「97話 卑怯な戦法? 」
「あーもう!」
「グルルルル....。」
長所である速さを奪ったこの呪いの腕輪のせいで、私は今格下の魔物に手こずっている。
腕輪が呪われていると気が付き、落ち込みながらも北へ歩き出してからすぐにグラスウルフと遭遇した。
グラスウルフは草原地帯に生息している魔物で、Cランク冒険者程度の実力で十分に戦える。
マナを節約したかったので、これまで弱い敵は素早せで翻弄して一気にケリをつけていた。
しかし今の私は速度がD、攻撃力や魔力で勝っていても相手に当たらなければ意味が無い。
グラスウルフの攻撃をギリギリで躱すも反撃は当たらずに苦戦していた。
こうなったらマナを抑えて最小限のスキルを駆使して倒すしかない。
飛び兎に闇属性のマナを集めて固め、引力をイメージする。
引力の剣は引き寄せる力は強いけど魔力消費が激しいから、今日は刀身の横幅も引力も控えめの省エネでいこう。
名付けるなら『引き寄せの剣』かな?
うーん、今度カナちゃんに名前つけてもらおう。
「ガァッ!!」
マナの動きを察知したのか、私の速さをなめているグラスウルフは反撃を気にせず、まっすぐにこちらに向かって走ってきた。
飛び兎を逆手に持って私もグラスウルフに向かって走り出す、しかし呪いのせいで地球にいた時くらいしか体を動かせない。
相手が早くても目で追えているため、身体能力が軒並み下がったわけでは無いようだった。
私に向けて噛みつこうと飛び上がるグラスウルフに向けて左方向に半身体をずらして引き寄せの剣を振るう。
空中で体をねじらせて避けようとしたグラスウルフは剣の引力によって完全によけきれず、足に大きな切り傷ができた。
「キャイン!」
そのまま地面に落ちたグラスウルフは傷付いた後ろ足で何とか立ち上がろうとしている。
「<光球>ライト!」
私はグラスウルフが立ち上がる前に決着をつけようと、レオに習った明かりの魔法を使い、相手の目をくらませた。
こうなればいくら早くても止めを刺すことができる。
グラスウルフに近付いてその首筋に飛び兎を突き立てた。
「ふーーーーー。何とか行けた...。これは本格的にマズいなぁ。」
この草原を抜けてもまだ雪山、サクラ族の里まではまだ遠い。
敵と戦わないように警戒しながら進んだら時間なんてあっという間に過ぎてしまう。
いくら食糧に余裕があっても修行するための時間を確保できない、敵に遭遇してもダーク・スピリットを使えば逃げることはできるんだけど...。
「にしても、この辺り見晴らしがいいなあ...。」
オセロと話していた辺りの地形には木々が割と生い茂っていて、ギリギリ森と呼べる程度だったんだけど、この辺りの地形には木々があまりない、あるのは地面の起伏でできた丘やぽつりぽつりと生えている木、地面から生い茂る茶色の草、行ってしまえばサバンナとかそんな雰囲気。
「ほら~、あっちにヤバそうなの居るし~。」
小高い丘から周囲を見回すと、かなり遠いのにまあまあの大きさに見えるほどの魔物がいる。
ライオンを象くらいの大きさにして牙を大きくした感じ、間違いなくあれはここ一帯のボスとかだと思う。
他にも小さな魔物ならたくさん見つけられる。
たとえ戦いになってもギリギリ勝てるとは思うんだけど、戦っている最中にほかの魔物が間違いなく寄ってくる。
簡単に超えられなさそうなことを理解していまい、頭を抱えてしゃがみこむ。
バレて、影に隠れて、諦めたらこっそり出てを繰り返せば....あれ?そういえば影に入っている間に敵が動いたら私はどうなるんだろう?
影から出される?敵にくっついたまま移動できる?
もし後者だったら北に行きそうな魔物を乗り継いで...いや、無理かぁ。
北に向かって全力ダッシュする魔物なんていないし。
逆に全力ダッシュさせられたらわんちゃんある?
