「91話 徒歩の旅 」
「ミウちゃ~ん、つ、つきましたよぉ~。」
そんなディーナの声で目が覚めた旅二日目、眠気と戦いながら体を起こすと力なく立っているディーナが目の前にいた。
「ディーナ...大丈夫?」
「ちょっとマナを使いすぎただけだから平気....ふわっ!」
私はディーナに軽くハグをしてマナを直接分け与える。
マナがどんどんとディーナに伝わるのを感じながら、この後の別れを少し寂しく感じた。
「よしっ、と。私のマナを分けたからこれですぐ帰れるよ。ここまでありがとうね!」
ディーナに回していた腕をするりとほどいて肩に手を置いた。
すると向き合ったディーナの瞳がどんどん潤みだす。
「せっかく仲良くなったのに、ミウちゃんともうお別れしなきゃいけないんですかぁ....。」
「旅が終わったらディーナに会いに行くから、その時までにクラウスとの仲を進展させておくんだよ??」
しょんぼりしているディーナを元気付けようと、少し茶化し交じりににまにまと笑いながら想い人の話を振る。
「う、うぅ....頑張る...。」
髪の毛をくりくりと指で遊ばせながら照れているディーナにキュンとしてしまう。
こういう可愛くて初々しい妹が欲しいとふと思ってしまうくらい愛らしかった。
船は以前来た時と似たようなジャングルの砂浜近くについていた。
砂浜まではざっと10メートル、これくらいなら走って飛べる。
ディーナの方を向いてじゃあね、と言いながら頭をポンポンと触ってから砂浜に向かって一気に走ってジャンプした。
学生の頃に体育の授業でやった走り幅跳びとは比べ物にならない位の跳躍力で一気に砂浜に着地する。
振り返ると船の上で両手をブンブンと振っているディーナがいた。
「またね!!」
最後にもう一度別れの言葉を告げ、後ろ髪惹かれる思いを振り切りながらジャングルの中に駆け出していった。
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時刻はおそらくお昼頃。ジャングルに着いてから2時間程度だろうか?
そろそろ眷属に通話をしないとなぁと思いながらもジャングルをずんずんと進んでいく。
「しっかし...。」
風景が何も変わらなくて進んでいる気が全くしない。
王都でコンパスを貰ったため、迷うことは多分無いと思う。
なにせずーーーーーーーーっと北に向かえばいいだけだから。
途中で出会った魔物はポイズンセンチピード、以前戦ったでかいムカデだ。
連携することができないため自分の力のみで戦う必要があった。
しかしムカデの装甲はとても硬く、私の攻撃力では傷はつけられても内部までダメージを及ぼすことはできなかった。
今回は丁度晴れていたので、太陽光が当たる場所に誘導し<光反射>ミラーで飛び兎に光を収束させて高熱の刃で無理やり焼き切った。
でもこの戦法は今しか使えないので、今後ムカデと戦うときが来たらどう立ち回るべきか考える必要があるだろう。
はぁ、先が思いやられる。
丁度魔物の気配がない湖についたので、デストラに通話することにした。
今は側に誰もいないしビデオ通話でいいかな。
「<映像通信>ライブチャット」
目の前に~通信中~という文字が記載された半透明のウィンドウが浮かび現れた。
数コールしたところでウィンドウにデストラが映し出される。
一切日焼けをしていない白い肌、片目が隠れた青いアシンメトリーの髪、頭から2本突き出た牛のような角。
こうやって見るとデストラこそRPGに出てくる魔族感があるなー。
って...上半身裸ぁ!!!
『ミウシア教官!遅れて申し訳ない!水浴びをしていたので直ぐに反応ができませんでした!』
『ちょ、デストラ!服着て服!!!』
咄嗟に横を向いて目をそらしてしまう私。
顔が熱い...って!何で男性の裸に照れてるの!?
やっぱりあのアホ女神が私の精神に女性の心を混ぜたに違いない!そうに決まってる!
だって地球に居た頃は銭湯とかによく行ったりしたけどなんとも...。
うわ!!!!思い出すとすっごい恥ずかしくなってきた!!!
いやだ~~~~自覚したくない~~~~~~~~!
