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「95話 砂漠の町の料理 」


「お代わりくださいっ!!!」

「あんた、よく食べるねぇ~。もっと大きくなると良いわね...。」

厨房から顔を出してケットシー族のおばちゃんが私の胸を憐れみの目で見てくる。

やかまし!


私の周りには大勢の死体...ではなく、大勢のケットシー族が酔いつぶれて床に倒れている。

昨日、たくさん飲んでも頭が痛くならなかった私は、飲み会に参加しないで厨房で料理を作っているおばちゃんに頼んで、寝る場所を用意してもらった。


この酒場は宿にもなっていて普段旅の人が来ることが無いため、従業員用の休憩場所になっているようだった。


私が来たことにより盛り上がりすぎてしまったこの街の住人は、過半数が飲みすぎて今も気絶するように眠っている。


良いお酒は次の日に残らないとかいうけど、私の体質にこの町のお酒があっていたからなのか、目覚めは超すっきり!

こうして酒場のテーブルでおばちゃんに用意してもらった朝ご飯を食べている所だ。


「ん~!このスープおいしすぎるっ!これって何使ってるんですか~?」

「そんなに幸せそうな顔で食べてもらえると嬉しいもんだねぇ。そのスープにはカークスバードっていう鳥から出た出汁を使っているんだよ。カークスしか食べない鳥だから実が柔らかくて。いい出汁も出るんだよ。」

「へ~~~~~!!」


カークスが何かわからないけど、日本で食べた鳥白湯スープのようなトロトロとした鶏がらスープと、身がむちっむちの鶏肉、ネギっぽい野菜がゴロゴロ入ってるのに重くないすっきりとした味わい。


これもっと欲しいな~~~~~~~~。


「あの...もしよかったら、お金沢山お支払するので、今ある材料全部使って作ってもらうことは可能ですか?」

「できないことはないけど、そんなに作ってどうするんだい?」

このおばちゃんなら平気だろう。

私は席から立ち上がりおばちゃんに近寄って、厨房の受付口のようなところでアイテムボックスからお金の袋を取り出した。


「こりゃ驚いた!時空間魔法なんて初めて見たよ!」

「こういうことですので、どーしても旅の途中でも食べたいんです!」

カッカッカッカとひとしきり笑うと、おばちゃんはドン!と胸を叩いて笑った。


「任せな!あんたの旅が快適になるように他にもいろいろ作ってやるよ!」

「ほんとですか!ありがとうございます!」

頭を下げてお礼を伝え、材料費とおばちゃんとほかの従業員の費用、それに気持ち上乗せでお金を支払った。


こういう依頼はなかなか無いため皆張り切ってた。お昼が過ぎた頃にまた来てほしいと言われたので魔物の素材を売れる場所を聞いて酒場を後にした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

魔物の素材の査定は思ったよりも安かったけど、お金にあまり困っていないのと、砂漠周辺の魔物の素材はこの村の人に重宝されるものばかりだったらしく、喜ばれたため少々安くても売ることにした。


特にデッドリーファイアーアントの酸や体液はこの町の魔物避けとして使われるらしく、これだけあれば数年は安全だ!と喜ばれた。


「さてと、時間開いちゃったな~。」

お昼まで残り2時間程度、ちょっと早いけどウォルフと通話しよう。


酒場の石のベンチに腰掛け、煙草をひと吸する。


「<音声通信>ボイスチャット!」

声を出さないのに何でボイスチャットなんだろう?と改めて考えて不思議に思いながらもウォルフに通話をかけた。


『あ、ミウシア?ちょっと早いじゃない。まぁいいけど。』

『ごめんごめん、今忙しかった?』

がちゃんがちゃんと金属音とウォルフの声が頭の中に響く。

また何か作っていたのかな?


『ちょっとうるさいかもしれないけどそれでも良ければ平気よ。今ルニアに頼まれたものを暖める機械を作ってるの。』

『暖める....電子レンジかな?本当にウォルフってなんでも作れるんだね~。』

ウォルフが地球に居て会社を立ち上げたら電気製品を扱ってる企業は軒並み吸収されそうだなぁ。


『ん~、素材の性質を全て把握していれば後は組み立てるだけだし、パズルみたいで楽しいわよ?』

『はは、レベルが違うや....。』


ウォルフの前世はスチームパンクチックな機械技術が発達した世界で活躍していた発明家で、発明品を作っている時に事故で亡くなったらしいけど、詳細は死んでも言わないと断言してた。

めっちゃ気になる!


