「9話 星のルール 後編」
俺は眷属たちの了承を得て俺の気持ちが伝わったことに安堵した。
しかしこのままでは主従関係?みたいなものができてしまっていて非常にやりにくいし、もっとフランクにいきたい。
『俺は君たちを自分の力を分けて作ったんだけど、いわば分身みたいなものなんだよ。だからどうか顔を上げてもっと対等の立場として接してくれないかな。頼む。』
ちょっと話し方を変えてみた。
眷属たちがどういう反応をするのか気になったが、皆頭を上げて立ち上がってくれた。
ジアはドカッと地面に座ってガハハハ笑ってるけど。
「わかりました、主様。私の口調はこのままでよいでしょうか?」
眷属たちにとって俺は創造主だからそう簡単に口調を変えることはできないのだろう。
一部の眷属は抵抗なく口調を変えているが。
『ああ、平気だよルニア。君たちの好きなようにしてくれ。だけど頭を下げるとか跪くとかそういう堅苦しいのはやめてほしいかな。』
(ルニアは敬語が似合うな。というか俺の好みで作ったからちょっと話すの緊張するな・・・ってあっ!!!)
今の状態だと無効にも聞こえるのを完全に忘れていた。今のももしかして聞こえていたのだろうか。
「主様・・・・その・・・聞こえてます・・・。」
ルニアがもじもじしながら耳をぺたーんとさせてくる。
完全に聞こえていたらしい。1度ならず2度までも脳内セクハラをしてしまったことに俺の上司?としての立場が一気に崩れ去る。
『ご、ごめん!何度もセクハラまがいのことしちゃって!』
「いえ、私のことを好みだといってくださるのがうれしいだけなので・・・。」
思ったよりも平気そうだ。どうやら俺が思っている以上に眷属達の俺に対する好感度は高い状態らしい。
ルニアが恥ずかしそうにしていると横にいるウォルフがしょんぼりと肩を落としてぼそぼそと呟く。
「主はルニアみたいな凹凸が激しいのがいいんだ。あたしみたいなミスリルプレートボディは興味ないのね・・・。」
俺にとっての一番の好みはたしかにルニアだが、小柄な少女が土方よりのエンジニアの服を着ているミスマッチ感にときめいてしまう俺もいる。俺の好みで皆を作ったのだから興味がない訳が無い。
とはいえ、生みの親の俺がウォルフだけにフォローを入れるとほかの眷属に不満が出るかもしれないので俺は恥ずかしさを押し殺してウォルフだけに伝える。
『皆には恥ずかしいから内緒だけどウォルフの見た目も俺は好きだよ。皆それぞれの良さがあるし、だれが一番とかは無いんだ。皆一番だよ。』
「あ、あるじぃ・・・。・・・ん?ってことはジア、ヒュム、デストラのことも・・・?主って結構範囲広いのね、安心したわ・・・。」
ウォルフがホッっとしてるが何やら誤解が生まれてしまった。女性は異性として好き、男性は友達として好きなんだけどウォルフも上機嫌になったしまあいいかと思っているとヒュムが笑い出した。
「そちらが本当の主でしたか、なんとも親しみやすい人柄で肩の力が抜けましたよ。」
先ほどのクールな見た目通りの立ち振る舞いとは裏腹に優しい笑顔を向けてきた。
ヒュムは見た目こそクールだが元々平和を司る温厚な神のはずだ。ヒュムこそこちらの姿が本当の彼なのだろう。
『恥ずかしいところを見せちゃったな、ヒュムもクールで寡黙かと思ったら楽しそうに笑うじゃないか。そっちのほうが俺としてもうれしいよ。』
「そう言ってくださるなら私もこの話し方で行きますよ。」
「だな!俺もいつもの俺で行かせてもらうぜ!っていってもさっき生まれたばかりだけどな!」
あぐらをかきながら座っているジアが飲み屋にいそうなオッサンのようにガハハと笑っている。
ジアは身長以外はファンタジー作品でよく出てくるドワーフの特徴そのままだと思う。
「主さん主さん!しっつもーんシーア達は何したらいいの?」
シーアに指摘されて指示が具体的ではなかったことを思い出した俺はゲームの設定を思い出しながら伝えていく。
『そういえばまだ具体的に伝えてなかったね、シーアありがとう。まずルニアに自然の力である「マナ」を操る力と知能をこの星の植物に与えてほしいんだ。そしてその植物「ドライアド」の果実によって一部の動物達に知能が芽生えるはずなんだ。その動物の種類が5種類になった時にルニア、ヒュム、ジア、ウォルフ、シーアはそれぞれ自分の特徴を持っている種族に祝福を与えてほしい。多分それでわかると思うんだ。そのあとは星を見守っていてほしいんだ』
皆がうなずきながら聞いている中で、デストラだけ不安そうな顔をしていた。
「主殿。私はどうしたらいいのでしょう・・・。私はいらないのでしょうか・・・。不要なのでしょうか。ここにいるべき存在ではないのでしょうか。」
思ったよりも、デストラの落ち込みっぷりが凄い。おそらくデストラを少し根暗設定してしまったせいだろう。
しかもゲームの設定上デストラの立ち位置はほかの眷属に比べて悪役っぽいしこれ以上落ち込むのが目に見えている。
