表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/225

第9話 忘却の安否確認

 どうにかこうにか食事を終え、ウォルフさんはテーブルの上を片付けると、ワゴンを押して出て行った。

 私に『後ほどまた、菓子などをお持ち致します』と言い添えて。


 なんとウォルフさんは、お菓子作りも出来ちゃうらしい。たまにだけど、キッチンを借りて作ることもあるから、怪しまれずに済むだろうってことだった。



 すごいなぁ……。正に万能執事、って感じだよねぇ。

 うちのセバスチャンとは大違――……。


 ん?……あれ?

 私……何か、大切なこと忘れてる……?



「……ああっ、そーだ! セバスチャンっ!!」


 突然大声を上げた私に、ギルは驚いたように目を見張った。


「ど、どうしたんだい? セバスがなんだって――?」

「セバスチャン! セバスチャンのこと忘れてた!……私、なんだかワケのわからないうちにこっちに来ちゃったから、今どこにいるのか――ちゃんとあの後、無事に城に戻れたかどーかわからないの。ギル、お願い! ザックスに手紙か何か出して、無事でいるかどーか確認してくれないかな?」



 あーもーっ、私のバカッ!!

 もっと早くお願いするつもりだったのに……なにのんきに、夕食なんかごちそうになっちゃってんのよ!?

 今頃、セバスチャンがどーなっちゃってるかもわからないのに……。


 ううんっ、きっと無事だとは思うけど――無事でいるに決まってるけどっ!

 でも、やっぱり……ちゃんと確認出来ないと不安だし……。



「セバスの安否確認を?……それはもちろん、構わないが……。そう言えば、まだ詳しい事情を聞かせてもらっていなかったね。君達は何故、急に襲われたりしたんだい?」

「何故襲われたか、って……そんなの、こっちが知りたいくらいだよ。命を狙われるようなこと、した覚えないし……。でも、シリルにあんなひどいことしたヤツは、『これは仕事だ』って言ってた。『俺は、受けた仕事は確実にこなす』って。それってやっぱり、誰かに依頼されたってことだよね? いったい、誰がそんなこと……。私が死んで、得する人なんているのかな?」

「依頼された?……リアが死ぬことにより、得する……人間……」


 真剣な顔でつぶやくと、ギルは片手を口元に当て、考え込むように、テーブルの一点をじっと見つめた。


「――あ。それとも……襲ってきた人達は、他の国の人みたいだったから、私個人じゃなくて……え~っと……ザックスに、何らかの恨みがあるとか、そーゆーことも考えられるのかな?」

「他の国? それは確かかい?」

「え? う、うん。――あ、ううんっ。たぶん、だけど……」

「他の国……。リアを殺そうとする者……。リアが死んで、得をす――」


 そこでギルは、ハッとしたように言葉を切った。


「まさか! いくらなんでもそこまで――。いや、しかし……」


 急に顔色を変えたギルが気になって、私は慌てて口を挟んだ。


「ねえ。まさかって、どーゆーこと? ギルには、何か思い当たることがあるの?」

「え?……あ、いや――」


 ギルは一瞬、『しまった』というような顔をした。私の思い違いかもしれないけど……でも、何か引っ掛かる。

 私は席を立ってギルの元へと駆け寄ると、腕をつかんで食い下がった。


「何か知ってるなら、教えてっ? どんな小さなことでもいいの! お願い!」

「リア……」


 ギルは困惑した顔つきで私の手に触れると、そっとつかんで、自分の腕から外そうとした。

 でも、途中で何らかの違和感を覚えたのか、ふと視線を走らせて、私の指先に目を留めると。


「……これは……?」

「え?……あっ」



 そーだ、指輪!

 置くところが見つからなくて、はめたままだったんだっけ……。



「あ、あのっ、これは――っ」


 慌ててどけようとした手を、強く握られ、彼の胸元へと引き寄せられる。


「ずっと持っていてくれたんだね。ありがとう。……しかし、湯浴みする前には、何もはめていないようだったが――」

「あ……。だから、あの……。えっと……。じ、実は……服の裏地に、この指輪を仕舞うための……ポケット、を……作って……もらって……」


 しどろもどろで説明すると、


「では、今までそこに?……リア……」


 ギルは私の手をつかんだまま、そっと口元に持って行き、指先に唇を押し当てた。


「ちょ――っ!……ギ、ギル……」



 また、この人は……。

 どーしてこう、いちいちキ……っ、キスを……。



「……あ、あの……。そろそろ、手を離して……?」


 今までと比べたら、かなりキスしてる時間が長いなぁ……なんて思いながら、恐る恐る訊ねると。

 ギルはようやく唇を離し……思わずドキッとしてしまうほど、魅惑的に微笑んだ。


 その微笑みに、私は説明しがたい戦慄(せんりつ)を覚え――。


 慌てて側から離れようとしたんだけど、時すでに遅しだった。

 ギルは席を立って、私を強引に引き寄せると、痛いくらいに抱き締め――耳元で(あや)しくささやいた。


「リア……。当分邪魔は入らない。先ほどの続きをしようか……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