『ミウシアは今なにしてるの?』

『私は今旅の食糧を作ってもらってるところ~。それまでやることなくてさ~。』

あ~、あのスープ以外の料理はどんなのだろう。地球に居た頃に行った海外旅行を思い出す。

どの料理も日本とは違うものでわくわくしたけどそんな感じだなぁ。

しかもこの世界の生き物、魔物は保有マナに比例して旨味が増すからどれもこれもおいしい。


『そういえば、ウォルフは前世で普段どういうの食べてたの?』

機械技術の発達した世界の食べ物ってどんなんだろう?

オイル的なイメージしかないんだけど...。


『えー、食事を楽しんだことはなかったわね。栄養を濃縮させた味のしないペーストとか、飲み物とか。だからルニアの作る料理で美味しいって気持ちを初めて知ったわ。』

『え!ちゃんとした料理とかなかったの!?』

うそうそうそ、考えられない。そんなディストピア的な世界だったの!?

夢が無さすぎる!!!!


『あたしの住んでいた国では新たな機械を発明することしか考えない人しかいなかったのよ。だから効率を求めて行った結果、そうなったようねー。もちろん、食文化が発展した国もあったらしいけど....行ったことはないわね。』

そもそもおいしいものを食べようとしない超効率主義国家だったのか....。


『私、絶対ウォルフの世界に行きたくない...。』

『それはあたしもそう思うわ。だってルニアの作る料理の味をもう知っちゃったから。』

料理ってルニアしか作らないのかな?というか食材ってどうしてるんだろう?

まさか空気中の成分からお肉を作り出す、人口肉作成機をウォルフが作ったり...。

そんな某猫型ロボットみたいなことはできないか、流石に。


『食材ってどうしてるの?神界で畑でもやってるの?』

『食材はサスティニアの人たちがお供えしたものが神界に届くから、そこから使ってるみたいね。』

じゃあ眷属達に何か渡したいものがあればお供え物って形で渡せるのかぁ。

今度強い魔物を狩ったらおいしいお肉でも備えてみようかな。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『これで...完成っと。ちょっとルニアに渡してくるわね。今日はこの後』