だからと言って頼むことは決まっているためなるべく丸く伝える。
『デストラには文明の発展に欠かせない争う対象を作ってもらいたいんだ。具体的に言うと知能を持たなかった動物たちに自然の力であるマナを与えて他の皆が祝福を与えた種族と戦わせてほしい。』
悪役っぽくならないように必要なことだということを伝えたつもりだけどどうだろうか。
「なるほど!主殿は争いによって種の文明力を促進させようとお考えなのですね!それならばこの争いを司るデストラにお任せください!!!」
何とかなりました。
ひとまずはやるべきことを全て伝えたため、眷属達のこれからと注意事項だけ伝える。
俺が考えた注意事項はただ一つ、眷属同士での争いの禁止だ。ゲームでも神々の争いは無く、あくまでも争いがあるのは地上だけだ。それに眷属同士が争うのは俺としてもあまりいい気分じゃない。
『そこの湖は地上の様子が見れるようになっているからそれぞれ自分の種族を見守っていてくれ。あとこの神界に新しく建物を建てても地形を変えても構わないからみんなで協力して過ごしてほしい。あとこれだけは必ず守ってほしいんだけど、眷属同士での争いは軽い喧嘩や言い合いで留めて、本格的な対立は絶対に起こさないでほしい。』
眷属たちは皆頷き賛同してくれた。これでとりあえず俺がやるべきことは終えたので疑似神界への意識を切った。
ティアさんが俺の肩をポンポンと叩き俺をねぎらってくれる。
「武蔵さんお疲れさまです~。とりあえず飲み物でも飲んで一息ついてください~。」
仕事に疲れた俺に対して優しく微笑んでくれる。しかも軽いボディータッチ。こんなコンボを美女にやられたら惚れるにきまっている。
渡してきた飲み物が映画館仕様のコーラじゃなければ。
「は~~~~、ティアさんそういうとこだぞ~~」
俺は深いため息をついた。
別にコーラだろうが何を渡してこようが可愛いが、シチュエーション的に女神が映画館の紙コップに入ったストロー付きコーラを渡してくるのはときめきよりも違和感が勝ってしまう。
「えっ、えっ、コーラ苦手でしたか?メロンソーダのほうがいいですか?それともジンジャーエール?」
チョイスが完全にドリンクバー。
「そういうわけじゃないんだけど・・・。まあいいや、コーラ貰います・・・。」
どちらにしろ喉は乾いていたので受け取ったコーラについているストローに口をつけ一気にズゴゴゴゴゴゴと飲み干す。
やたらと薄いし炭酸も弱い。まさか・・・。
「間接キスですねぇ~」
「いや、ちょっと!!!!!さっきの飲みかけかい!!!!」
いくら美人でもさすがにこれはない、もはやこの女神にさんをつける必要はなくなった。
間接キスという本来ならどきどきするはずのシチュエーションがまたもや珍行動によって妨害されてしまった。
どういう形であれ口を潤した俺は今後の行動について考えるのであった。
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武蔵が眷属を作る少し前にさかのぼる。
武蔵がティアに星の管理方法を聞いていた時。その後ろにいる宇宙神は武蔵に力を少しずつ分け与えていた。
宇宙神はこの神界に武蔵を転送した時に武蔵の魂を複製させ神力を持つ半神へと変化させた。しかしその体に神力を混ぜることには成功したが定着させるにはもともとの器に神力を受け入れるだけの素質がなかった。
(このままじゃ地上に降りたときに神力を振りまくどころか神界を離れたとたんに体もろとも爆発しちゃうなぁ・・・。一度人間の体をその星のマナをベースにして作り替える必要があるかもしれない。)
目的である星の安定に必要なのは、神力を持った武蔵が地上を歩き回ることにより星を地上から神力で覆い星の寿命を延ばすことだ。
よって武蔵を神力を持てる器に作り替える必要が出てきた。
ティアに向かって星に降り立たせるときにマナと神力をベースとした肉体に作り替えるように頭に直接指示を出す。
(どうやら眷属を6人作るみたいだね、相変わらずティアの説明はひどいなぁ)
神の眷属とは無から生み出すのではなく、世界のどこかで死を迎え魂となった存在を元にして神力で生み出す。
なので今のまま武蔵がイメージを膨らませても眷属は作れない。宇宙神は広い宇宙から武蔵がイメージしている眷属にあった魂を選りすぐり、サスティニアの疑似神界へと送る。
(多分分体として作るときに武蔵君の知識も眷属達に流れ込むだろうから自分たちがゲームを元に作ったって思われないようにもとになるゲームの知識だけブロックしておこう。眷属が自分の存在に疑問を持ったらめんどくさいしね。)
一通り武蔵を陰でサポートした宇宙神はため息をつきながらこれからのことを考える。
(やれやれ、仕事を減らそうとしてこれじゃあ逆に増えてるよ。まぁ変化が無くてつまらなかったしせっかくだから君には楽しませてもらうよ)
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