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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第12章 連れ去られた姫君

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第1話 余韻に浸る暇もなく

 途中で一度、ウォルフさんがドアをノックをして。

 少しギルと話して、夕食だけ置いて去って行った――ということは、なんとなく覚えてる。


 でも、その後の記憶は曖昧(あいまい)で……。


 確か、最後にギルが私を抱え上げて、体を綺麗に洗い流してくれてから、またベッドに運んでくれたような……気がする、けど……。


 それがホントにあったことなのか、はたまた、夢の中での出来事だったのか。

 正直、断言するだけの自信はなかった。


 ただ、ハッキリと目を覚ました時、隣にギルの姿はなくて――。

 遠く、微かに水音を聞きながら、私はのろのろと半身を起こした。


 とたん、自分が何も身に着けていないことに気付く。

 一気に体温が上昇し、私は両手で体を抱えて縮こまった。



 体が重い。

 ところどころに鈍い痛みが残っていて、なんとなく心細い。



 辺りを見回すと、サイドテーブルに、真新しい衣類が置かれているのに気が付いた。

 たぶん、夕食と共に、ウォルフさんが持って来てくれた着替えだろう。


 私は這うように近付いて行って、それらを手に取った。

 下着、ネグリジェと、それぞれ確認してから、身に着けて行く。


 ……さすがに、今日のネグリジェはブカブカじゃない。サイズぴったりだ。

 苦笑して、私はベッドの端に腰を下ろした。



 あの水音は……ギルがシャワーを使ってる音か。

 ……ってことは、最初に私の体を綺麗にしてくれてから、自分の体を洗いに行ったのかな?



 …………え?

 ギルに、体を……洗ってもらっ……た?



 ……そーだ。

 思い出した。


 あれは夢なんかじゃない。ホントにあったことだ。

 私はギルに……彼に、体を……。



 今更ながら、強烈な羞恥心(しゅうちしん)が込み上げて来た。

 両手で膝を抱え込み、小さく小さく縮こまる。



 ヤダ。なんで私……あんなこと許しちゃったんだろ?

 いくらボーっとしてたからって、なんであんな……っ!?



 それを思い出したことがきっかけで。

 昨夜の出来事が、本のページをパラパラめくるみたいに、次々脳裏に浮かんで来ては、通りすぎて行き……。


 私は両脚を抱えたままベッドに倒れ込み、右に左に、せわしなく体を動かしたり、手足をバタバタさせたりした。

 耐えられないほどの恥ずかしさを、どうにかして吹き飛ばしたかったんだけど……。


 当然、その程度では、何の効果もなかった。

 私は頭に両手を当て、心のなかで絶叫した。



 イヤぁあああーーーーーッ!!

 どーして私、あんなこと……あんな恥ずかしさの連続行為に耐えられたのっ?


 恋人同士って、ホントにみんな、あんなことしてるの?

 私が無知なのをいいことに、いいよーにもてあそばれてたり、騙されてたりするワケじゃないのっ?



 ……もてあそばれてるなんて。


 恋人を疑ったりして、嫌な子だなとは思うけど。

 こればっかりは、他の人に訊ねたりも出来ないし……。



 ああ……こんなことなら、向こうの世界にいる時、もっと勉強しとけばよかった。

 恋とか愛とか、全然無縁なとこにいたから……これっぽっちも、予習しようなんて思わなかったもんなぁ。


 せめて、恋愛中心の漫画とか小説とか、手当たり次第に読みあさっておけば、こんなことには……。



 ……あ。そー言えば。

 エレンさん、故郷に幼なじみの婚約者さんがいるって、前にチラッと話してたっけ。

 だったら、エレンさんに訊けば、少しはわかるかな?


 ……って、そんな恥ずかしいこと、よりにもよってあの大人しいエレンさんに、訊けるワケないじゃないッ!!



 あああっ、もぉッ!!

 このたとえようのない恥ずかしさを、いったいどーやって追い払えばいーのっ!?


 誰か教えてぇええええーーーーーッ!!



