「84話 強敵 」
トルペタ君に作戦を伝えた後、私はフレアが熊と戦っている方へ向かって走り出した。
フレアはファイア・スピリット、ラヴァ・アックスを使用し熊の攻撃をさばいていた。
「グゥ、ソレ、アツイナ。」
「はっ!火傷じゃ済まねぇぜ!!」
流石の熊も白くなるまで熱くなったフレアの斧に触れるのは危険だと思ったらしい。
私が攻撃で熊の気をそらしつつ、フレアの攻撃が入ればダメージを負わせることができるかもしれない。
この後のことを考え、スピリット系を使わず自分の速さのみを信じて戦うことにした。
フレアが横薙ぎに斧を振るうタイミングに合わせて、熊が避けるであろう背面方向から雷を纏った飛び兎で切りかかる。
「!?」
フレアとの戦いに集中していた熊は案の定、斧を避けて後ろへ飛ぶが、その先には私がいた。
熊は体を捻らせて避けようとするも、手が飛び兎に触れてしまいその刀身に纏っていた電撃を受けた。
「ガハ、ハハハ!!イイゾ、タノシイ!」
「ダメか....。」
3mはある巨体の熊にこの電流は微弱すぎたのか、熊は私の攻撃を受けても手をプルプルと振るうだけであまり効果はなさそうだ。
「ミウシアァ!何でもいい!!攻め続けろ!!」
フレアは攻撃の手を止めず斧を振り回しながら叫んだ。
笑いながら冷や汗をかいてるところを見る限り、フレアも敵との力の差を感じているんだろう。
「わかった!!フレアは正面頼んだ!!」
どんなに軽い一撃でもいい、フレアが攻撃する隙ができて、私自身を脅威と見なさないでもらえればそれでいい。
素早い動きで側面、背面から熊に攻撃するが、刃は通らず弾かれてしまう。
「オマエ、ヨワイナ。アレガ、ゼンリョクダッタカ。」
フレアの攻撃をさばきながら私に煽りを入れてくるほどに余裕があるみたいだ。
「そっちこそ、遅いねっ!それが全力なんだ?」
そんな減らず口しか叩けないけど、一発でも攻撃を食らえばアウトだ。
私は必死に避けながらちくちくと攻撃を入れていく。
熊は私を放置していても痛くないと判断したのか、私の攻撃を無視してフレアに集中し始めた。
今だ!
私は闇属性のマナを剣に纏わせて再吸収を行った。
こげ茶の髪の毛は真っ黒に変わり、耳の毛も先端以外が全て黒くなる。
メッシュはそのまま、今和服姿きっと似合ってるんだろうなぁと思いつつトルペタ君の方をちらりと見ると、すでに射出の準備は整っていたようで、弓を構えて撃とうとしている所だった。
「ディザスター・アロー!<二重>ダブル!!<爆発>バースト!」
トルペタ君が放った矢が旋風を纏いながら高速回転で射出された。
矢を中心に小さく細長い竜巻が発生しているくらい強力な風魔法を纏っている。
その矢はトルペタ君の魔法により、まるで鏡に映したように逆回転の矢が現れる。
二つの矢は互いに回転速度を増幅しあいより強力な竜巻となった。
そして最後にトルペタ君の魔法により矢の後方が爆発する。
それにより矢がさらに加速して熊に向かって飛んできた。
「!!」
すぐにトルペタ君の放った矢に気が付き避ける熊、しかしフレアが邪魔をし思ったように逃げることができない。
「クソ!!」
熊は屈んで足に力を入れて上空へと跳躍した。
「ちっ!」
フレアもトルペタ君の矢に当たらないように上空に逃げた熊から離れる。
トルペタ君の渾身の矢はそのまま熊がいた場所を通り過ぎて王城の壁に....。
「斥力の盾!!!」
あたる前にあらかじめ準備していた斥力の盾を展開し、矢の進行方向へと立った。
迫りくる2本の矢。私は飛び兎の先に展開した斥力の盾を斜めに向ける。
ヒュオオオオオと鋭い音を立てながら私の盾に接触する直前で斥力の盾により跳ね返される。
跳ね返った先にはもちろん熊がいる。
