表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤と黒の輪舞曲~【桜咲く国の姫君】続編・ギルフォードルート~  作者: 咲来青
第10章 心の闇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

118/225

第12話 許すということ

 ギルにキスされると。

 (またた)く間に甘い感覚に支配され、私は彼のキスを受け入れることだけに、夢中になってしまう。


 ダメ。ダメ――!


 ……って、何度も思うのに。


 どうしても、拒むことが出来ない。

 キスを知る前は、容易に出来ていたはずのことが、どんどん出来なくなって行く。



 私たちは、何度も顔の角度を変えては、繰り返し繰り返しキスをした。


 その間、私は体から力が抜けてしまわないように、しがみつくようにして、彼の両腕をつかんでいるんだけど。

 彼が与えてくれる快感も、感情も……全てが、うっとりしてしまうほど心地良くて。

 彼が、私の体を両手でしっかりと支えてくれていなかったら、とっくに椅子から転がり落ちていたかもしれない。



 しばらくしてから、ギルはそっと唇を離すと、熱を帯びた瞳で私を見据えた。


「……私に嘘をついた罰だよ」


 艶っぽい声でささやいて、私の両腕をつかんで立ち上がらせ、ギュウっと抱き締める。


「キスが……罰、なの……?」


 余韻(よいん)に浸りながら訊ねると、彼はくすりと笑って、


「そうだよ。これからは、君が嘘をつくたびに――こうやって、キスをすることにしようか」


 耳元でささやき、こめかみに唇を押し当てた。


「キスが罰……なんて、変なの……」

「そうかい? 私は変だとは思わないが……。では、どんな罰ならいい?」


「罰……なんて……、どんな罰だって、イヤに決まってるじゃない」

「フフッ。――そうかな? 私なら……君からのキスが罰であるなら、喜んで受け入れるよ?」


「……そんなこと、しません」

「――なんだ。それは残念」


 彼はクスクス笑って、私の頭や額や頬に、キスの雨を降らす。

 私は小さく縮こまり、彼からの罰を受け続けた。


 勢いが弱まって来たところで、


「どー考えても、嘘ついた数より、罰の数の方が多いんですけど……?」


 小声で抗議すると、またおかしそうに笑って、抱き締める手に力を込めた。


「今の分だけではないからね。……これまでだって、君は幾つも、私に嘘をついて来ただろう?」

「そっ、そんなはずない! 私、そこまで嘘つきじゃないもんっ。フレディのことにしたって、圧倒的に嘘が多いのはギルの方でしょっ?」


 勢いで、余計なことまで言ってしまって、ハッと我に返る。


「あ……。ごめんなさい。私……」


 慌てて謝ると、彼は更に強く抱き締めて来て、悲しそうにつぶやいた。


「いいんだよ。……君の言う通りだ」

「ギル……」



 ――バカ!

 私ったら、また余計なこと……。


 どーしてこう、何度も口をすべらせちゃうんだろ?



 ……やっぱり私、絶望的に、学習能力ないのかな……。



 情けなくて、胸が痛んで……泣きそうになったけど、私は彼の背中に手を回し、ギュッと力いっぱい抱き締めると、


「でもっ!……私、ギルがフレディを許せないって気持ち……フレディには悪いけど、仕方ないことだと思う。だって、アナベルさんに、あんなひどいことされて……大切なお母様を奪われて。それでも笑って、二人のこと許せるとしたら、そっちの方がおかしいと思うもん。アナベルさんはともかく、フレディに罪はないって、頭ではわかってても……心では、そんなにうまく割り切れないよ。納得なんか出来っこない」


「……リア……」


「だから、ギルがフレディを許せなくても、見当違いな憎しみを抱いちゃってるとしても、私はあなたを責められない。……ううん。責めたくなんかない」


 そこで私は、後ろに回した手にいっそう力を込めて抱き締め、


「だからね? だから……私が代わりに、フレディを許してもいい……?」


 思い切って、ずっと考えていたことを告げた。


「代わりに……許す……?」


「うん。……ギルが許せないって気持ちはわかるの。でも……でもやっぱり、どー考えたって、フレディに罪はないでしょう? だから……ギルが許せない分、私が許してあげたいの。ギルの分まで――彼に罪がないことを理解して、今までと変わらないように接したい。……ね、ダメかな……?」


 ギルの気持ちを考えると、口にするのは辛かったけど……。

 私は勇気を振り絞り、恐る恐る訊ねた。



 本当なら……ギルの恋人だったら、共に怒って、共に泣いて……ってゆーのが、当たり前なんだろうと思う。

 彼の気持ちに寄り添って、一緒に彼らを憎むくらいの覚悟でなきゃ、良い恋人って言えないのかも知れない。


 ……でも。

 一緒に、アナベルさんのことを怒ることは出来ても……泣くことは出来ても。

 私には、フレディを憎むことなんて出来ない――!


 たとえそれが、ギルの心を傷付けることになったとしても……恋人失格だって、思われちゃったとしても。

 どーしても、それだけは出来そうにないから……。



「リア……」


 彼は私の肩に両手を置き、ゆっくりと体から離した。

 私はビクッと目をつむり……沈黙して、次の彼の言葉を待つ。


 だけど、彼がくれたのは、言葉なんかじゃなくて――。

 そっと私の頭を撫でてから、額に唇を押し当て、気持ちを行動で示すことだった。


「……ギル?」


 そうっと片目を開けて見上げると、彼は泣きそうな顔で微笑しながら、優しい声でささやいた。


「ありがとう、リア。……君は本当に、最高の恋人だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