第13話 浮気防止?
私の想いを、すぐに受け入れてくれたってことは。
本当は、ギルもフレディを憎みたくないって、心の底では思ってるんだよね……。
でも、出来なくて。
彼に罪はないってわかってても、どーしてもすんなりとは、受け入れることが出来なくて。
……だからこそ、ずっと苦しんでるんだろうな……。
ギルも、最初から素直に――ってゆーのも変かも知れないけど、もっとストレートに、フレディに感情をぶつけられていたらよかったのに。
そうすれば……もしかしたら、ここまで苦しまなくても、済んでたんじゃないかな?
変に気持ちを抑え込んで、表面上は、立派な兄を演じていたりしたから……よけいいびつな感じに、感情も関係もゆがんでっちゃって……。
だから今、こんなにも、辛い状況に追い込まれちゃってるんじゃないだろうか。
……ギルはきっと、無理をしすぎたんだ。
無理しすぎたせいで、しんどくて……耐えられないところまで来ちゃったんだ。
もし、このまま無理を続けていたら……いったい、どうなっちゃってたんだろう?
彼の大きな手で、頭を撫でてもらっている途中、ふと、そんな思いに囚われた。
考えていたら、何故だか、無性に怖くなって来て……。
無意識のうちに、彼の体にひしとしがみつく。
「リア?……どうしたんだい、こんなに震えて……?」
「……わからない。自分でも、よくわからないの。わからないんだけど……なんだか、急に怖くなって来ちゃって……」
「怖い? 怖いって……何が?」
「だから、わからないんだってばっ。わからないけど、でも……」
「でも?」
……言えない。
もう少し、ギルの心の闇に気付けないまま、日々を過ごしてたら……ギルの心が、壊れちゃってたんじゃないかって。
……ふと、そんな気がしたんだ――なんてこと、言えっこない。
「お願い、ギル。どこにも行かないで! ずっと……ずっと私の側にいて――!」
泣き出しそうになりながら、必死に彼の背にしがみつく。
彼はそんな私の頭と背を、なだめるように優しく撫でてくれながら、穏やかな声でささやいた。
「当たり前だろう? 私のいる場所は、いつだって君の側だけだよ。君のいないところになど、行きたくもないし、行くつもりもない。一生、君から離れるものか」
「ギル……」
彼は私の顎に手を掛け、上向かせてから、もう片方の手で頭を抱え込み、柔らかく唇を重ねた。
この城に来てから、何回くらい、こうして彼のキスを受け入れただろう?
……もう、数えるのも怖いや……。
「リア……」
切なげに名を呼んで、彼の唇が、顎へ、喉元へと、すべるように伝って行く。
くすぐったくて顔を傾けると、彼は首筋に唇を押し当て、軽く吸いついた。
「や……っ、……ダメ!」
彼の肩を強く押しやり、私は首を横に振る。
「ダメ?……どうして?」
「だって、ギルってば……キ、キスマークばっかり……残すんだもん」
「残されたら、マズいことでもあるの?」
「あるよっ! あんなにあっちこっち残して……。他の人に見られたら、どーするつもりなのよっ?」
顔を熱くして訴えると、彼は呆れたようにため息をついた。
「わかっていないな。これを残す意味は、そこにあるのに」
「……は? 残す……意味?……え? どーゆーこと?」
きょとんとして見上げる私に、彼は、ますます呆れたような顔をしてみせ、
「キスマークは、『恋人の印』だと言っただろう? これを残すことで、『この人には恋人がいます』ということを知らせる。――そういう役割があるんだよ。むしろ、見せつけるためのものだと言ってもいい」
物わかりの悪い子に教える教師のように、『わかった?』と訊ねてから、私の肩に両手を置く。
「え?……え…………えぇえええーーーーーッ!?」
私は心底驚いて、絶叫してしまった。
……嘘っ!?
キスマークって、そんな意味があったのっ?
見せつけるため……って、そんな――っ!
「でっ、でも! 見せつけるためだとしたら、もっとこう……て、手の甲とか、手首辺りでもいーんじゃないの? なんでわざわざ、人目につきにくいとこにも残したりするのよっ!?」
バスルームで確認した時。
見せようという意思でもない限り、絶対見えるはずのないようなとこにも、キスマーク残ってたし……。
睨むように見つめると、彼はふいっと目をそらせ、
「……浮気防止」
耳を澄ませなければ聞こえないくらいの小さな声で、ボソッとつぶやいた。
「……浮気……防……止?」
呆気に取られ、彼を穴のあくほど見つめる。
そして、意味を理解したとたん、カーッと頭に血が上った。
「ちょ…っ!……それって結局、私のこと信用してないってことだよね!? 浮気するかも知れないって思ってるから、そーゆーことするんだよねっ!?」
なにが『恋人の印』よっ、バカにして――っ!!
私はメチャクチャ頭に来て、目にいっぱい怒りを込め、彼を睨みつけた。