熊は私の声に反応して咄嗟にこちらを見た。
視界の先にあるのは先ほど避けたはずの二本の矢、空中でよける術を持ち合わせていない熊にできたのは剣を横に構えて頭部を守るこだけだった。
即死となる頭部に攻撃は受けなかったものの、熊の脇腹には2本の矢が突き刺さった。
「グッ、グガガガガ」
毛を散らし皮を割き体内を高速回転しながら熊の体内をかき乱す。
矢は熊の体を貫通し、血と共に反対側から飛び出した。
「ガハッ....。」
腹部への深刻なダメージによりうまく着地ができなかった熊はそのまま地面へ叩きつけられた。
うつ伏せで倒れたままピクリとも動かない熊を見てフレアと顔を見合わせる。
トルペタ君も様子を見にこちらへと駆け寄ってきた。
「やったのか...?」
「ちょっと、そういうこと言って生きてる展開多いんだから止めなよ!」
言ってもわかんないだろうけど定番中の定番だよ!
フレアには何言ってんだコイツみたいな顔をされた。異世界人にはわかんないだろうよ~。
「にしては少しあっけない気もしますね。あ、ミウシアさん鑑定してみてくださいよ。」
なるほどその手があったか。
今なお腹部からドロドロと血が出続けている熊に向かって鑑定を行った。
「<鑑定>アナライズ!」
-------------------
名前:ゲオグリオス
種族:スカーレットデストロイベアー
職業:力の探究者
HP:24510/42470(急速回復中)
MP:5400/0(一時的)
力:S
防御:S-
魔力:-
早さ:A+
運:-
-------------------
「皆!!早く逃げっっ...」
「ガアア!」
倒れたままの熊が突如起き上がりながら手に持っていた大剣を周囲にいた私達に向かって切りつけてきた。
瞬間、腹部からボキボキメキッという音が聞こえてそのまま弾き飛ばされた。
壁に叩きつけられそのまま地面にどさりと落ちた私は激痛の余り何も声が出せない。
息もできないし熊の方を見ることもできない。
痛い痛い痛い痛い!
「あ.....ぅ......。」
フレアとトルペタ君の無事を願いながら地面を這いつくばりながら周囲を虚ろな目で確認する。
遠くで膝をついているフレアと地面に倒れているトルペタ君。
真っ二つになっていないことから熊の大剣は刃を潰していたんだとなぜか冷静に判断できた。
「く....ゲホッ...。」
喉の奥からこみあげてきた血を吐き出しながら、腹部辺りの激痛を感じる。
このままだと皆死んでしまう。
私が死んだ場合、もしかしたら天界に戻れるかもしれないけど皆は違う。
死んでしまったらそこで終わりだ。自分はダメでもみんなのことはせめて助けたい。
私の右手には弱弱しく握られた飛び兎。
ステータスを脳内で確認する。
-------------------
名前:ミウシア
種族:バーニア族(半神)
職業:短剣士(Lv62)
HP:24/710
MP:1240/6182
力:B+
防御:D
魔力:A-
早さ:A+
運:A+
称号:善意の福兎(6柱の神の祝福により効果UP)
・自分以外のHPを回復する時の回復量+100%
・誰かのために行動する時全能力+50%アップ
・アイテムボックス容量+100%
・製作、採取速度+200%
※このスキルはスキル「鑑定」の対象外となる。
※このスキルを持っていると全NPCに好意的な印象を与える。
-------------------
MPに余裕があることを確認した私は激痛に耐えながらマナを飛び兎に流す。
お腹から自身のマナを手の先に....と意識している最中、断続的に訪れる痛みによってマナの操作がうまくいかず手に集めることができない。
急げ急げ急げ!!
手に集中!ここで意地を見せなくていつ見せるんだ!
