「96話 不思議な猫 」
「やっとまともな道にでたぁ~!」
砂漠を歩いて約1日。
私はようやく砂漠地帯を抜けて、木々があまり生えていない草原地帯についた。
とはいえ、道らしき場所はないので唯々道なき道を行くだけだった。
今日の眷属との通話はお休み。
なんかみんなで話し合うことがあるみたいで、その報告をしてくれた時にはジアの声も聞こえた。
元気がなさそうだったのは病み上がりだからかな?
そんなことを考えていると目の前の景色が歪みだした。
「うぇっ!?なになに!?」
私は一歩後ずさりすぐに武器を構えて戦闘態勢に入る。
その歪みから徐々に何かが生えてくる。....これは....。
「猫の耳?」
薄い茶色のモフモフとした猫の耳だけが宙に浮かんでいる。なにこの状況!?
驚きながらよくよく観察していると、すぽんっとその歪みから一気に猫が飛び出てきた。
「わわっ」
飛び出た猫は私に飛びついてきて思わず抱き留めると、ふわふわっとした毛と温かいぬくもりが私を包んでくれた。
ファンタジー世界の猫というよりは、日本に居た長毛種の猫、ノルウェージャンフォレストキャットとかサイベリアンとかの大型の猫に似た見た目をしていた。
モフモフして気持ちいい....。
「にゃにゃにゃ!!!」
突然私の手から飛び出て地面へと着地する猫。
二本足で(・・・・)
そういうとこファンタジーだよね!!!
「受け止めてくれて助かったにゃ。オセロはオセロっていうにゃ。」
はわわわわわ喋った!!!きゃわわ!!!!!
「こ、こんにちはオセロちゃん。私はミウシアだよ。オセロちゃんはどうして...どうやってここに来たの?」
景色が歪んでそこから現れた、転移石とも違うとの移動方法は間違いなくただものじゃない。
こんなかわいい見た目だけど多分めちゃめちゃに強いんだと思う。
「にゃ~。オセロはいつでもどこにでもいるのにゃ。必要なときに見えてそうじゃなきゃみえにゃい。つまりミウシアには今オセロが必要ってことにゃ。」
???
不思議なことを言うにゃんこだなぁ。
もしこの子が電波猫じゃなくて、その言葉が本当だとしたら私の助けになってくれるのかも。
オセロはポスンと地面にお座りし、肉球と肉球をポン、と合わせた。
その瞬間オセロの周りにカーペットが出現し、その上に指輪やネックレス、ピアスに髪留めといった色々な装飾品が現れる。
「オセロは商人にゃ。通貨はNiaじゃにゃくてお客さまの一部。髪の毛でも血液でも目玉でも寿命でも。にゃんでもいいから交換なのにゃ。」
目玉!?寿命!?悪魔か何か!?
可愛い見た目とは裏腹に何やら恐ろしいことを口にしたオセロちゃん。
そこまで言うからにはよっぽどレアなものなのかもしれない。
私はオセロの前で屈んで一番手前のバラが彫られた銀色のネックレスに向けて小声で鑑定を行う。
「アナライズ<鑑定>....あれっ?」
鑑定魔法を使っても何も起こらず、脳内にノイズのような物が走った。
オセロはそれをみて頭を横に振った。
「それはだめにゃ。うちの商品は買うまでどんなものかわからにゃい。運が良ければ最上級のレアアイテム。悪ければ呪いのアイテム。自分の直感をしんじるにゃあ。」
完全に目利きだけで勝負するってこと?
自分の一部を渡すことを考えるとリスクがでかすぎる。
もし呪いとかそういうたぐいのものがこの世界にあるとすれば、悪用されることだってある。
....でもゲームとかだとこういうのって滅茶苦茶レアなアイテムが有ったりとかするんだよね....。
「ちょっと考えてもいい?」
「どーぞどーぞ。ミウシアが答えを出すまでオセロはここを動けにゃいので。」
立ち上がって一歩離れたところで煙草を取り出し、火をつける。
考えるときはこれだよね....。皆といるときは何となく控えてたけど、よく仕事で行き詰まったら喫煙所に行ってたなぁ。
にしてもどうしよう。仮に代償を支払うとして、部位によって何かが変わるのかな?
絶対リスクがでかければでかいほど手に入れられるものがいいものになるよね、ならないとおかしいよね?
