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「98話 寒さ対策 」

「ああああああああ、だめだだだだだだ。」

寒い、寒すぎる!


『ミウシア様!一度戻りましょう!』

『そうする。』

こんな雪の中、足袋一枚、袴なんてやってられっかああ!!


草原エリアを抜けて北へと進んでいった私は、徐々に寒くなる気候をなんとか耐えながらも歩みを止めなかった。

まだいけるでしょ精神で頑張ってたけどそれはついに限界を迎えた。

気温は何とか耐えても、雪が積もった地面を進めば撥水性もない靴下はすぐにぐちょぐちょになった。


雪が無い場所まで戻ってきた私は、<乾燥>ドライの魔法で靴下を乾かし、落ち葉を燃やして冷えた体を暖める。


『ミウシア様、寒いですよね...あぁ、私がその場にいれば暖めて差し上げたのに....。』

ルニアが通話先でおろおろとしているのが伝わってくる。

でも心配している中に少しだけピンク色な思考が混じっているような気がして反応に困る私。どどどどどどうていちゃうわ!


『寒いよぉ...。心配させてごめんねぇ。』

魔法かなんかで寒さを遮断しなきゃダメだぁ。


カナちゃんが使ってた魔法、私に再現できるのかな...?


私の魔法はサポート?がいまだに効いているらしく、カナちゃんが行っている魔法発動時の工程とは異なっている。

カナちゃんは自分で魔法陣を描く必要があるけど、私はイメージするだけでオートで魔法陣が発動する。

でも私が使っている、剣に魔法陣を描いておく方式の魔法に関してはオートで発動しない。

つまり私でも使う魔法によっては手動で発動することもある。

どんな魔法が手動じゃないと発動しない、サポートの対象外かはまだよくわかってない。


以前寒さから身を守る魔法をオートで発動しようとしたら、不発に終わった。


だからカナちゃんの魔法を使うためには、手動で魔法を行わなくてはいけないのだ。


『ミウシア様はアルカナさんの使っていた寒さをしのぐ魔法を使えないのですか?』

『うーん、カナちゃんがどんな命令式でやってたかわからないんだよね....とりあえずやってみようかな。』


えーと、まず魔法陣の属性は火、枠で囲って命令式は....媚びた文章の方がいいんだっけ?

<寒いから><体を><温めて?>っと、後は始動キー..よしっと。


「<暖房>ウォームボディ!」

手のひらに足元に展開した魔法陣から暖かい風が吹いてくる。

『あ、あったかーい!』


そして袴が風に揺られて.....。


『みっ、ミウシア様!?押さえないと見えてしまいますよ!』

「ひゃっ!」

袴が風に揺られ、ある程度の重さを持っているにも関わらず、袴がめくれそうになる。

咄嗟に手で押さえたその姿はさながら....。


「色気の象徴の人の真似じゃないです!」

『色気の象徴というのは?』

『なんでもナイデス』

命令式が足りないのかなあ?気を取り直してもう一度!


<寒さから><体を><守って?><温かい><空気の><力で>

「<暖房>ウォームボディ!」

熱風が吹くことは無く、私の周囲がじんわりと温かくなってくる。

ためしに数歩歩いてみても体は暖かい。


『ミウシア様?どうですか?まだ寒いですか?』

『ううん、温かい。そんで歩いても温かいままみたい。』

これなら何とかなりそう、このまま一気に寒い地帯を越えちゃおう!


『安心しました。...そういえばもし魔物が襲ってきた場合はどうなるんでしょう?魔法を維持したまま戦うのでしょうか?』

『そ、そういえばカナちゃんも消費が激しいからあんまり戦えないって言ってたような...。』


「グルルル.....。」

<暖房>ウォームボディを維持しながら戦闘をするのは無理なんじゃないかと思っていた矢先に、スノーウルフの唸り声が聞こえた。


やっばい。どうしよう。


速度低下異常が付いて魔法やスキルも、多分<暖房>ウォームボディを維持しながら使うのは難しい。

一度<暖房>ウォームボディを切ってから寒さに耐えながら戦うべきなのか、このままスキル、魔法無しの自分の力だけで倒すべきなのか。


迷っているとスノーウルフが私めがけて茂みから飛び出してきた。

呪いによって速度を制限された腕で、咄嗟に飛び兎を使いカウンターでスノーウルフの口元を切りつける。


牙と飛び兎がぶつかり、ガキン!という音を周囲に響かせた。

牙硬すぎでしょ!!折れてよ!!!


『あわ、あわわわ....。頑張ってください...!!』

『応援ありがとっ!』


地面に着地したスノーウルフは唸り声を上げながらこっちの様子を伺っている。

このままにらみ合っていても何も変わらないし、さっきの一撃でスキル、魔法を使わずに勝てなさそうなことが分かった。


こうなったら<暖房>ウォームボディを解いて一気にケリをつけよう....!