「あぁあぁあぁ~~~ッ!! ギルが出て来たら、どんな顔して迎えればいいってのよぉおぉおぉ~~~ッ!?」


 (わめ)きながら、ぐるんぐるんと横回転し続けていたら、ベッドのヘッドボードに勢いよくぶつかり、


「ぎゃん…ッ!?」


 後頭部と背中とお尻を、ほぼ同時に打ち付けた。



 うぅっ……なにやってるんだろ、私?

 こんなことしてたって、私とギルが……その……。

 む――、むすっ、……結ばれた、って事実は、変わりはしないのに……。



 べつに、後悔してるワケじゃないんだけど。

 どっちにしろ、夜にはそうなる約束だったんだし。予定がちょっとだけ、早まっただけだもん。



 あの時は、フレディのところに行かせたくない一心で……ってゆーのもあったけど。


 でも、フレディのことがあって……やっぱり、『初めての人はギルじゃなきゃヤダ』って、改めて思ったことの方が、私の中では大きかったんだ。


 だから、後悔なんてしてない。するはずもない。

 私は……ギルのことが、誰より一番好きなんだから……。



『リア……。愛している』



 突然、ベッドの中でのギルのささやきが蘇って来て、全身が熱くなる。

 何度も何度も、耳元でささやかれた言葉。


 『愛している』なんて、言われれば言われるほど、言葉の意味合いが薄まってく気がするから……ホントはあんまり、言って欲しくはないんだけど。


 でも、やっぱり……ギルの『愛している』は、全然軽い感じじゃなくて。心から言ってくれてるのが、すごく伝わって来るってゆーか。

 なんとなく、重みみたいなのも感じられて……嬉しいことは、嬉しい……かな……。


 それに、『優しくしてあげられないかも』って言ってたわりに、最初は、いつも以上に優しかったし……。


 優しくて……とても大切にしてくれてるのが、言葉ではうまく説明出来ないけど、すごく伝わって来て。

 幸せで、何度も泣きたくなっちゃった。


 伝えたいことは、ちゃんと言葉にしなきゃ伝わらない――って思ってたけど。

 言葉じゃなくても……ううん。言葉以上に想いを伝える方法ってあるんだって、初めて知った。


 そして、改めて思ったんだ。

 ギルを守りたい。こんなにも大切に想ってくれている彼を、彼の心を守りたいって。


 ……絶対、守ってみせる。

 これ以上彼を――彼を誰にも、傷付けさせやしない――!



 心に誓った瞬間。

 ドアを激しく叩く音がし、ビクッとして飛び起きた。


「兄上ッ、ご無事ですか!?――リナリアッ! リナリアッ!!」



 フレディ――!?



「ど、どーしたのフレディっ? 何かあったの?」


 慌てて返事すると、険しかったフレディの声が、ホッとしたように(やわ)らいだ。


「よかった。無事だったんだな。――たった今、この城に怪しい人間が入り込んだらしいと、報告があったんだ。だから心配になって――」

「怪しい人間!? ホントなのフレディっ?」


「ああ、本当だ。今もどこかに(ひそ)んでいるかも知れない。充分、気を付けてくれ!」

「わ、わかった。気を付ける! 教えてくれてありがとう」


「いや。……それより、兄上は? そこにはいらっしゃらないのか?」

「え?――ああ、うん。今、湯浴みしてるみたい」


 そう言ったとたん、フレディの声がピタリとやんだ。


「……フレディ? フレディ、どーしたの? 怪しい人でも見つけた?」

「いっ、いや。そうじゃない。……なんでもないんだ。すまない」


 再び沈黙してしまった彼が気になって、私は慌ててベッドから下り、ドアの側まで駆け寄ろうとした。


 ――瞬間。

 背後で〝ガシャーーーンッ!!〟と、ガラスが割れるような音がして。

 反射的に振り向いた私の前に、大きな人影が立ちふさがった。


「リナリアっ!? なんだ今の音はッ!?――リナリアッ! リナリアッ!?」


 フレディの声は、ちゃんと耳に届いていたけど。

 あまりのことに声も出せず、私はその人影を見つめるばかりだった。



 大きな月を背にしていたから、顔はよくわからない。

 ――でも、間違いなかった。


 その男は、私がここに来る原因を作った、張本人。

 私が勝手に『暗殺者』と呼んでいた男だった。

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