「う~~~~~~~~~~~~~~~ん」
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『で、考えた結果が!コレか!ガハハハ!変なこと思いつくな!』
『笑わないでよジア...私も流石にこれは無いなって思ってるけどしょうがないんだよ...。』
悩み抜いた結果、私は影から生肉が付いた木の棒を飢えたグラスウルフの目の前につきだしている。
要は目の前の餌をとろうと必死に走るグラスウルフを利用してきたに向かっているのだ。
そして疲れて止まったら影から出て止めを刺す。それの繰り返し。
これなら影にいる時間が短くても、大分進むことができる。
....さんざん餌で釣って走らせて弱ったところで止めを刺すという外道じみた所業に心が痛まないと言えばうそになるけど、これも弱肉強食なのだ。利用できるものだったらなんでもしてやる。
『んで、MPは間に合いそうなのか?』
『ぎりぎりかな。もう草原地帯抜けそうだし..よっ、と。』
影から飛び出し、目の前のお肉を一心不乱で追い続け満身創痍になったグラスウルフに止めを刺す。
乗り継ぎを繰り返し何とか草原地帯を抜けることができそうだった。
後は徒歩で行けそうなので、周囲に魔物がいないことを確認しながら雪の見える方へと向かう。
肌寒くなってきたのを感じ、私はふと思い出す。
そういえば前はカナちゃんに温度を保つ魔法をかけてもらってたけど、今はどうするの?
すっかり忘れてた。これまた詰んだ。
『どーした?立ち止まって。』
『いや、はは。前雪山にいたときは仲間に魔法かけてもらって寒さをしのいでたんだよね....。』
とりあえず少し早いけどここらで野営をしよう。
この辺りには魔物の気配はないし、遮蔽物になる木もある。
早速テントを設置し、中で温まることにした。
『はぁ、どうしようかなぁ...。ジアは寒い時どうしてる?』
『神界は気温が安定してっからなぁ。...生前も年中温かい気候だったからあんまりきにしたこったねぇな。』
そういえば前世について聞いてなかったな。
影に潜んでる最中に約束の通話の時間になったし。
ジアが通話できるようになったってヒュムから連絡があったけど、なんで体調を崩してたのか教えてくれなかった。
あんまり深く追求しないほうがいいのかなぁ。
『そういえばジアは前世ではどんなことしてたの?どんな世界だったの?』
『コロッセウムでグラディエーターをしていたな。ミウシアの世界で言うと....あー、コレか?ろーま?とかそういう感じじゃねぇか』
今の間は私の記憶にアクセスしてたのかな、それにしてもローマかー。歴史の教科書程度しか知らないんだよなぁ。
『一応これでも国で一番のグラディエーターだったって訳よ。でっけえ剣持って、猛獣や試合相手をバッタバッタとなぎ倒してだなぁ』
自慢話が始まりました。
『戦いが好きだったんだねぇ、でもそんな強かったのに何で死んじゃったの?....あ、あんまり聞いちゃいけなかったかな...ごめん、忘れて。』
つい気になって口を滑らせた。前世での死因についてはあまり言いたくないよね普通。
『お?飲みすぎて帰り道で転んでそのまま死んだな。ガハハ、正直戦って死にたかったが、まぁこれで誰も俺に勝った奴はいないってこったな!!』
と思ったらサラッと教えてくれた。
ジアらしい死に方に思わずクスっと笑いを漏らす。
『.....まぁ、残してきた嫁と娘には申し訳ねぇ事をしたとは思う....でも、今の暮らしには満足してるぞ。今の俺はジア、サスティニアのジャイアント族の神、ってな!神界では酒も飲み放題!修行もし放題!手合わせの相手がデストラしかいねぇのが少しものたりねぇが、それなりに充実してるから心配すんな!』
『結婚してたんだ!』
改めて私はなにも知らないなぁと思った。
私の都合で死んでしまったわけでは無いにしても、勝手に神にして、責務を押し付けて、眷属達に恨まれてないかと少し不安だったけど案外楽しくしているらしい。
『嫁は国一番の美人でな、町を歩けば誰もが振り向いてた。娘は嫁に似て天使のような可愛さだったが、お転婆でなぁ。気が付いたら何か問題を起こしたりいたずらをしたりしてたもんだ。あー、丁度ミウシアとシーアの間くらい感じだったな。』
『私は問題もいたずらもしないよ!!』
私にそんな印象あったの!?心外だ!!!
