後編というか実質本編
私には好きな人がいる。
それは目の前にいる、少し考える必要がある問題が出たのだろう、難しい顔をした幼馴染の崇斗のことだ。
崇斗はこのように、真剣な顔をすると、かなり怖い顔つきとなる。
元々強面なのだが、それに輪を掛けて左の口角から頬の下側に広がる傷跡が悪人のような形相を呈していた。
けれど私の目には、その顔はこの上無く男前に写っている。
それもそのはず、崇斗が顔に傷を負ったのは私のためだからだ。
今の私は身長が181cmある。
ただでさえ大きいのに、小学校の頃は女子の方が先に大きくなるのも合わさって、今よりも多くの男子より大きく、そして身長差があった。
そしてそんな私は男子からからかいの対象となった。
女子は私のその様子を男子同士の遊びのように見て、眺めるだけだった。
誰も私の味方をしてくれない、そんな中で私のために、私をからかった男子と喧嘩をした崇斗は唯一の存在となった。
今の崇斗は185cmの身長だ。あの時は小学生だったが、頭一つは他の男子より大きかった。
そして大きいから喧嘩も強かった。
多対一でも恐いもの知らずに喧嘩し、引くことはなかった。
けれどまあ、強くても怪我はする。
ある時コンクリの坂道の道路の上で喧嘩して転ばされて、顔から地面に突っ込んでしまった。
あのときはもう顔中血まみれで、普段の傷とは違ってグロかったのもあり、相手は全員逃げ出した。
あまりの大怪我に、男子達もびびったようで、それからは私や崇斗に関わらなくなった。
そんな経緯もあって、崇斗には悪いが、顔の傷が素晴らしく見える。
あれは私を守るための名誉の負傷なのだ。
ところで、私の恋は、片思いだったりする。
崇斗には幼稚園からの付き合いがある、もう一人の幼馴染がいて、その子が幼稚園の時の崇斗をいじめから救った。
崇斗はそれから、その幼馴染のことが好きだ。
崇斗は、有喜和 亜夢という、私とは正反対の女が好みなのだ。
男子の平均身長すら越える私とは違って、女子の平均より小さく。
少年のようだと言われることもある私の声と違って、アニメ声のお手本のような声をしていて。
同性異性問わずかっこいいと呼ばれることの多い私と違って、逆にかわいいと言われる。
見事に容姿が私と同じ要素がない。
そんな彼女に崇斗は助けてもらったことがあり、それに憧れて崇斗は私を助けた。
小学校の卒業式で、一年生の時に何で助けてくれたのか聞いたら、そう答えられた。
そこで私は気付いたのだ。
ああ、崇斗はあの女が好きなんだなと。
はっきり言って崇斗にはあの女程度ではもったいない。
崇斗は善人だが、あの女は偽善者だ。
崇斗は負けることがあっても果敢に立ち向かう勇気があったが、あの女は崇斗の時のようにいじめを止めようとして標的になったことがある。
そしてびーびー泣いて、崇斗にすがりやがった。
当然頼られた崇斗は飛び込んだ。
そして解決してしまった。
私も、崇斗が大変だからと、一緒に解決に手伝った。
そのせいであの女は崇斗に恋したし、私を親友とか言い出した。
それからは暫く心休まる日がなかった。
うっかり二人がくっついてしまわないように、邪魔するよう立ち回る日々。
微塵も内心で思っていないが、親友だからなんて言って、崇斗が好きなことを明かして、牽制とかもした。
ある日、ついにそんな日々が終わった。
あの女が告白されたのだ。
崇斗に未練があるのを全身から感じていたが、私は猛烈に付き合うことを勧め、あの女は折れた。
そしてあの女に彼氏が出来たことを伝えた。
最初聞かせた時の顔は、本当に可哀想に思った。
けれど、あの女への恋心を捨てさせるには必要だった。
あの女はその後も、告白を受けると毎回毎回私に相談してくる。
私はてきとうなネット記事で見た、多くの恋愛をして人を見る目を養うべきという文を理由に、必ず付き合うことを勧めている。
無事、あの女が付き合うと、崇斗にそれを伝える。
崇斗が完全に恋心を捨てるように。
途中から崇斗は感情を隠すようになった。
それでも僅かにショックを受けているのは分かるので、続けている。
あの女は崇斗と関わりが薄くなってもまだ好きなようで、あまり彼氏と長続きしない。
まあ、モテるので次のはすぐ来る。私も伝える回数が増えることになるし、あの女が軽い印象を与えるのに繋がるので、それはそれで良い。
崇斗が失恋したら、次は私を選ぶように、ついでに私自身のために、今はひたすら同じ時間を過ごす。
どうしても一緒にいられない時は、崇斗の私物を使って誤魔化す。
「お前、そろそろ俺のパーカーとか返せよ。最近寒いんだよ」
ああ、今年もついに言われてしまった。
公然に崇斗の服を家に持って帰る理由が使えなくなった。
冬が終わる辺りまで、持ち帰ることができるのは崇斗が部屋に置いている物と、私が部屋に置いていく、一緒にいられない時の様子を録画するカメラを仕込んだ私の物だけだ。