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「あなたなんて種馬にすぎないんだからね!?」と言ったツンデレ聖女様が、なぜか婚約者の俺に甘えてキスをねだってきます

「ふぃ、フィル様。あなたはただの種馬にすぎませんからね?」


 目の前の聖女シャルロットは、顔を赤くして、目を泳がせながら、とてもとても小さな声で言った。


 この少女――めちゃくちゃ動揺している!


 婚約が決まった日の夜。俺は婚約者の少女と二人きりで会っていた。


 場所は、彼女の屋敷の応接間。


 俺の婚約者シャルロット・レニエは、これがもう、ものすごく美少女である。可愛いって言葉がこれほどぴったりくる女の子を、俺は他に知らない。


 銀色のロングヘアは月の女神かのように綺麗に輝き、純白のドレスと相まって神秘的な雰囲気だ。

 顔立ちも人形のように整っていて、真紅の瞳はまるで宝石の紅玉のように美しい。15歳ながら、すらりとした大人びた体型だ。


 しかも優秀で名門貴族の娘だから、「氷の聖女」なんて呼ばれる有名人だ。

 俺とシャルロットの通う王立学園でも、男女問わず熱烈な崇拝者が多数いる。


 そんなシャルロットの婚約者になれるなら、普通の男は喜ぶはずだ。

 

 何を隠そう、政略結婚とはいえ、俺も喜んでいる。しかし、いつもクールなシャルロットの様子がおかしい。

 種馬なんて言われるとは思わなかった。

 

