「77話 イエティとスノーマン 」
私達は洞窟に入り、出口へと向かって歩いていった。
作戦は休憩中に話し合ったし、道中作戦を詰めたからきっと大丈夫...だよね?
洞窟の中はとても暗く、レオが<光球>ライトの魔法で明るくしてくれなければ壁にぶつかってたと思う。
敵の気配がないとはいえ警戒を怠らずに固まって奥へと歩いていった。
洞窟内はほぼ一本道で、頭を下げないと通れなかったり体を横にしないと通れないような、テレビで見た秘境へ向かう洞窟のような感じだった。
今も四つん這いになって道を進んでいる。
ルクスを先頭に、フレア、レオ、トルペタ君、カナちゃん、私の順番で後衛を前衛が挟むようにして隊列を組んだ。
「見えてきたぞ。」
立ち止まるルクス。
むにゅ
「っっ!っちょ!」
「あ、ごめ。」
それに合わせて止まるフレアとたぶんフレアのお尻に当たってしまったレオ。
「うわわっ」
「ひゃ!トル君!なんで急に止まるです!」
急に止まったトルペタ君に当たるカナちゃん。
...私はちゃんと止まったよ。ラッキースケベを回避できたねやったー....。
いや、一応私も男の心を持ってるから少し残念だけど、カナちゃんは逆ラッキースケベに成功したね。
四つん這い地点を抜けて立ち上がると、皆が顔を赤くしていた。
いい感じにペアができてることはいいことだよね。うん....。
「ったく...気を付けてくれよ....。」
「ほ、ほんとごめんね~?」
「乙女の顔を何だと思ってるです...んもう....。」
「ご、ごめん...。」
「コホン、皆出口が見えてきたよ。戦闘準備してね。」
ラブコメするのはいいけど今はボス前だからね!
妬みとかではないよ!
私の発言にハッとなって出口の方を見つめる4人。
外は真っ白雪景色なので外の状況はわからないけど何かの気配は感じる。
外に出た瞬間返り討ちにあってもおかしくない。
「とりまマナ・ペネトレーション!マナ・アクティビティ!からの~マナ・ダーク・リフレクション!...効果時間は体感5分くらいだから打ち合わせ通り合図したら集まるって感じでヨロ~」
「緊張感ないですねぇ、私もスノーマン程度なら倒せるはずですのでイエティは任せましたよ。」
作戦はこうだ。
フレアがイエティの注意を引き付け、レオがそのサポート。
私とトルペタ君とルクスは取り巻きのスノーマンをどんどんと撃破し、カナちゃんがそのサポート。
その際にはなるべくイエティの注意がこっちに向かないように派手な攻撃を控える。
レオの指示があったらマナ・ダーク・リフレクションの更新のためレオの近くに集合。
敵の詳細がわからない以上この程度しか作戦を立てられない。
後は臨機応変に立ち回るしかないよね。
作戦を立てている時にフレアが「別に倒しちまってもいいんだろ?」って言ってたけど死亡フラグっぽいのであくまで注意を引き付けるだけで無茶しないこと!と釘を刺しておいた。
「よし、行こう。フレアお願い!」
「っしゃあ!一気に行くぜ!ファイア・スピリットォ!!」
フレアの体が赤いオーラに包まれ、周囲の温度が急激に上がる。
そのまま出口から飛び出したフレアの後を追って私達も外に出た。
「おらおらおらおらおらあああああああ!」
「グオオオオオオ!!!!」
「ギャー!ギャー!」
外に出ると外は開けていて、丸い盆地のような場所になっていた。
中心部にはでかい雪男...イエティが突っ込んでくるフレアに向かって咆哮を上げている。
周囲に生えている木から30...いや50...それ以上のスノーマンがフレアに向かって魔法を撃ちながら近寄るが、マナ・ダーク・リフレクションのお陰でスノーマン自身が魔法を食らっていた。
動きが遅くなったり、倒れこんだり、いきなり止まって空を見上げたりしている。
魔法を撃たなかったスノーマンたちは仲間に何が起きたのかわからないようで、おかしくなった仲間に向かってギャーギャーと話しかけていた。
「スパイラル・アロー!」
「雪たちよ、凝固し氷の槍となれ!<氷槍>アイシクルランス!」
「ふっ!」
トルペタ君は風属性の貫通力のあるスキルで敵を確実に倒していく。
カナちゃんは雪の中で目視しにくい氷の槍で止まっているスノーマンたちを貫く。
私は足の裏だけにダーク・スピリットを展開し、硬くなった雪の地面で滑らないよう足が地面に接している時のみ影で地面に縫い合わせながらスノーマンへと走っていった。
