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赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第11章 決壊

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第1話 フレディの部屋へ

 もしかしてこの階って、ギルとウォルフさんとフレディと――って、三人の部屋しかないんだろうか?


 ……うん。たぶんそうなんだろうな。

 そうでもなきゃ、私一人でフレディの部屋に行くこと、許してもらえてないと思うし……。



 シンと静まり返った廊下を走っていると、自分の足音だけが、やたらと大きく聞こえて、ヒヤヒヤしてしまう。


 でも、どこからも人が現れるような気配はないし、廊下はひたすら一直線だし。

 人に見つかる心配も、迷子になる心配も、どっちもないのだとしたら。


 これからも、ギルとフレディの部屋の行き来、結構気楽に出来るかも知れないなぁ……なんて思えて来る。


 ……まあ、この階だけなら、の話だけどね。



 人の往来がないのは、こっちとしては助かるんだけど……考えてみれば不思議な話だ。


 ギルが、生きるか死ぬかって状態(表向きは)の時に、フレディしか見舞いに来てないのも、異常だと思うし。


 ギルが私と結婚すれば、次期国王はフレディになるんだとしても。

 結婚が正式決定するまでは、彼が、この国の大切な後継者のはずなのに。


 特に国王様!

 自分の息子が襲われたってゆーのに、ちらっとも様子を見に来ないってのは、どーゆーことよ?


 お父様見てれば、国王がどんなに重責で多忙かは、わかってるつもりだけど……。

 でも、ちらっと顔見せるくらいなら、出来るはずじゃない? うちと違って、同じ城内に住んでるんだから。


 ……なのに、どーして来ないのよ?


 ギルの話聞いた限りじゃあ、あんまり、親子関係はうまく行ってないのかな?――って気はするけど。

 それにしたって、一度も様子見に来ないってのは……やっぱり、おかしいとしか思えないのよね。


 ギルもウォルフさんも、そこら辺のことについては、特に気にしてる様子もないし。

 だからますます、わからなくなるんだ……。



 国王様は、ギルが心配じゃないのかな?

 それとも、ギルの治癒能力を、絶対的な力だって信じ込んでて……危険な状態になんかなるワケない、って思ってるとか?


 う~ん……。

 でも、そうだったとしても、万が一ってこともあるじゃない?

 そーゆーこと、少しも考えたりはしないのかな?


 血の繋がった親子なら、たとえ、どんなに信じてたとしても、心配くらいはするものだと思うんだけどなぁ……。気になって仕方なくて、飛んで来ると思うんだけどなぁ……。



 この国の国王様――ギルとフレディのお父様って、どんな人なんだろ?

 彼らの話から受けた印象からすると、あんまり、頼りになるタイプではなさそうだけど……。


 でも、アナベルさんに、恋敵(こいがたき)を殺そう――とまで、思い詰めさせちゃう人なんだから、男性としての魅力はあるはず……だよね?


 将来、義理のお父様になるかも知れない人だもん。嫌な人であって欲しくないんだけどなぁ……。



 ――なんてことを、つらつらと考えながら走っているうちに、フレディの部屋の前まで来ていた。



 ……フレディ、部屋にいるかな?

 ノックしたら、出て来てくれるかな?



 ちょっとドキドキしながら、数回ドアをノックした。



 ……あれ? 反応がない。

 もしかして、どっか行っちゃってるのかな?



 もう一度、少し強めにノックする。



 ……うぅむ。

 やっぱり、部屋にはいないのか……。


 でも、最後にもう一回だけ――。



 拳を握り締め、更に強めにノックすると、


「うるさいッ!! しばらくは、誰も近寄るなと言ったはずだッ!!」


 やっと反応が返って来て、少しホッとしながら声を掛けた。


「ごめんねフレディ! ちょっと、訊きたいことがあって――」



 ……シーン……。



 ――って、いやいや。『シーン』じゃないでしょ、『シーン』じゃっ!

 今、確かにフレディの声がしたんだから、いないワケないのに無視されたっ?



「ちょっとフレディっ! お願いだから、無視しないでちゃんと話聞いてっ?」


 私は中にいるはずのフレディに呼び掛けながら、ドンドンとドアを叩いた。


「ダメだッ!……もう、おまえには会えない。会っちゃいけないんだッ!!」


 絞り出すような大声にビクッとして、私は少しの間、掛ける言葉も浮かばぬまま立ち尽くした。


 我に返って、ドアに両手をつくと、彼を刺激しないように注意しながら、穏やかに話し掛ける。


「……フレディ? 会っちゃいけないって、どーしてそんなこと言うの?……もしかして、ギルが言ったこと気にしてる……?」



 ……もしかしなくても、そうか……。

 ギルにあそこまで言われちゃったら、会おうって気に、なれるワケがないよね……。



「フレディ、大丈夫だよ! 今、ギルは眠っちゃってるから――私さえ黙ってれば、会ってたことなんてわからないよ! だからお願いっ、ここを開けて? さっさと話終わらせて、すぐ出て行くから!」



 しばらく待ってみたけど、中からは何の返答もない。


 やっぱりダメかと、諦めてドアから離れた瞬間。

 ドアが数センチだけ開き――蒼白い顔のフレディが、チラリとだけ見えた。


「本当に……早く話を終わらせて、出て行くんだな?」

「うん!」


 私が大きくうなずくと、彼はスッと目をそらし、


「少しだけ、だからな」


 それだけ言って、大きくドアを開く。


「ありがとう、フレディ!」


 お礼を言って中に入ると、彼は無言のままドアを閉めた。

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