表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第12章 連れ去られた姫君

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

135/225

第5話 垣間見えた素顔

 ど――っ、どどどどーゆーことなのっ?

 この男が……暗殺者が、ニーナちゃんのお兄さんっ!?



 あんまりビックリして、男を指差しながら、口をパクパクさせていると、


「あの……どうかしたんですか? 兄に何か――?」


 きょとんとした顔のニーナちゃんに、じーっと見つめられてしまった。


「えっ?――あ、いやっ、……あのっ」



 ど――っ、ど、どどっ、どーしよーーーっ!?


 ニーナちゃん、私のことは『道端で倒れてた』って説明受けてるみたいだし……。

 たぶん、この男が裏で何してるかってこと、一切知らされてないんだよね?


 なのに、


『私、あなたのお兄さんに、大切な人を三人も傷付けられたあげく、無理矢理ここにさらわれて来たの!』


 ……なんて、言えるワケないしなぁ……。



 焦った私は、思わず暗殺者――彼女の兄とかゆー人に目をやった。

 すかさず、ものすっごく怖い目つきでにらまれ、ヒヤッとする。


『余計なことを言うな。言ったら殺す!』


 そう顔に書いてある気がして、私はゆっくり視線をそらし、ハァ~っとため息をついた。


「ニーナ。ちっとばかし席外してろ。俺はこいつに用があるんだ」


 いきなり口を開いた暗殺者は、ニーナちゃんの華奢(きゃしゃ)な肩に手を置いて、部屋から出て行くよう指で示した。

 私はギョッとして顔を上げ、毛布を胸の前で握り締めつつ身構える。



 な……っ、なにっ?

 人払いなんかして、いよいよ私を殺す気っ!?


 妹さんが近くにいるのに、そんなことしようとしてるとしたら……。

 この男、相当なクズだわっ!



「でも……せっかく、温かいスープで、体を温めてもらおうと思ったのに……」 


 可愛く口をとがらせて、兄を見上げるニーナちゃんに、


「冷めちまう前に話は終わらせる。だからほら、外に出てろ」


 今度は頭に手を置いて、軽くクシャクシャっと撫でながら、男はぶっきらぼうに告げた。


「……は~い……」


 ニーナちゃんは渋々うなずいた後、私に向かってぺこりと頭を下げ、退室して行く。

 それを黙って見送ると、男はこちらに向き直り、


「ニーナに妙なこと言わなかっただろうな? 言ってたとしたら、本当に殺すぞ」


 低い声をいっそう低くして、鋭い眼光でにらみ据えた。

 私はムカっとして、


「なっ、なによ! 人のことさらっておいて、偉そうに! あんたなんかに、指図される覚えな――っ」


 思いっ切り声を張り上げて文句を言うと、男は素早く私の口を片手でふさぎ、耳元に顔を寄せて、


「大きな声出すんじゃねえ。今度よけいな真似しやがったら、その場で殺す」


 心で『ヒ…ッ!』と悲鳴を上げてしまうくらい、ドスを利かせた声で脅した。


「いいな? わかったならうなずけ。うなずかねえなら、口だけじゃなく、鼻もふさいで窒息死させてやる」



 ――窒息死!?

 そんな苦しそうなの、絶対イヤっ!!

 どうせ殺されるなら、苦しむ時間が短くて済むような……切腹時の介錯(かいしゃく)みたいな殺され方をしたい!



 そう思った私は、不本意ながらも、素直にこくこくとうなずいた。


「よし。騒いだら殺すからな? 大きな声出すなよ?」


 男はそう言いつつ、ゆっくりと私の口元から手を離し、ベッドの前の小さな椅子に、ドカッと腰を下ろした。


 男の大きな体と、小さな椅子は、あまりにも不釣り合いで、座り心地がが悪そうだった。

 大丈夫かなと、一瞬心配してしまったけど、こんな男の心配をしてやる義理はない。

 私はあえて男から目をそらし、早口で告げた。


「こっ、これから私をどーするつもりなのっ? 殺すにしても、あんな可愛い妹さんがいるところではやめてよねっ! せめて、他の場所にしてっ!」


 男は不機嫌そうに眉間にしわを寄せ、口をへの字に曲げてから。


「当たりめえだ。ここでなんか殺すかよ」


 吐き捨てるように言い放ち、プイッと横を向いた。


「……俺達の居場所を、血なんかで汚して堪るか」


 独り言のつもりだったのか、かなり小さな声だったけど。

 妹さんと暮らしているこの家には、かなり愛着あるみたいだなと、私は感心してうなずいた。



 ……まあ、誰だって、自分の家で人殺しなんてしたくないだろうけど。

 この男にも、一応、人並の感情はあるんだな――と納得したところで、私は改めて、男の顔を確認した。



 ……むむ?

 落ち着いて見ると、なかなか整った顔立ちをしてる。


 ニーナちゃんが、あれだけの美少女なんだもの。お兄さんの顔立ちだって、整ってて当たり前か……。



 でも、美形は美形でも、タイプは全然違うみたい。


 この人の顔は、浅黒く日焼けした肌といい、ガッシリとした体つきといい……分類するならワイルド系。

 『美男子』とか『ハンサム』とか『いい男』ってたとえるよりは、『男前』ってたとえた方が、納得できる気がする。


 え~っと……とにかく。


 兄の方は『男らしさを前面に押し出したタイプの美形』って印象なんだけど。

 ニーナちゃんの方は、雪のように白い肌と言い、骨格からして細そうな、めっちゃ華奢な体格と言い……。

 男女差があるとは言え、全くと言っていいほど似ていなかった。



 不思議に思い、まじまじと見ていたら、


「なにジロジロ見てんだよ? 気っ色悪ぃな」


 男はチッと舌打ちし、再びギロリと睨みつけて来た。


「……あ、ごめんなさい。意外と、整った顔立ちしてるんだな~って、感心しちゃって」


 正直に伝えると、


「ば――ッ! なっ、なに――っ、……なに言ってんだおまえ!? おちょくってんのか!?」


 男はうろたえたように顔を赤らめ、めいっぱい体を後ろに引いた。


 すると。

 その拍子にバランスを崩したのか、


「ぅわッ!?」


 上ずったような声を上げて、椅子から転げ落ち、ドスン! と大きな音を立てて、床に尻餅をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