新作を投稿してしまいました。
よければお付き合いください。
よろしくお願いします。
曰く、聖女は神聖であれ。ーーはぁ?
曰く、聖女は世界の為にあれ。ーー何言ってんの?
曰く、聖女は神にその身を捧げよ。ーーふざけんな。
神託により聖女として祀られた少女は思う。
この命は誰の為にあるのだろう?
自分は何の為に生まれてきたのだろう?
少女は率直に思った。
「そんなの、自分の為に決まってるじゃない」
しかし少女はこの世に生まれ落ちた瞬間に、その身を神に捧げる為の聖女として祀られ崇められ、偏った教育を受けさせられた。自分が世界の為に身を粉にして働く義務があるのだと、そういう運命を背負って生まれてきたのだと『自ら進んで行動する』ように。
何世代もの聖女がそうしてきたように、少女も例に漏れず神に、世界に、民の為に聖女として清い行いをしていくものだと信じて疑わなかった。
「それは“いくつか前”の自分がそう思っていただけよ。私は絶対に嫌! “今回こそ”上手く立ち回ってやるんだから。“今度こそ”神の生贄やら邪神の供物やら自己犠牲やらで死んだりなんかしないからね!」
レティシア・クリスはマーテル教会の神託により聖女としての役割を与えられた。国教とも言えるマーテル教は信者が多く、一国の王ですら逆らえないほどその権力は絶大なものだった。
故にマーテル教会がレティシアを「聖女として迎え入れた」ということは、彼女が「一生マーテル教会に絶対服従しなければならない」ということだった。
レティシアは“最初は”もちろん自らが聖女であることを誇りに思い、その義務を全うする為に尽くしたものだ。マーテル教会による偏った教育の賜物といっていいだろう。
だがレティシアは気付いてしまった。だから今、ここにいる。
***
セアシェル大陸の東の大国フォースフォロス、その北東に位置する大聖堂にて赤ん坊が産声を上げた。
元気な女の子はマーテル教会の大司祭に掲げられ、洗礼を受ける。
そして神託が下される。ーー聖女の誕生だ。
ここではまだ彼女の意思は働かない。目も見えない、何か聞こえるが何を言っているのかわからない。自分はただ泣き叫ぶだけ。ここからのスタートは例え何周してもどうしようもない。
そう、今はまだーー逆らえない。
5歳、ようやくだ。自我が芽生える頃、レティシアはようやくこれまでの前世の記憶を少しずつ思い出していった。数々の失敗を思い出す。そして前回では何が悪かったのか、どこで間違えたのか、どうすればよかったのか。前世の記憶を思い出した今のレティシアは5歳の頭脳ではない。
見た目に似つかわしくない知性、知識、経験、そのどれもがこれまで何度も人生を繰り返してきたレティシアの培ってきた記憶だ。
「今度こそ間違えないわ。振り返ってみるんだ、今までを」
レティシアは思い返す。自我が芽生えてから実際に行動に移せるまでの期間、彼女は毎回のように前回の反省点を振り返っていた。やり直す時期が来るまでの間、まだ時間は十分にある。
その間にレティシアの心の内に宿った怒りと苦しみを思い返すことにしている。これまでの人生を一から思い出すことで、何度でも炎をたぎらせることが出来た。
それは辛く苦しかったレティシアの、聖女としての悲しい人生の物語だ。
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