でも目とか寿命は避けたい。となると髪の毛?でもなぁ~。せっかく王都で髪の毛綺麗に切ってもらったのにバランスおかしくなっちゃうしなぁ。
ふーーーーーっと煙を吐き出すとこっちを見ていたオセロの目つきが変わった。
「にゃ、にゃ、にゃにゃ!!」
「ど、どうしたの!?ごめん煙かった!?」
目をまんまるくさせて私に何かを訴えるオセロ。
「もしかして、マタタビの葉を持ってたり!!す、す、するのかにゃ!!」
「あ、持ってたような....。」
最初に煙草を買った時、他にも何種類か買ったんだよね。
確かその中にマタタビが.....あったあった。
私は脳内でアイテムボックスの中身を確認し、マタタビの入った袋を取り出した。
「そ、そそそそそ、そそのマタタビでもいいにゃ。代償はマタタビでいいにゃ。オセロは臨機応変な猫にゃ。代償はいいにゃ。」
ラッキー!
「ほんとに!?じゃあ、はい。先払い!!」
袋をオセロの前にだすとひったくりのような速さで袋を奪い頭を中に突っ込んだ。
「すぅううううううううう......んはぁああああああああ~~~~~これにゃあ~。」
....なんだかヤバい薬をキメてるように見えるけどマタタビって平気だよね?
ヤバい薬じゃないよね?
とりあえず対価を支払ったので、並んでいる商品をひとつづつ手に取って眺めていく。
うさぎをモチーフにしたような指輪..これ可愛いなぁ、保留。
ごつごつした指輪が四つ繋がったメリケンサックのような...ってこれメリケンサックじゃん。可愛くないから却下。
シンプルな金のピアス....私ってどうやってつけるんだろう。よくわかんないから耳につける系は除外しよう。
赤と黒の透き通った素材でできたブレスレット...。これ凄いかっこいい。色合いなんかも和服とも合うし、保留。
指の形に沿って作られた、なんていうんだろうこれ...。指の鎧みたいなやつ。ごつすぎるから却下。
赤縁の眼鏡、今の服に合わないしなんだか漫画でよく描かれるちょっとエッチな女教師を連想させるようなどキツイ赤だから却下。
その後も一通り見てみたけど琴線に触れるものはなかった。
候補はこの、うさぎをモチーフにしたような指輪と赤と黒の透き通った素材でできたブレスレット。
実際につけるのはダメ、と言われたけどサイズ感はつけた人に合うようになっているから心配しないで、と言われた。
戦うときに邪魔になるのは指輪の方かな?指輪の素材は魔法銀、ブレスレットの素材は特殊なクリスタルだそうで、両方とも普通に使ってれば壊れることはまずありえないって。
「ん~~~~~。悩む。」
「直感で。すううううう~~~~はぁ~~~~~~~~。きめえるとおいいにゃああああ。」
キメてるのは君の方だよ!!
んー、この防具は多分今後も変えることはないだろうし、服と合うブレスレットかな。
「このブレスレットにします!」
「まいどありぃ~~~~~~~~。」
私がブレスレットを手にした瞬間。オセロは今まで広げていた商品を一瞬でしまい、突如現れた空間の歪みへと消えて行った。
「一体何者だったんだろう.....?」
いきなり現れて用が済んだらすぐに消えて行った不思議な猫の正体を少しだけ考えてすぐに考えるのを止める。
あの手の不思議現象はきっと私の考えなんかじゃ答えにたどりつけないし、今はこのレアアイテム(多分)を手に入れたことを喜ぼう。
手に持った暗い赤と黒に透き通ったブレスレットに手を通すと、腕の太さに合わせてシュッと縮み、緩くもなくきつくもない丁度いいサイズに変わった。
「特殊なクリスタルって言ってたけど...特殊すぎでしょ...。とりあえずアナライズ<鑑定>!」
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名称:血と暗黒の腕輪
品質:S
祝福:不可(呪い)
武器性能:速度低下(強)
構成素材:呪血水晶、暗黒水晶
説明:闇へと落ちた竜より生み出された水晶から作り出された腕輪。
補足:・身に着けた者はその呪いによって行動が制限される。
・竜の呪いが消えない限り、この腕輪を外すことはできない。
・呪縛から解き放たれた時、装備者は祝福を得るだろう。
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「ちょちょちょちょちょーーーーーーーーーっとまって。アナライズ<鑑定>。アナライズ<鑑定>。アナライズ<鑑定>!!!!」
うそでしょ、何度見てもこの腕輪呪われてる。
速度低下強!?この腕輪は外せない!?