「えーと、シャルロット。種馬ってどういうこと?」


「い、言わせるんですか!? 変態! ふぃ、フィル様はわたしに子供を産ませる道具ってことです!」


「事実といえば、事実だけど……」


 俺、つまりフィル・コルベールは、公爵家の三男だ。


 名門貴族の息子ではあっても、このオルレアン王国では、長男以外の男に土地や財産の継承権はない。


 つまり、俺は血筋が良いだけの何もない16歳の男だ。そういう貴族の次男三男は、聖職者や軍人、冒険者になって生きていくことになる。


 ただし、他の貴族の養子になることもある。

 で、俺は聖女シャルロットの婿に選ばれたというわけだ。


 これは純然たる政略結婚だった。シャルロットは、レニエ伯爵家の長女だけれど、両親は彼女が幼い頃に亡くなっていて、男子はいない。


 だから、俺が後継者候補として送り込まれたわけで、俺とシャルロットの子供が未来の伯爵になるわけだけど――。


「わたしはフィル様と××して、子供を生むんです! そうでないとレニエ伯爵家は断絶してしまいます!」


 シャルロットは、恥じらいながらとんでもないことを言う。周りに人がいなくて良かった。


「こ、子供を作るなんて、先の話だよ」


「あ、今、想像しましたね? 変態!」


 シャルロットが腕で体を抱いて、ジト目で俺を見る。

 言い出したのはシャルロットなのに、俺が変態扱いされるの? ……納得いかない。


「どうせフィル様はわたしとエッチしたいって思っているんでしょう?」


「そんなこと思っていないよ」


 俺がそう言うと、シャルロットは愕然とした表情をした。


「お、思っていないんですか?」


 シャルロットがとても悲しそうなので、俺は慌てて言う。


「ちょ、ちょっとはしたいと思っているけれどね」


「ほ、ほら、やっぱりしたいんじゃないですか! フィル様の変態」


 シャルロットはめちゃくちゃ嬉しそうな顔をした。なんだか「変態」と言われるのも、心地よくなってきた。


「まあ、でも、今じゃないけどね……」


 子供を作るなんて、だいぶ先のことだ。そもそも学園だって卒業していないしね。

 でも、シャルロットはなぜか不満そうだった。


「そんなこと言っていて、フィル様が病気をしたり怪我をしたりしたら、子作りできなくなっちゃうじゃないですか」


「俺の代わりなんて、いくらでもいるよ」


 俺は、血筋が良くて学園でもそれなりに優秀だ。だから、婿養子に選ばれたけれど、聖女シャルロットの婿となればいくらでも候補はいる。


 でも、シャルロットにとっては違ったらしい。


「ふぃ、フィル様に代わりなんていません!」


 シャルロットはそう言ってから、かあっと顔を赤くした。

 すごく恥ずかしがってる。


 俺はおそるおそる尋ねてみた。


「えーと、シャルロットって、俺のこと好きなの?」


「す、好きなわけないじゃないですか! フィル様はただの種馬なんですから」


 そういうわりには、シャルロットの顔は耳まで赤くなって、「ぷしゅー」と音を立てて蒸気が出そうなぐらい恥ずかしがっている。


 まあ、俺も女性の心理にはまったく詳しくないけれど、シャルロットの言葉と態度が真逆で、どうやら俺のことが好きらしいのはわかる。


 問題はなぜなのか、だけど……。


 俺とシャルロットは、貴族で王立学園の生徒という関係で、少しは話したこともある。ただ、親しかったわけではない。

 学年も違うし。


 シャルロットに好かれる理由なんてないと思うけれど……。

 俺はシャルロットに聞いてみる。 


「俺がただの種馬なら、いくらでも代わりはいるはずだよ。違う?」


「……そ、それは……」


「俺はシャルロットを大事な家族になる子だと思っていたんだけどな」


 少し恥ずかしいけれど、こうでも言わないとシャルロットの態度は変わらないだろう。

 これでどう出るか、反応を確かめたい。


 シャルロットは――ぱあっと顔を輝かせた。


「フィル様もそう思ってくれていたんですか!?」


「あれ? つまり、シャルロットも俺のことを『大事な家族』と思ってくれていたってこと?」


 ちょっとからかうように、俺は聞いてしまう。

 シャルロットは「しまった」という表情で口をパクパクさせる。

 

 ついに観念したのか、シャルロットは小声で言う。


「そ、そうですよ! 悪いですか!?」


「悪くはないし、むしろ嬉しいけど……」


「……ごめんなさい。わたし、嘘ついていました。フィル様をただの種馬だなんて思っていません。だ、大事な家族になる人ですから……」


 シャルロットは上目遣いに俺をみつめた。

 その表情はなかなか破壊力があった。


(可愛い……)


 もともとシャルロットは美少女だけれど、クールな印象だった。その少女が、今では俺にだけ、特別な感情を向けてくれている。


「わたし、家族って憧れていたんです。わたしは物心ついたときにはお父様もお母様もいなかったですし。後見人の国王陛下のおかげで何不自由なく成長できましたけれど……」


 気持ちはわかる気がする。俺にはちゃんと家族がいた。

 けれど、俺は三男で、家族のなかで誰からも必要とされていなかった。


 そんな俺は、シャルロットには必要とされているらしい。種馬ではなく、家族として。

 それは――とても嬉しいことだった。


 シャルロットは、真紅の瞳をきらきらと輝かせる。


「あ、でも、フィル様と子供を作りたいのは本当ですよ?」


「伯爵家の跡取りが必要だから?」


「それもありますけど、本当の家族になれる気がして。わたしとフィル様の血を引いた子供がいるって、素敵だと思いません?」


「えっと、いいなとは思うけど……」


「ね、そうでしょう! だから、さっそくフィル様と子作りを……」


「し、しないから!」


「……子供を作りたいって先に言ったのはフィル様なのに。約束したのに……」


「え?」


 そんなこと、俺は言っていない……少なくとも先には言っていない。

 でも、シャルロットの表情は真剣だった。


 俺は必死で記憶の糸をたどる。そして、思い出した。


「そういえば……5年ぐらい前だっけ……王城のパーティで女の子にそんなことを言ったな」


 そのとき会った子は、一人ぼっちで迷子になったみたいで、少しだけ俺と話したと思う。その子は家族がいなくて寂しいと言った。だから、俺が結婚して家族になってあげる、なんて言ったのだと思う。