『少々お待ちを!すぐに服を着ますので!!.....どうぞ!!!』
やけに早かったけど服を着たらしいので画面の方を恐る恐る向く。
デストラはやけにピチピチの灰色のTシャツを着ていて、そのTシャツの真ん中にはデフォルメされた可愛い蛇が描かれている。
『眷属達もTシャツ着るんだ..蛇、好きなの?』
『はい!実は生前蛇を飼っておりまして!この服はルニアに作ってもらいました。...そういえばミウシア教官は私達の前世について..。』
『前世があることはルニアに昨日きいたけど、ルニア以外の話は聞いてないよ。もしよかったらデストラの話もたくさん聞かせてよ。』
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昼食を食べながらデストラの前世について色々と話を聞いた。
デストラの前世は銃はあるけど主流とまではいかない程度まで技術が発展した世界で軍人をしていたらしい。
死因についてはかたくなに話さなかった。実は女性が苦手でそれ関係であることは教えてもらったんだけど、それだけ教えてもらってもよくわからないなぁ。
今ではルニアと話している大分マシになったらしい、まぁあれだけの美女がいたら嫌でもなれるよね。
蛇は軍人時代にペットとして愛玩していたようだ。
その蛇好きは割とガチ勢よりで、蛇を模した蛇腹剣という剣を開発し愛用していたレベル。
蛇腹剣は蛇のようにうねる刃を持った剣で、その構造は中心部に伸び縮みするワイヤーがあって、両端が刃になっている長方形の金属板を複数通して普段は普通の剣に見えるらしい。
ファンタジー世界の武器だなぁ、デストラは実戦でもなかなかの猛者だったようだ。
でもデストラが一番自信があるのは部下をまとめる上官としての腕前だと言っていた。
『じゃあデストラは部下に信頼されてた立派な軍人さんだったんだね~。』
『部下からの信頼は感じていましたね。ミウシア教官も以前は部下を持つような仕事をしていたのですか?』
部下...唯ちゃん元気かなぁ。
私が宇宙神に呼ばれた日は唯ちゃんの仕事を受け持ったんだっけ。今となっては懐かしい、地球の私はうまいことやってるのかな。
それがわかるのはこの世界を回って魔族も治めて、10年前か10年後の地球に戻って...戻るなら前のほうがいいかな、どうせなら私の知識を活かして新事業でも...あれ?でもこの耳ってどうするんだろう。
『?どうかしましたか?ミウシア教官。』
『ああ、いや。なんでもない。部下ねー、部下ならいたよ。でも上司があんまり有能じゃなかったからそのしわ寄せが私に...。』
『わかりますっっっ!!私も何度上官をこの手で仕留めようとしたことか...少ない費用で領地を奪えだの犠牲は出すなだの...ああ忌々しい!!』
嫌な記憶を掘り起こしてしまったのか、へびさんのTシャツを着た細マッチョイケメンはテーブルをダン!と叩いて憎らしい表情になった。
『ははは、どこにでも嫌な上司は居るよね。そういえばデストラって前世ではどういう見た目だったの?』
私のゲーム知識から作り出したその見た目はとてもファンタジーチックだ。
前世はおそらく今とは違う見た目だっただろう。
『?今とほぼ変わりませんな。顔も髪型も体系も一緒です。違うのは髪の色と目の色、この角位でしょうか?最初はよく扉に角をぶつけましたよ』
はっはっはと笑うデストラ、今の見た目とほぼ同じ?デストラだけがそうなのか、皆そうなのか。
どちらにせよ私がゲーム知識から作り出した見た目なのに、こんな偶然あるんだろうか?
外見がほぼ同じ魂が選ばれた?ん~、わからん!わからん事だらけだぁ!
最後にまとめて女神と宇宙神に聞いてやる!!
『じゃあ随分とかっこいい見た目だったんだね、モテそうだな~~~。』
『確かに女性から言い寄られはしましたが..その、苦手ですので...。』
そうだった。女性が苦手なのにモテるのは本人からしたら地獄じゃん。
もしかしてモテて苦手になったのかな?