「う....ぐぎぎぎぎぎ....。」
マナを無駄に消費しながらも徐々に飛び兎へとマナが集まり、光属性へと変わっていく。
そのマナを吸収し、ホーリー・スピリットを発動させたとたんに痛みが徐々に和らいでいった。
持続回復の効果によりゆっくりと回復し始め、うつ伏せになっていた体を起こし、座り直せる程度になる。
「フレアは...平気...そうだね。トルペタ君..!」
フレアは膝を尽きながら斧を杖代わりに立ち上がろうとしている。
トルペタ君の方を見るとゴホ、ゴホと咳をしながら血を吐いているのが確認できた。
「今行くから....!!」
今だ通常通りに動けない体に鞭をうつように歩き出す。
回復しながらとはいえ、未だに腹部は歩く度に痛みが走る。
腹部を抑えながらトルペタ君までたどり着き、光のマナをトルペタ君へと分け与えた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
SIDE:ゲオグリオス
割と本気で切りかかっても尚立ち上がってくる人間達。
こいつら、面白れぇな。
俺がまず感じたのはそんな感情だった。
正直、人間とか魔物とか俺にはどうでもいい、こうやってクソドラゴンの奴について来てやってるのも、魔物の味方をしてれば強い奴と戦えると思ってる程度しか考えてねぇ。
しかしどうだ?クソドラゴンの奴らは手合わせも何もしちゃくれねぇ。
戦闘スタイルも技術よりも火力でゴリ押すバカしかいねぇ。
そんな奴らといて何が楽しいんだよ。と思っていた矢先に出会ったこいつら。
個人の能力的には圧倒的に俺の方がつええが、技術と戦術で俺を楽しませる。
もしこいつらがもっと強くなったらどうだ?俺はもっと楽しい戦いができる。
考えるだけで震えが止まらねぇ。こいつらは俺が超回復スキルを使うまでに追い詰めてきた。
あそこでクソドラゴンと戦ってる人間もつええが、守る一方でつまらん。
なんにせよここで殺しちまうのはもったいねぇ。
クソドラゴンにバレねぇように見逃せねぇか....止めを刺すふりをしておくか。
俺はまず一番近くにいる一番手ごたえのあった斧使いに近寄った。
「へっ、畜生。これまでか。」
抵抗するかと思ったが、案外潔いな。
「オイ、ミノガシテヤル。シンダフリヲシロ」
「ばっ、んなことできるか!!!あたしは冒険者だ!敵に情けをかけられる筋合いはねぇ!!殺せ!!!!」
コイツはプライドが高いな、めんどくせぇから気絶させるか。
「ツヨクナッテ、デナオシテコイ」
俺は軽く頭を揺さぶるように右手ではたいた。
人間はちいせぇから力加減が難しいんだが...。
「うああああああ!!!!!!」
俺が斧使いをはたくと、さっきまで虫の息だった兎の人間がこっちに向かって走ってきた。
だがさっきまでの超スピードはねぇな。
この人間は技術力と素早さが厄介だが、力が弱すぎる。
今のコイツには大した脅威はねぇな。
走ってきた兎の人間が切りかかってきた手を掴んで空中に摘まみ上げた。
「くそっ!フレアを!フレアを返せ!!!」
ああ、殺されたと思ってんのか。
「オチツケ、キゼツシテイルダケダ。」
「....<鑑定>アナライズ。.....本当だ。.....どういうこと?」
話がつうじねぇかと思ったが案外冷静なもんだな。
「イイカ、ミノガシテヤル。ダカラツヨクナッテ、マタオレトタタカエ。」
「ああ、なるほど....。力の探究者ってわけ....。」
...?なんでこいつは俺の生きざまを知ってんだ?ステータスを確認できるのか?
にしてもよく見るとコイツ、なんつーか.....うまく言えねぇがほかの人間よりも落ち着くな....。
何となく、何となくだが俺はコイツを知っているような気がする。
なんでだ?ーー