表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/225

第3話 第二王子の鎧

 朝食が済むと、アセナさんはテキパキとテーブルの上の食器を片付けてから、一礼し、ワゴンを押して出て行った。

 その手際の良さと言い、無駄のない動きと言い――やっぱり、ウォルフさんにそっくりだと思った。



 アセナさん、私がここにいること、ウォルフさんに教えるかな?


 ……だとしたら、早々にこの部屋から出て行かないと。

 ウォルフさんに様子を見に来られちゃったら、ギルに知られるのは時間の問題だし……。



 心配になった私は、フレディに事情を手短に伝え、お礼を言って席を立った。


「そっ、そんな――。まだいいじゃないか! 大丈夫だよ。アセナは口が堅い方だし、いくら姉弟だからって、詳しい事情も知らないまま、おまえがここにいることをしゃべったりしないさ。だから……なっ? もう少しここにいろよ。いいだろう?」


「でも……。もし、ギルにここにいることがバレちゃったら、今度こそホントに、ギルとの仲が険悪になっちゃうかも知れないんだよ? それは嫌でしょ?」


「そっ、それは……」


 フレディは言葉に詰まり、しばらく考え込んでいたけど、


「だが、ここを出てから、おまえはどうするんだ? 他に行くところなどないんだろう? それとも……兄上の元に戻り、謝罪して許しを請うのか?」


 至極もっともな質問をして来て、今度は私が詰まってしまった。


「行くところもなければ、謝る気にもなれないんだろう? だったら、もう少しここにいろよ! 僕は大丈夫だから」


 何故か、すがるような瞳で訴えられてしまい……。

 断ることが出来なくなった私は、ためらいながらうなずいた。


「そうか!……よかった」


 どこかしら、安堵(あんど)してるようにも思えるフレディが、不思議で仕方なかった。


 私みたいな厄介者(やっかいもの)、出て行ってくれた方がせいせいすると思うのに。

 どーして、こんなに親切にしてくれるんだろ?


 次、ギルに見つかったら……フレディに対して、彼がどんな態度を取るか、私だって予想出来なくて、不安で堪らないのに……。



 寂しい……のかな?

 王子様って、友達も出来にくいだろうし……話し相手が欲しい、とか?


 ……うん。そーかも知れない。

 フレディは、きっと寂しいんだ。

 だからこんなにまで、私を引き止めたがるんだ。



 私……今まで、ギルのことばっかり考えて来たけど……。


 フレディだって、お母さんが起こした事件のせいで、嫌な目に遭ったりとか、陰でいろいろ言われたりとか、あったんじゃないかと思うし。

 そのたびに傷付いて、涙を流したりしたことだって……きっと、あったはずだよね。


 彼の尊大(そんだい)な態度は、自分の心を守るための、(よろい)みたいなものなのかも知れない。

 自分は強いんだって、一人でも平気なんだって、自らに言い聞かせるために、生み出した鎧。



「……なんて。考えすぎかな?」


 つぶやいたとたん、ヤバイと思って顔を上げると。

 案の定、不思議そうに私を見つめるフレディが……。


「おまえ、独り言多いよな。クセなのか、それ?」

「くっ――、クセってワケじゃ……ない、と思う……」

「ふぅん……」


 フレディは首をかしげ、しばらくじーっと私を見つめてから、フッと笑った。


「ま、そんなこと、べつにどーでもいいけどなっ。……それより、さっきから思ってたこと、訊いてもいいか?」

「え?……うん、べつにいいーけど……。なーに?」

「その上着」


 私の着ているガウンを指差し、


「それ、兄上の……だよな? どうしておまえが着てるんだ?」

「えッ!?」


 直球の質問をされ、私の顔は一気に熱くなる。



 どーしてって言われても……『ネグリジェがぶかぶかで、胸元がパックリ開いちゃうから、ギルが貸してくれたの』なんて、恥ずかしくて言えないし……。


 ……どっ、どーしよっ?

 いったい、なんて説明すればっ?



 私の思考がぐるぐるし始めた頃、フレディがまたこっちを指差して、


「あれっ? おまえ、それ……」


 そう言って、ツカツカと近寄って来た。


「えっ、えっ?――なにっ? なにナニっ!?」


 まっすぐ向かって来られて、ギョッとした私は、数歩後ずさる。

 すると、


「きゃ――ッ!」


 いきなり何かにつまづいて、背中から倒れそうになった。


「あっ、おいッ!」


 とっさにフレディの手が伸ばされ、私を抱き留めようとしてくれてたみたいなんだけど。

 間に合わず、私達は重なるみたいにして、後方に倒れ込んだ。


「ひゃッ?」

「うわっ!」


 倒れ込んだ瞬間、頭と背中を同時に打ち付けたけど、全然痛くなかった。

 ――それもそのはず。そこは運良く、ふかふかのベッドの上だった。


「すまないっ、リナリア! 助けようと思ったのに、間に合わなかっ――」


 手をついて半身を起こしたフレディが、申し訳なさそうに謝って――途中で言葉を切ると、どこか一点を凝視したまま、固まってしまった。


「フレディ?……どうかした?」


 見上げながら訊ねると、彼は顔をこわばらせ、ゆるゆると首を振る。


「……いや。……なんでも……ない」


 そう言いつつ、手を伸ばして来て、


「ひゃっ?――なっ、なにっ?」


 冷たい指先で、私の首筋に触れた。


「……フレディ?……ど、どーしたの? 私の首が、どーかした?」


 早くどいてくれないかな……なんて思いながら、もう一度訊ねる。

 彼は辛そうに眉根を寄せ、暗い声でポツリとつぶやいた。


「おまえは……やはり、兄上のもの……なんだな」

「……へ?」


 いきなり何を言い出すんだろうと、ポカンとした瞬間。

 『バンッ!!』という物凄い音がして、心臓が跳ね上がらんばかりに驚いた私達は、反射的に音のした方へ目をやった。


「ギ…っ、ギルっ!?」


 ドアの前には、何故かギルが立っていて――。

 私の心臓は、たちまちバクバクと暴れ出した。

次話から、少々辛い展開が続きます。

耐性のない方は、お気をつけくださいませ。(ハッピーエンドという結末は変わりません)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