普通の地面での速さほどではないけど十分スノーマンを翻弄できる。
仲間の心配をしている奴、フレアに向かって走っていく奴を次々に飛び兎で切り裂いていく。
「ギギギギァ!!!!!!」
私達の存在に気が付いたスノーマンたちは魔法をかけようとするが、他のスノーマン以上、イエティ未満の大きい個体が吠えたとたん、魔法をやめ大きな石を手に取り襲い掛かってきた。
あいつがスノーマンたちの司令塔か。
スノーマンたちの戦闘スタイルの変更によりカナちゃんとトルペタ君の身が危なくなった。
私が二人の元へ戻ろうと後ろを向いたとき、素早い何かがカナちゃんとトルペタ君に近付いているスノーマンたちの足を攻撃していく。
「ミウシア!こちらは任せろ!」
ルクスが二人のサポートに回ってくれたおかげで私は司令塔のスノーマンに集中ができるようになった。
返事をせずにすぐに司令塔の方へと向き直ると、スノーマン10数匹が司令塔を守るようにして木の板を構えていた。
「....司令塔を守るナイト的な?」
フレアとイエティの方を見ると、スノーマンたちはボスの戦闘には手を出さず、一匹残らず私達の相手をしているようだった。
これなら大技で一気にやっちゃってよさそうだね。
私は足の裏にのみ展開していたダーク・スピリットを全身に移動させた。
闇のオーラを纏いだした私は急に存在感が希薄になる。
これはフレアとの組手の後、ダーク・スピリットを展開した状態で家の中に入って皆を驚かせようとしたときに気が付いた効果だ。
家に入るとリビングでご飯を食べていたカナちゃんとトルペタ君は一切私に気が付かず、2人で談笑を続けていた。
「わっ!」と大きな声を出すと二人は椅子から転げ落ちて周囲を確認、こちらをじーっと見た後にようやく私に気が付いた。
つまりこの闇のオーラを纏っていると敵に気付かれにくくなるのだ。
もちろん、最初から私を目視していれば見失うことはない。
でも私はその視線を振り切れるだけの素早さを持っている。
私は司令塔を守るスノーマンたちに向かって駆け出すと、サイドステップで側面へと回り込んだ。
そのあとは後ろへ、スノーマンたちがきょろきょろと私を探し出したところで奴らの影へを潜り込む。
私は影に潜みながら闇属性のマナを飛び兎の刀身へと凝縮する。
闇のオーラはその刀身短さを補うように集まり、飛び兎は漆黒の刀へと変わる。
司令塔はスノーマンに指示を出し自分を囲うように命令しているようだ。
私は司令塔の背後から飛び出てその刀を振るう。
振り向いたときにはもう遅く、司令塔の体は斜めに両断された。
その勢いのまま刀を私の背後のスノーマンたちに向かって薙ぎ払う。
スノーマンたちは咄嗟にジャンプして上に逃げたり、屈んだり、離れたりしようとした。
だけど逃げられない。
離れようとした瞬間、スノーマンたちの体は飛び兎の刀身へと引き寄せられる(・・・・・・・)。
何が起きているかわからないスノーマンたちの腕や、体、頭、足を一振りで両断していく。
「ギャアアアアアアア!?」
致命傷に至らなかったスノーマンたちはのたうち回り、悲痛の叫びをあげた。
飛び兎の引力の範囲外だったスノーマンたちは一目散に逃げていく。
しかし逃がさない。
私は飛び兎を両手で構えて横に一閃振るう。
飛び兎を形成していた刀身は黒い剣閃となり、飛び兎から離れて逃げ惑うスノーマンたちに向かって飛んでいく。
逃げるスピードが徐々に遅くなり、やがて剣閃へと引き寄せられ体に触れた時、その体の中心から二つに切り分けた。
どさりと崩れ落ちる複数の肉片。
流れ落ちる血液がその地面を赤色に染めていく。
足元で蠢くスノーマンに止めを刺したところでダーク・スピリットを解除した。
「....ふぅ。」
軽く立ち眩みしたけど意識ははっきりしている。
周囲を確認するとカナちゃんとトルペタ君とルクスが残りのスノーマンを迎撃していて、フレアは笑いながらイエティと戦っていた。
カナちゃんたちは大丈夫そう、私はフレアと合流しよう。
「フレア!加勢する!」
「来たかっ!コイツっ、ははっ!巨体のわりにっ、動きが早え!」
「イエティじゃないわこれ、でかすぎるし文献に書かれてたのよりも強いってコレマジで。」
イエティはその手に持った大きな石の棍棒を片手で軽く振り回し、素早い身のこなしでフレアの攻撃を防いでいた。