「じょ、冗談でしょ....?え、嘘、本当に外れない.....。」
私は速さだけが取り柄なんだよ?それなのに早くなくなったら....。
「死ぬ、絶対サクラ族の里にたどりつけない。」
ステータスも確認してみると、案の定速度のパラメータが低かった。
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名前:ミウシア
種族:バーニア族(半神)
職業:短剣士(Lv69)
HP:680/810(100UP)
MP:4814/6982(800UP)
力:B+
防御:D+ (1段階UP)
魔力:A-
早さ:D (呪)
運:A+
称号:善意の福兎(6柱の神の祝福により効果UP)
・自分以外のHPを回復する時の回復量+100%
・誰かのために行動する時全能力+50%アップ
・アイテムボックス容量+100%
・製作、採取速度+200%
※このスキルはスキル「鑑定」の対象外となる。
※このスキルを持っていると全NPCに好意的な印象を与える。
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「あの猫ォ....。はぁ。もう何とかやるしかないか...。」
それに鑑定結果の最後の一文。『呪縛から解き放たれた時、装備者は祝福を得るだろう。』っていうのを見る限り、呪いを解く方法があるってことだよね?
呪いを解いたらボーナスがあるっぽいし....。
「速さにばっか頼って、罰が当たったのかなぁ....。」
ここでたたずんでいてもしょうがないため、私は肩を落としながらトボトボと北に向かった。
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SIDE:ジア
あー、久しぶりの光が目に染みる。
「ったく、ほんとに反省してるわけ?馬鹿ジア。」
「ミウシア様は私達を作った創造神とは言え今はただの人間と変わりが無いのですよ?もしミウシア様がおなく...おな....おなくなりに...なったら.....。」
「ああ、流石に今回は俺が悪い。」
ミウシアが俺のアバター、ゲオグリオスに殺されかけたのを見て眷属の皆が寄ってたかって俺を攻め立て、地面にそのまま埋めた。
いやー、悪いとはわかってんだけどよぉ。しょうがねぇよ。
だって俺ミウシアとも戦ってみたかったし。
しかもあの世界じゃあれくらいの傷じゃ死なねぇんだろ?
ミウシアのことは大切に思ってる、それは嘘じゃねぇ。
ただ、ほら。ちょっと熱くなっちまっただけだと思うんだ、ゲオグリオスも。
「馬鹿ジアがミウシアと戦いたい~とか真剣勝負で手を抜かない~とか考えてたせいであのアバターはあんたのその思考を引き継いでるのよ!!そもそも魔族の味方にならなければこんなことにもならなかったんだから。」
ちびっ子はずーっとコレを繰り返してる。
「まぁジアも反省しているからもう終わりにしよう。それにある意味ジアのアバターのお陰でミウシアも強くなろうと決心できたしな、少々強すぎるがいい薬になったのではないか。....頭に血が上っていたとは言え地面に埋めるのはやりすぎた、すまん。」
「地面の中でもできる修行があるから気にすんな、俺らはもう人間じゃねえしこれくらいなんてことねぇよ。」
俺はがははと笑いながらヒュムの肩をバンバンと叩いた。
地面の中は暇すぎて大分応えた事は恰好悪いからいわんでおく。
「んでねージアおじちゃん。今皆で順番にミウちゃんとお話ししてるんだー!」
「おお!やっとゆっくり話せるようになったのか!」
ミウシアとはちゃんと喋った事があまりない、何だか生前かまってやれなかった娘をおもいだしてテンションが上がっちまった。
「ジアは明日からでよいのではないか?くれぐれもミウシア教官にアバターのことは知られないように頼むぞ。」
「任せろ!はー、のどが渇いた。酒ってまだあったか?」
忠告をしてくれたデストラに返事をしてから、以前ちびっ子に作ってもらったレイゾウコへ酒を取りに行く。
ジャイアント族からの供え物は酒ばかりだ。
俺の眷属であるジャイアント族達は、俺と同様酒を好むものが多い。
「死んでも酒が飲めるなんてな~。」
しかも生前の酒よりも冷えててうまい酒だ。
俺よりも大きいレイゾウコに入った大きな樽から延びた管から、ジョッキに酒を移していく。
酒ってのは冷えてれば冷えてるだけうめぇからな、冷蔵庫を作ってもらってからは供え物で送られてきた酒は全部ぶち込んだ。
他の奴らにもこの酒を分けてやったが、ヒュムとルニアが冷えてないほうが香りを楽しめるとか言ってたな。
「かー!うめぇ!」
なんつったかこの酒、ワイン?だったか。
ブドウのいい香りを楽しみながら俺はジョッキに入ったワインを一気に飲み干した。