『あ、じゃあ私もいい時間だし食料とってくるね。じゃあまた後で~!』

『はーい。』

この旅を始めて眷属達と他愛もない話すようになってから、空き時間が苦痛に感じなくなった。

日本に居る頃の暇つぶしなんて、スマホをいじるくらいだったし。


ううーん、と大きく伸びをしてベンチから立ち上がり酒場の中に入るといい匂いが酒場内に広がっていた。

中でつぶれていた人たちはいつの間にかいなくなっていた....ってことはウォルフと話しているうちに続々と酒場から出てきてたんだ、まったく気が付かなかった。


厨房のほうに顔を出すとおばちゃんが椅子に座って一息ついている所だった。


「料理の方はどうですか~?」

「丁度いいところに来たね。今終わってほかの料理人を帰らせたところだよ。あんたが報酬をはずんでくれるもんだから皆張り切ってたよ。」

カッカッカと笑いながら答えたおばちゃんの向こうには大量の大鍋が火にかけられていた。


「助かりました。....ん~~~どれもおいしそう!...鍋ごとこのまま受け取っちゃっていいですか?鍋代もお支払するので。」

「ああ、丁度買い替え時だったからお代はいらないよ。ただでさえ沢山もらってんだ。これ以上貰っても使いきれないよ。」

この町であんまりお金を使うことは無いのかな?物々交換とかが主流だったりするかもしれない。


私はアイテムボックスの謎空間を鍋上に展開し、上からズズズッと収納していった。


「へぇ、魔法ってのは魔法陣やらが必要だと思ってたけど、違うんだねぇ。」

ダミーの魔法陣と始動キーを忘れてたあぁーー!まぁこの人なら大丈夫でしょ....。


「わ、私のはちょっと特殊なんですよ。ははは....。」

乾いた笑いを浮かべながら全ての鍋を収納して、最後に大量のサラダが入った特大のボウルを収納した。


「にしてもせっかくあんたみたいな面白い人に会えたのに、もうこの村を出ちまうなんてねぇ。また遊びに来ておくれよ。」

「はい!もちろんですよ、今度は私の仲間も連れてきますね!」

この砂漠の町への道がもっと安全快適だったら人も増えて閉鎖的な空気...閉鎖的ではないけど、ここの料理も知れ渡るのになぁ。

私個人じゃむりだよね、王様達にもこの料理をふるまってそれとなーくこの町の事伝えてみよう。


酒場を出ておばちゃんと別れを告げた後、私は町を後にした。


酒場で聞いた話だと、ここから北は一気に寒い地形になっていて、そこを抜ければサクラ族の里がある桜の森があるそうだ。

早いところ里について修行しなきゃね。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

SIDE:アルカナ

「次、水、火。」

「はいです。」

空気中に漂うマナを集めて水、風、火、土を表す記号を重ね合わせたような図形を作り出す...もうまくいかず、マナが霧散してしまうです。


「甘い!ちゃんと火、水、土、風、光、闇全ての組合せ、全ての図形を暗記しているのかい!?」

「い、一応...。」



この鬼のように怒鳴り散らしている女性はマクスウェル。

私が探し求めていた『マナを持たない代わりにこの世の全ての知識を手に入れたという謎の人物』その人です。

耳がヒューマンと同じであることからおそらくヒューマンだということは判ります。

身長は私以上ミウ以下といったところでしょうか?

老婆、というのはあまり適切ではないかもしれません。

年齢は100を超えてから数えるのをやめたと言っていたのですが、綺麗な白髪、鼻筋の通った凛々しい顔立ち、多少しわはあるものの、とても100を超えているとは思えないです。

とても元気で美人なおばあさん?という感じでしょうか?



滝で水浴びをしている所を偶然出くわして、お酒を要求され渡したところ家に招いてくれました。

水浴びを滝でするのも、初対面の相手に第一声が「あんた、酒持ってないかい?」というのも規格外すぎです。


魔法について教えてほしいと尋ねても、「この知識はあたしのじゃない、だから教えられない」とバッサリ。

その代わり、マクスウェルが独自で編み出した理論が本当に実現できるかの実験に付き合うことになったです。



「一回家に戻るよ。もう一度復習しにね。」

「.....はいです。」

うまくできない度にマクスウェルの理論を復習しているもので、流石にもう頭に入りました。


以前マクスウェルが水浴びをしていた滝を魔法で水がかからないように超えて、洞窟の中にある大きな木の家に戻ってきました。

「あんたがいると家に帰る度に濡れなくて済むよ」と笑っていたマクスウェルは本当に魔法というモノが使えないようでした。

それどころかマナ自体が体内に存在しないです。

自身のマナが無ければ空気中のマナに干渉できない...こんな人もいるですね。


家の中に入り、椅子に座る。今日もまた復習が始まるです。


「マクスウェル式魔法理論をもう一度言ってみなさい。」

マクスウェルが30センチほどの杖をもう一つの手にポンポンと打ち付けながら私を睨む。


「はいです...。魔法陣とは一つの属性、命令式、始動キーの三つからなるマナで描かれた図形のことを言うです。」

「で?」

最初は興奮したです、これができれば今までの魔法が格段に強くなり、いくつかの工程を省くことができるです。

でも難易度が高すぎて到底、実現できるとは思えないと最近になって気付いたです...。

でもやれるだけやりきるですけどね。


「マクスウェル式は、属性の複合、命令式の多重化、始動キーの省略を目指す理論。今までの常識を壊すような素晴らしい仮説です。」

「そう!素晴らしいんだよあたしの理論はねぇ!!...あんたにはコレを立証してほしい...いや、しなきゃいけないだよ....。でなきゃこの理論は仮説の域にとどまることになるんだよ....。」

自画自賛と他人への押し付け、でもこんな頭のおかしい人が世界の常識を覆すんでしょうね。


「まずは属性の複合化....なんで今日もうまくいかなかったか、わかっているかねぇ。」

「属性を表す文字の複合文字に誤りがあって、マナが散ってしまったからです。」

仮説では火、水、土、風、光、闇の6通りの属性を組み合わせた1文字を魔法陣に書く。

しかし組み合わせた文字は単純に重ねるのではなく、融合させたような形にしなきゃいけないです。

その形をマクスウェルは編み出し、実証無しに実現可能なレベルまで来たのです。


...本来属性を魔法陣に描く際、2文字以上の記載は受理(・・)されないです。

そもそもどういう原理で魔法陣から魔法が出るかはわからないですが、魔法陣には規則があるです。

そう言った規則の穴を突くのがこのマクスウェル式。


「その通り。複合文字は少しでも間違えば弾かれる。あんたは正確に描く必要があるってことだね。....暗記してるならもっと器用になってもらわなきゃ困るねぇ.....。」

ニタニタと笑いながらマクスウェルは棚から丸くくりぬかれた木の枠組み?と布と針を持ってきたです。


「?それで何をしろって言うです?」

「裁縫だよ。これで複合文字を死ぬほど縫って体に覚えさせな。」

「マジ...です...?」

なんで裁縫の修行なんかせにゃならんのですか!!!


レオの口調が出るくらい驚いた私ですが、この日から1日5時間も延々と刺繍をする羽目になったです


これで結果はでるですか!?

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