レオはイエティの体に茨を巻き付けて動きを制限しているがあまり効果がなさそうだ。
近寄ってきた私に気が付きちらりと私の相手をしていたスノーマンを確認する。
「ゴ、ゴアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
イエティはスノーマンたちが壊滅しているのに気が付いたのか、お腹の底まで響く雄たけびと共に目を赤く光らせた。
その姿からは威圧感のような息苦しくなるような圧を感じる。
「へっ、お仲間がやられていっちょ前に絆でも感じてたかぁ?」
言葉が通じたのか、自分に声をかけてきたからかはわからないけど、フレアの挑発に対してイエティは明らかに反応し、巨大な石棍棒を振り上げてフレアへと叩きつける。
「やっべぇ!!!」
最初真正面から受け止めようとしていたフレアは瞬時に危険を察知したらしく、バックステップでその攻撃を避けた。
イエティの振り下ろした攻撃はフレアがいた場所へと振り下ろされ、ズン、と地響きが伝わるくらいものすごい勢いで地面へと叩きつけられた。
「っばぁ、今のフレっち受けてたら流石に潰れてたっしょ...ミウシアちゃん鑑定ヨロ~。」
「っそうだ!<鑑定>アナライズ!」
レオに言われ鑑定をしていないことに気が付く、それと同時になぜかイエティは私に照準を変えて向かってきた。
なんで!?鑑定のせい!?
フレアがとっさにイエティの進行方向を白く輝くほどに高温になった斧で遮るが、イエティはその斧を手でつかみ横に払いのけた。
イエティのその手はジュウジュウと焦げてしまい、HPも減少しただろう。
それなのに痛みを無視し私の方へと向かってくる。
なぜか。そう思っているとその疑問に答えるかのように鑑定の結果が脳内に浮かんだ。
-------------------
名前:設定されていません
種族:キングイエティ(怒り)
職業:スノーマン達の親
HP:16420/18500
MP:0/0
力:A+(S-)
防御:A(S-)
魔力:-
早さ:B+(B-)
運:-
-------------------
「やばい、キングだ。」
怒り状態で力、防御が上昇して大変なことになってるけど、早さが落ちて私なら避けられると思う。
けどそれは万全な状態での話だ。ここは雪山。ふかふかな雪ではないにしてもいつも通りの速さでは走れないし転ぶ危険もある。
仮に今の環境で私の速さが勝っても、防御がS-では私の攻撃が通らない。
フレアの攻撃でやっと少しダメージを与えられる程度だろう。
カナちゃんに高火力の魔法を使用してもらうにしても、私達の体温を維持してくれている魔法が止まれば動きも鈍くなり、攻撃を食らうことはまず間違いない。
とりあえず今は私に向かってくるイエティの攻撃を何とかしなければいけない。
急に走り出して転んだら一瞬でアウト、イエティの影に逃げ込むのも影はイエティの後ろに位置する。
この迫力のイエティを速さで翻弄するにも迫りくる恐怖に足が震える。
「ぶっつけ本番だけど...。」
私は走ってくるイエティに向かって飛び兎を構える。
先ほどと同様に刃に闇属性のマナを集めるが、その形状は刀ではない。
刃先へとどんどんマナを集中させ、そのまま刃先に対して垂直に板状にマナを凝固させる。
イメージは盾、デザインなんて今は考えることができないからただ四角い正方形。
イエティは私の数メートル手前で飛び上がると全体重をかけて私へと石の棍棒を振り下ろしてきた。
「お願い!斥力の盾!」
ああ、これでミスったらグロ画像の仲間入りだぁ。
何てどうでもいいことを考えながらイエティの全力の攻撃を飛び兎の先端に作り出した闇属性のマナでできた黒い正方形の板、斥力の盾を両手で構えてイエティを見る。
その表情は仲間を失った悲しみでも怒りでもなく、下卑た笑い顔だった。
私は恐怖で目を瞑る。
大丈夫大丈夫練習ではうまくいった絶対平気私ならやれるやれるやれるお願いします神様仏様ぁああああああ!
....しかし数秒待っても私の意識はある、成功したかと恐る恐る目を開けると先ほどまで目の前に迫っていたイエティはフレアたちを超えて反対側の壁に叩きつけられていた。
「はぁ~~~、良かった.....。」
読んでくださってありがとうございます!もしよろしければ下の欄の✩をタップして頂けると励みになります(*ˊ˘ˋ*)