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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第11章 決壊

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第7話 醜い印

 私は焦って目をそらし、どうやってごまかそうかと必死に考えた。


 目にゴミが入って――なんてゆーのは、大掃除でもしてない限り、室内では厳しいし。

 また『向こうの世界のこと思い出しちゃって』なんて言ったら、ギルを悲しませるだけだし……。



 あああああっ、どーしよっ、どーしよーっ?

 全ッ然、うまい言い訳が思いつかないよーーーーーッ!!



「リア。どうやってごまかそうかと、思案しているね?……隠そうとしても無駄だよ。君は、思っていることがすぐ顔に出るからね」

「そっ、……そんな……私、べつに……何も隠してなんか……」

「私の目を見て言ってくれないか? 目をそらせながら言われても、信じられないよ」

「う――っ」


 私はどうにか頑張って、ギルを見返そうとした。

 彼の目を真正面から見つめて、キッパリ言ってやろうと思った。『何もなかった』って。



 ……でも、ダメだった。

 どーしても、彼と目を合わせられない。


 目を合わせたとたん、全てを見透かされてしまいそうで、怖かった。

 さっきあったことが、全部バレてしまいそうで……怖くて堪らなかった。



「リア……。やはり、何かあったんだね?」


 ギルの暗い口調での問い掛けに、私は心臓をバクバクさせながら、思い切り首を横に振る。


「ないっ!! なんにもないよっ!」

「嘘だ。君は嘘をついている。――君の態度を見ていればわかる」

「嘘じゃないッ!! ホントに嘘じゃないってばッ!!」

「ならば何故、私から目をそらせるんだ!? 嘘偽(うそいつわ)りがないのなら、私の目を見て言えるはずだ!」


 彼は、私の肩に置いた両手に力を込め、軽く揺さぶった。

 私は両目をギュっとつむり、彼に納得してもらうためには、どうしたらいいのか、一心に考え続ける。


 すると。

 ふいに頭上から、


「……なんだ、これは……?」


 抑揚(よくよう)のないつぶやきが聞こえ、首元に、冷たい感触が走った。


「え……?」


 身をすくめたまま、そうっと顔を上げる。

 彼は顔をこわばらせ、食い入るように、じっと一点を見つめていた。


 瞬間。

 何故だか、説明しがたい恐怖を感じ、私は息をのんだ。


「……ギ……、……ギル……?」


 様子のおかしい彼を前にして、それだけ言うのがやっとだった。

 冷たい指先で私の首元に触れると、彼は再び、暗い声でつぶやく。


「なんなんだ、これは……?」

「え? これ……って?」


「首元の青黒い(あざ)はなんだと訊いているッ!!……これは、私が付けたものではない。私は、こんな(みにく)い印など残したりはしない! ここまでひどい痕にならぬよう、いつも気を付けているつもりだ! それなのに……。なんなんだ、この――強く吸いついただけというような、醜い印は!?」


「醜い……印?……首、元――」


 彼の言う『醜い印』がなんなのか。

 それに思い至った時――全身の血が、一気に引いて行くような心地がした。


「君は……。私が眠っている間に、またフレディに会いに行っていたな!? 会いに行って、そして――こんな醜い印を付けられ、何食わぬ顔で、私の元へ戻って来たのか!? 君は――っ、……君はいったい、何を考えているんだッ!?」


 両手首をつかまれ、強く引き寄せられる。

 彼の顔が間近に迫り、思わず、顔を背けてしまった。


「何故目をそらす!? やましいことがないのなら、まっすぐ私の目を見ろ! そして、わかるように説明してくれ! この首元の印は、誰に付けられたッ!?」

「……そ……それは……。それは、あの……」

「私の目を見ろと言ったはずだッ!!」


 手首を強く締め付けられ、痛みに顔がゆがむ。

 反射的に見上げると、彼は激しい怒りの形相で私を睨み、ワナワナと体を震わせていた。


「違……っ!……違うの、これは――。これはっ」

「これは、なんだ!?……付けたのはフレディだな? そうなんだろうっ!? あいつ以外考えられない!」


「違うのギルっ! これは――っ」

「違う!? 違うだって!?――では誰だと言うんだ!? ウォルフか!? アセナか!? それとも……君のお気に入りの、シリルとでも言うつもりかッ!?」


「そっ、そんなワケないッ! シリルがそんなことするはずないじゃないッ! バカなこと言わないでッ!」

「だったら誰なんだッ!?――フレディでもない、ウォルフでもアセナでも、シリルでもない! 私の知らぬ間に、また新しい男が現れたとでも言うのか!?……ならば、今すぐその男を連れて来い! 私の手で殺してやるッ!!」



 勢いで、つい――口走ってしまっただけだとは思うけど。

 『殺してやる』なんていう、あまりにも物騒なセリフに、私は激しく動揺した。

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