<暖房>ウォームボディ用に常に意識して流していたマナの流れを断つと、急に周囲の本来の寒さを感じた。

完全に体が冷え切る前にスキルの発動のためマナを飛び兎に流し込む。


飛び兎を伝い光属性のマナへと変質させ、さらに雷属性へと変えた。

ニカに教わったスキル「飛雷」は雷に変わったマナを剣を振るった勢いで相手に飛ばす技だけど、今の私ではスノーウルフの速さに対応しきれず、当たらないと思う。


だったら線ではなく、面で勝負すればいい。電気に当たれば痺れて相手に隙が生まれるんだから、当たればいいんだ。


飛び兎を90度回転させて、振った時に刀身の側面が当たるように握り直すと何かを察知したのか、スノーウルフが私めがけて向かってくる。


飛び兎をスノーウルフにめがけて側面で風を仰ぐようにして振ると、飛び兎からバチバチと音を立てながら紫色の雷属性のマナが前方広範囲に飛んでいき、スノーウルフを包み込んだ。


「ギャンッ!」

電気を全身で受けたスノーウルフは四肢がマヒしてそのまま雪に倒れこむ。


「ごめんね。」

喉元に飛び兎を突き立ててスノーウルフに止めを刺して、すぐさま寒さをしのぐために魔法を唱えた。


「<暖房>ウォームボディ!....ふーーーーー。」

冷えてきた体が徐々に暖かくなっていくのを感じ、無事に乗り切ったことを実感する。


『スノーウルフさん、願わくば安らかに眠ってください。』

『あ、ルニアがシスターっぽいこと言ってる。』

ふーと一息ついて近くの木に寄りかかりながらルニアにむかって冗談を言った。


『ぽいじゃなくて元シスターですから!今は僭越ながら、神となった身ではありますけどね。いくらミウシア様を襲ったとはいえ、死した後、その魂に罪はありませんので。もしかしたら来世では私のようにどこかの世界の神様になるかもしれませんしね。ふふ。』


私が命を奪った魔物が神様になるのは恨まれそうで怖いからやだな....でもルニアもやっぱりシスターなんだなぁ。

神に遣える職の人が神になっちゃったら、その心境はどうなんだろう?


『ねぇ、ルニアは神に遣えるシスターだったんだよね。』

『はい、そうですよ。』


『神に遣えてたシスター自身が生まれ変わって神になったことになるけど、ルニアはどんな気持ちなの?』

私の都合で神にして、下働きのようなことをしてもらってる手前、申し訳なさも感じながらルニアに聞いてみた。


『そ、そうですね...。正直今でも実感は湧きません。私は私の眷属達であるバーニア族の方々と対等の立場で考えています。...簡単に言うとそうですね、ふふ、「お友達」みたいなものでしょうか。』

『お、おともだち...。』

バーニア族の司祭たちが聞いたら恐れ多くてひれ伏しそうな発言だぁ...。


『えぇ、お供え物は「お裾分け」、神への祈りは「相談」といったところでしょうか。しかし、バーニア族の方々はそう思ってはいないでしょうね。それでも私は、私自身を信仰してほしいのではなく、もっと身近な存在と思っていただきたいのです。つまり....私は何が言いたいんでしょう?』

『はは、ルニアらしいね。』


あくまで神ではなく対等な存在として...。

神と眷属が近い関係かぁ、あれ?私と同じだ。

信仰されるのってなんか嫌だよね、恐れ多いっていうより一線引かれてそれ以上は仲良くなれない関係。

ルニアもそんなことを思ってるって考えると嬉しいい気持ちになってくる。


『っと、それよりもこの後どうするかだよね。今は何とかなったけど、これからも頻繁に魔物が現れるなら確実に持たないや。』

木に寄りかかっていた部分を手でパンパンと払って、コンパスを頼りに北の方を見つめた。

北の方を見ると森の中に雪山が見えた。

どう考えてもあの山を越えるのは無理。回り道をすればするほど魔物に合う確率も増えていく。

ど、どうしよう...。


『ミウシア様、西の方から何か白い大きな生き物が走ってきていますよ。上から見てるので詳しくは判りませんが....。』

『えっ』

いやいやいや、絶対に無理だって!ルニアの視点で大きな生き物ってわかるってことは、相当大きいんじゃない?

絶対に見つかったらまずい、木の影に入って様子見しよう。


直ぐに<暖房>ウォームボディを切ってダーク・スピリットを展開し、寄りかかっていた木の影に潜り込み、下から様子を伺った。


それから程なくしてその正体が明らかになる。


草原地方で見た大きな魔物よりも大きい、小さな家ほどもある大きな白い狼だった。

下から見ても迫力が凄く、今影から出たら確実に命はないだろう。


『ミウシア様が隠れてる木よりも大きなわんちゃんですね、間近で見てみたかったです...。』

ルニアは動物が好きなのか...って、いまはそんな場合じゃない!