『ガハハハハ!まぁあいつらも元気でやってんだろ!!』
『幸せだったんだねぇ...。』
私とは大違いだ。日本に居た頃は独身サラリーマン彼女無しだったし、結婚なんて考えた事もなかった。
最初、眷属達に仕事を任せるときはあまり深く考えてなかったけど、こうして話をしていると何かしら願いをかなえてあげたくなる。
全部が終わったら宇宙神に掛け合ってみよう。眷属達の願いもかなえてあげられないか。
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SIDE:トルペタ
だんだんわかってきた、ギアード国の金属変形の魔法。
宿の机で魔法について解ったことを紙に書きだした。
ブライト師匠にコツを教わるのは無理だと思い、兄弟子たちに色々聞いたところわかったことがある。
金属魔法とは、対象の金属を限りなく小さい粒の塊と考え、その粒の隙間にマナを流し込んで(ぐぐぐぐっと金属に練りこんで)半流体化させた後、粒の隙間を埋めながらマナを抜き取る。
ブライト師匠はコレを感覚でやってるんだから天才というかなんというか....。
原理が解っても粒の隙間にマナを流し込むのが相当に難しい。
でもこの考え方は色々なことに流用できると思う。
例えば剣、刀身の鋭さとは刀身の粒の少なさが関係してくるとしたら、武器の刀身に粒をメッキのようにつけて一時的、もしくは1回だけ切れ味を格段に上げることができる。
矢であれば先端に行けば行くほどに粒を少なくすればなんでも貫けるようになるかもしれない。
それを行うにはものすごい集中力とマナを使うと思う。
そんな魔法を使えばその後俺はまともに攻撃できるような状態じゃないかもしれない。
でもそれでいい。
俺自身が敵を倒すことにこだわるより、仲間が戦いやすいようにサポートをしたほうが俺のパーティは強くなると思う。
もう一度戦闘スタイルを見直さないとな。
「皆のために何ができるか....か。」
皆の戦闘スタイル、使える技を俺が把握しているだけ描き出そう。
「うん、見えてきたかもしれない。」
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SIDE:アルカナ
「<火炎竜巻>ファイアトルネード!!!」
「やるじゃないか、2属性はもう大丈夫そうだね。」
そりゃそうです!!!死ぬほど裁縫で覚えたですから!!!
王都を飛び出してから早1か月、そのうちの1週間はずーっと裁縫でした。
まぁその成果もあって、複合属性を使えるようになったです。
文字自体は全通り覚えました。でも実際に使うとなると....実用性がわからない組合せが多いです。
例えば火、水、闇を組み合わせた魔法なんて、どんなものにすればいいですか?
影から熱湯が噴き出すとかです?なんだか間抜けな感じもするです。
ちなみに命令式はミウ式(と呼んでるです)の媚びたような文章で描いてるです。
<火炎竜巻>ファイアトルネードだったら
<<めらめらした>><<たつまきって>><<どんな感じなの>><<見てみたいな>>
ですね、命令式の方は判定が緩いのか、割と適当で的確でなくても思った通りの魔法になるです。
魔法陣だけで完結している訳でなく、発動者のマナからその意図を読み取っているのかもしれない、とマクスウェルは言っていたです。
そのあと『マナには記憶が宿るのか!?』とか言って新しい仮説を立てて一冊の本を作っていたです。
私も魔法のことになると我を忘れていましたが、自分以上に凄い人がいると人は冷静になるものですね...。
「属性はもうよさそうだね、では今日からは命令式の多重化を現実にしようかね。」
「はいです。でもどうやって多重化をするですか?」
私の発言にふふんと笑って紙を取り出した。
「魔法陣は始動キーを唱えるまで発動しない、つまり順番があるってことさ。...あんたは魔法陣をどんな順番で描いているんだい?細かくいってみな。」
「え...と....。そ、そうですね。まず真ん中に属性、囲うように円を描いて、その周りに命令文、最後に始動キーを書いて更に円で囲む、最後に魔法陣にマナを込めて、魔法を使いたいタイミングで始動キーを唱えてるですね。」
魔法学校でもそう教わったです。描く順番は始動キーが最後ならば順番は関係ない、ハズです。
始動キーを最初に書いてしまうと魔法が途中で不発したりするです。
「単純に考えたら復数の属性を使いたい場合は複数描けばいい。でもそれはできない、そうだね?」
「はいです。」
前にやってみたことがあるです、氷属性を表現する時、水属性の魔法を使ってから火属性の魔法で凍らせる。
その手間を省くためにやってみたものの、魔法は不発に終わったです。
「つまり、ルールがある。あたしの仮説...いや、立証されたんだったねぇ。マクスウェル方式だとそのルールの穴をついて属性の図形を融合させた。じゃあ命令式はどうすればいいと思う?」
命令式は属性とは違い、神式語の文章です。
何をどうしてほしいか...ミウ式だとそれを媚びた口調でやるんでしたね。
文章を融合させるのは流石に途方もないです、実現不可能といってもいいです。
でも命令式は小さく、たくさんの量を書いても魔法は不発したです、大きな魔法陣を描くときは範囲指定だけで、魔法陣の大きさに比例して文字を大きくする必要があるですから、魔法陣を大きくしても無駄ですね....。
んん、文字の大きさを変えず、魔法陣に描ける文字の量の限界を超える....?
「範囲内で範囲を超えるとか矛盾してるです...。」
「いや、それであってるよ。じゃあ範囲内で範囲を超えるとするかねぇ。」
そう言ってマクスウェルは紙に範囲内で範囲を超えるような魔法陣を描き出したです。