 子供の思いつきだったけれど、その子はとても嬉しそうにしてくれて……。そして、結婚したら、「子供がいるといいね」なんて話したと思う。


 思い出すと、とても恥ずかしい。こんな黒歴史、知られたら生きていけない。

 そして、知っているどころか、約束した本人が目の前にいる。

 

 そのときの女の子の見た目は、幼いながらとても可愛らしくて、たしか銀色の長い髪に、赤い宝石のような瞳をしていた。

 つまり、シャルロットだ。


 まじまじと、フィルはシャルロットを見つめる。


「そんなに見つめないでください。フィル様のエッチ……」


「ご、ごめん。それに……約束を忘れててごめん」


「ううん、いいんです。だって、今、思い出してくれたんですから。あのとき約束してくれたかっこいい男の子が、わたしの婚約者だなんて、夢みたいです」


「俺も……夢を見ているんじゃないかって思うよ」


「でも、これは現実です。ですから――」


「子作りはしないよ」


「フィル様のケチ」


 シャルロットはがっかりした様子で、でも、楽しそうに微笑んだ。

 そして、そっと俺に近づく。ふわりと女の子特有の甘い香りがして、俺はくらりとした。


「ねえ、フィル様。代わりに一つだけ、甘えてもいいですか?」


「お、俺にできることなら、何でもするよ」


「婚約者のフィル様にしかできないことです」


「種馬にはできないこと?」


 俺が照れ隠しに冗談めかして言うと、シャルロットはくすりと笑った。

 

「そのとおりです。だって……」


 シャルロットは俺の手を取り軽く引っ張った。

 俺の顔が、シャルロットの顔に引き寄せられる。


 そして、次の瞬間、シャルロットの小さな唇が、俺の唇に重ねられていた。

 その柔らかくて甘い感触に、俺の思考は停止する。


 やがてシャルロットはキスを終えた。お互い、目も合わせられないほど恥ずかしい。


「あの……いきなりこんなことして、ごめんなさい。ふぃ、フィル様、嫌だったら――」


「嫌なんてことはないよ。すごく嬉しかった」


 俺が言うと、シャルロットは顔を真っ赤にして、でも「やった!」と小さくつぶやいて、嬉しそうに笑ってくれた。

 そう。嬉しかったのだ。


 誰からも必要とされていなかった三男の俺も、シャルロットの家族になれる。

 シャルロットはそんな俺にささやく。


「じゃあ、次は……」


「子作りはしないよ」


「……残念」


「でも、代わりに……」


 俺はそっとシャルロットを抱き寄せた。シャルロットは「あっ」と小さく声を漏らす。

 そして、俺はシャルロットに口づけをした。シャルロットは、俺にその小さな体を俺に委ねていた


 キスが終わった後、シャルロットは微笑む。


「フィル様からしてくれて嬉しかったです。これからは、もっとすごいこともしてくれるんですよね?」


「すごいことはしないけど、明日からは俺もこの屋敷に住むことになっていたね」


「はい! いよいよ家族ですね。でも、一緒に住むってことは、エッチなフィル様が我慢できなくなっちゃうかも……」


「エッチなのはシャルロットの方じゃない?」


「失礼な! わたしはいかがわしいことなんて少しも考えていません。一緒にお風呂に入ったりとか、一緒のベッドで寝てイチャイチャとか、そんなこと少しも考えていませんから!」


 考えていたんだな、と思って、俺はくすっと笑ってしまう。いや、笑い事じゃないけれど……。


「フィル様はわたしの大事な家族ですけど……でも、種馬になってくれてもいいんですよ?」


 シャルロットは、ふふっと魅力的な笑みを浮かべ、首をかしげた。

 その胸の膨らみが軽く揺れ、俺は思わず目で追ってしまう。


 シャルロットは俺の視線に気づいたようだったけれど、恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうな顔をした。


 そして、とんでもないことを俺の耳元でささやく。


「子供は何人がいいか、考えておいたほうがいいですよね?」



お読みいただきありがとうございました!


二人のこれからが気になると思っていただけましたら


・↓の☆☆☆☆☆評価


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