「隠れていても無駄だ、出てこい。ここは私の縄張りだ。」

その低い声は目の前の大きな狼から発せられていた。

きょろきょろと辺りを見回している所を見ると、どこに隠れているかは判ってないのかもしれない。

だとしてもこれ以上隠れていると凍え死ぬし、MPも...げ!MP840/6982!?もうあんまりないじゃん!!


「そちらが手を出さない限り私も手を出さない。隠れていないで早く出てくるのだ。」

...もう限界かな...。

私は観念して木の影からヌッと姿を現して、目の前の狼を見上げた。


「....む?ミウシアか?どうしてそんなに小さくなっているのだ?」

「え?なんで私の名前...。」

こんな大きな狼の知り合いは居ないけど、と思ってまじまじとその狼の目を見つめると、目のあたりに小さな眼鏡が乗っていた。


「もしかして....ルクス?」

「もしかしても何も、私だ。ミウシアはどうしてこんなところに?」

えーーーーーー、でかくなりすぎじゃない!?

私が知ってるルクスはもっと、中型犬と大型犬の間くらいの大きさだったんだけど!?


「いやいやいやいや!!大きくなりすぎでしょ!!」

「ダンジョンの外は全て縮尺が小さいと思っていたのだが、そうか、私が大きいのか。」

何をのんきに!!!気が付いてなかったんかい!

そんで眼鏡ちっちゃ!!!


『ミウシア様のお知り合いでしたか~!あ、ルクスさんって確かダンジョンの中にいた子ですか?』(ヒュムさんのアバターさんでしたっけ?)

『そう、何だけど、10倍くらいの大きさになってる...。』


「ふむ、何か事情でもありそうだな。私の家に来るか?」

「あー、そうしたいのはやまやまなんだけど、私はこの山の向こうに用事あって、でも寒いし敵いるしで困ってるんだよね。」

ルクスの提案は嬉しいんだけど、ただでさえ時間がかかってるのに家になんて行ったら話し込んじゃいそうだよ...それにルクスは狼なのに私よりも人間らしい生活をしているし、絶対に長居しちゃう。


「ふむ、では背中に乗るか?雪山を超えたあたりというと....サクラの森辺りか。」

「え!!いいの!!!!」

改めてルクスを見ると白くふわふわとした毛におおわれていて、乗り心地は絶対に良い。

ルクスに近寄って足付近の毛の匂いを嗅いでみても....全く臭くない。むしろ薬のような匂い?がする。

まさか草とかなんか色々使ってシャンプーを作ってる...?いやいやいやまさかね...。


というか毛が全く硬くない、それどころかもっふもふのふわっふわ。

毛をよく見てみると、長い毛とその毛より少し短い縮れた毛が生えている。

これがダブルコートってやつなのかな?

足にぎゅっとしがみつくと私の全身をルクスの毛がもふっと包み込んでくれた。


「ふわああ、なにこれ幸せ....しかも温かい...。」

『ミウシア様羨ましいです~~。』

「ふふ、私の自慢の毛並みだ。そこではなく、上に乗ると良い。」

ルクスがぺたんと足を折り、わんちゃんが伏せをするようなポーズになる。

背中に乗ればいいのかな?


少しだけ助走をつけて飛び上がり、そのままルクスの背中にダイブした。

もふっと私の身体全体が毛に包まれて心地がいい。

<暖房>ウォームボディを切っていてもこれだけ暖かければ大丈夫そうだ。


「しっかりつかまっていてくれ、私の毛はこう見えて頑丈だ。ミウシアが多少ちからを入れて握っても抜けはしないから安心してくれ。」

「わかった、ありがとう!」

両手を広げてルクスの首にしがみつく、足は袴をはいているため踏ん張りは効かないけどまぁ大丈夫でしょ。


と、その瞬間ルクスの体が大きく揺れた。

同時に風をびゅうびゅうと切る音が聞こえる。

ちょ、ちょっとまって思ったより早いし揺れる!酔いそうだけど自分の足で歩くよりも格段に速いし我慢しなきゃ。


『遠視の泉で上から見るとミウシア様がルクスさんにしがみついているのがよーく見えますよ!....この速さですと今日の夜までにはつきそうですね。...ミウシア様?』

『...へ?あぁ、ごめん。振り落とされないように必死だった...。』

今はお昼過ぎ、夜までにはってことは少なくともあと数時間はしがみついていなきゃいけないってこと?

が、頑張れ私....。

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