる)い立たせて、暗闇に向かって大声で呼び掛けた。


「ギルっ、そこにいるの!?――いるなら出て来てっ? 大切な話があるのっ!!」


 返事を待ったけど、何の反応もない。

 それでも確実に、暗闇には数人ほど、何者かが潜んでいる。鈍い私でもわかるくらい、人の気配が辺りに(ただよ)っていた。



 ……やっぱり、ギルは来てないのかな?

 フレディのケガの治癒に掛かりきりで、自分が出向いて来る余裕がないのかも……。



 そう思った私は、再び声を張り上げて訊ねる。


「ねえっ、そこに隠れてる人達っ! あなた達はギルに――ギルフォード王子に言われて、私を助けに来てくれた人達じゃないのっ!?……そうなんだったら出て来てっ? あなた達に、伝えなきゃいけないことがあるのっ!」


 それからまた、彼らの返事を少しの間待ったけど、いっこうに反応がない。

 そこでようやく、私は何かおかしいと感じ始めた。



 ギルに指示されて、私を助けに来てくれた騎士さんとかだったら……私の問い掛けに、何の反応も示さないってのは、変じゃないかな?

 私を見つけたら、まず真っ先に、保護しようとするだろうし……って、あ――。


 もしかしたら、人質のはずの私が、一人でのこのこ出て来たから、戸惑ってるのかな?

 ……罠じゃないかって、警戒してるのかも。



 そんなことを考え始めた時。

 暗闇から――うっそうと茂る木々の間から、数人の人影が現れ、こちらに向かい、ゆっくりと歩いて来た。

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