ごめんごめんと言ってその後も他愛もない話をつづけた。
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『そろそろ休憩切り上げて旅を再開しないと。』
『おや、そんな時間でしたか。それならば音声通話に切替ましょうか?』
『そうだね~。』
映像を切って音声だけの通話に切り替える。
映像付きの時は普通に喋ってたけど歩きながら話すのも疲れるので、脳内で会話してた方が楽だ。
それに万が一人とすれ違っても不審がられないだろう。
『そういえばミウシア教官、もしよろしければ戦闘のアドバイスを致しましょうか?恐れ多いとは思いますが、教えられる点もあると思いますので。』
ファンタジー世界の戦い方と軍人だったデストラの戦い方には違いがあるだろうけど、教わることもあると思う。
確かに、それなら見てもらった方がいいかも。
『そうだね、お願い。』
『わかりました。そしたら、一度遠視の泉でミウシア教官を見ることを許可していただきたいのですが...。』
遠視の泉?どこかで聞いたような....。
『???....あー!!そうだった!確か禁止したね!でもどうやるんだろう?念じればいいのかな?むむむ。』
『おー!見えました見えました!念じるだけでよさそうですね!』
よかったー、じゃあ禁止したら見えなくなるよね?
トイレとかの時も見られてたらもうお嫁にいけない...いや婿?紛らわしい!
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『結局何も教えられなかったです....。』
あれから半日、デストラと通話を続けながら旅を続け、何度も魔物と戦闘になった。
デストラは動きの速い私を目で追うのがやっとだったみたいで、結局何も襲われなかった。
しいて言うなら流石は魔物の神、魔物図鑑のように魔物に対しての知識がものすごかった。
それいる?というような雑学まで教えてくれる。例えばポイズンセンチピード。
その長い体のせいで睡眠中に絡まってしまうこともあるらしい、絡まった体をほどこうともがいてそのまま川に落ちて絶命することがあるとかなんとか。
他にも飛竜種のレッサーワイバーンは繁殖力が低いため、交尾に65時間じっくりかけて確実に繁殖させるらしい。
知らんわ!セクハラか!と思ったけど、交尾中なら楽に仕留められそうだなぁーとも思った。
それもそれで非道な気もするけどね。
『いやいや、ジャングルに住む魔物の事、色々教えてくれたから少なくともここ一帯は安全に進めそうだよ。ありがとうね。』
『また5日後までに神界で修行しますので!待っていてください!』
修行...暇なのかな。
『暇なので!』
暇なんだ。
じゃ、またねーと言って通話を切った私は野宿の準備を始めた。
昔作った木の家をまるっと持ってこれたらよかったのになぁとぼやきながらも少し開けた場所を探した。
「あ、ここよさそー。」
開けた場所を探しながら進んでいくと、木々に囲まれた背丈の低い草が生えている空間を見つけた。
水場が近くに無くてもインベントリにはまだまだ大量のメイプルウォーターがある。
「よかった、テント作ってもらっといて。」
素人知識ながらも、解体屋さんに作ってもらった魔物の皮を使った簡易的なテントをアイテムボックスから取り出した。
大きい三角型の皮を5枚つなぎ合わせた簡単なものだ。
四隅に開いた穴に杭を打ち付けて、テントの中にピッタリサイズに作っておいた丸太を立てかける。
「うん、よさそう。」
フォレストバードの羽毛で作った寝袋と、ダンジョンで見つけた光る苔を詰めたランタンを設置して大量に作っておいたご飯を取り出す。
「ん~。おいしいっ!この世界に来て料理の腕あがったな~。」
今日の作り置きご飯はフォレストバードのふわとろオムライスと頑張って作ったコンソメを使ったコンソメスープ。あとトルフェと呼ばれるトマトみたいな野菜とケールと呼ばれるレタスみたいな野菜のサラダ。
もう普通にお店出せそうじゃない?日本に戻ったらお洒落なカフェを経営するのもありだな~。
この世界の魔物は皆食べれるらしい。
というのも、マナを多く含む魔物は大気中のマナを吸収して栄養とするらしい。その栄養というのがお肉をおいしくするのだとか。
つまり、強ければ強いほどおいしい!!
もっと強い魔物を倒すモチベーションも上がる一方だねこりゃ。




