「68話 宴 」
なんとかフレアさんに勝った(ことにしてもらった?)私達は修練所を後にして、フレアさんのいるジャイアント地区で一番大きい酒場へと向かった。
「これは...大きいですね...。」
トルペタ君が酒場を見上げて呟いた。
それもそのはず、この酒場は修練所の2倍はあろうかというほどの大きさだった。
普通の酒場と比べると4倍程くらいになるかも。
「...入ろうか....。」
中からは賑やかな...いや、賑やかすぎる声が無数に聞こえてくる。
私達は注目の的になることを覚悟して酒場の中へと入った。
「おっ!きたぞー!今日の主役だ!」「なんだよ着替えてんじゃねーか!」「半裸で来るわけねーだろ!」「こっち座ってー!」「お姉さーん!!」「ちっちゃくてかわいい~~~!」「こっち向いて~!!」「イケメンが来たわよ!!!!」「!!!!!!!!」
入るなり失礼な発言やら突っ込みやらを浴びせられた。
男性だけかと思ったけど女性冒険者も多いようで、ところどころから黄色い歓声も聞こえてくる。
「おっ、来たか!こっちこい!...お前ら!早くどきな!!」
真ん中の大きなテーブルでお酒を飲んでいたフレアさんが、一緒に飲んでいた冒険者を手で追い払って私達分の席を確保してくれた。
なんというか、冒険者というよりも山賊感のほうが強いような....。
「あ、席ありがとう。」
「素面じゃやってられないです...。」
「俺も...。」
「とりま、ビア四つ~!!あとてきとーに食べ物持ってきて~!」
まるでホストのように慣れたレオが店員さんを呼んで注文をする。
もう本当にホストやってたんじゃないの??
「今日は楽しかったな!あたしをあそこまで追い詰めたのはルクニカ...ニカ以来だな!...つっても勝ったことはねぇけどな!」
「ニカさんと知り合いなんですか?」
「ミウは知らないんですね、よく二人は修練所で手合わせをしているんですよ。」
店員さんが秒でお酒を持ってきてくれたので、受け取りながら話を続ける。
「?ミウシアは知り合いなのか?..つかもういい加減畏まんなよ!あたしはそういうの苦手なんだ。」
「とりあえず、ビアも来たし、先のまね~?」
レオの発言にびくりと揺れるとフレアは飲みかけのジョッキを持って掲げた。
「あ、ああ。....っと!お前ら!!さっきも言ったが今日はあたしのおごりだ!!ソロのあたしがついにパーティに入ることになった!!その記念だ!!!今日は騒ぐぞ!!!!」
「えっ?」「!?」「です!?」「だよね~~!」
フレアさんは私達の仲間に入ってくれるらしい。いや、先に言っといてよ!
仲間になってくれるかもとは思っていたけど向こうから行ってくるとは思わなかった...。
レオは全く驚いてないけど。
「かんぱーーーーい!」
「「「か、かんぱい」」」「うぃーーー!!」
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「だからぁ~~!!すきるをぉ!つかうときはぁ!なまえをぉ!さけんだほうがぁ!かっこいいんですぅ!」
「ん~じゃああたしのスキルに名前を付けてくれよ。例えばこれとか、これは?」
「フレイム・アックス!、ラヴァ・アックス!!」
お酒も大分回ってきて、カナちゃんのスキル命名式が開催されていた。
フレアも乗り気でスキルを披露してるけどお店は燃えないのかな....。
「俺が英雄だぁ~!!俺の矢につづけぇ~!!!」「いくぜお頭―!!!」「きゃー!!!」「トル総受け。」「いや攻め。」
トルペタ君は他のドワーフ冒険者と一緒になって英雄ごっこをしてる。
その光景を酒の肴に女性冒険者達はお酒を飲んでるけど、トルペタ君変な狙われ方されてないかな...?
そして私の横では....。
「ミウシアちゃんはいつになったら俺の方向いてくれるの~~?ね~~?」
レオが私を口説こうと必死になっている。
ちなみに私は今日お酒を控えてる、全く飲んでないわけじゃないけどほろ酔い程度かな。いつも本気で酔って迷惑かけちゃうし。
...レオについて、この際だから私がいつかいなくなることを伝えて断っちゃおう....。
フレアとくっついてくれた方が丸く収まるし...。
なんかちょっと寂しい気もするけど。
「レオ、ちょっと煙草付き合って。」
ここで話してほかの仲間たちに聞こえたら多分心配すると思うし、せめて外で話そう。
いや、ほんとに。煙草吸いたいだけじゃないから!
「おっけ~~~!何々~?ついにオレに気を許してくれたわけ~~?」
「はいはい、仲間なんだから気は許してるよ。」
レオがふらふらしてるから肩を組んで外へと向かった。
酒場を出て、夜風に当たりながら煙草に火をつける。
どうしよう...なんて切り出せばいいんだろう。
「....ミウシアちゃーん、もしかして真面目な話ぃ?」
私の方をみてレオが何となく真面目な空気を感じ取ってくれたみたい。
「....うん。酔ってない時にしようと思ったんだけどね。」
「....わかった。<浄化>クリア!」
レオが魔法を唱えるとふわふわしていたほろ酔い気分が覚めて、素面になる。
レオも同じようで、真面目な顔で向き合ってくれる。
「ミウシアちゃん。ちゃんと聞くよ。話して?」
くっっっそ!!ときめく!!!普段とのギャップ!!!
思わず顔を背けるけど、深呼吸をして向きなおる。
「えっとね、レオが私と初めて会った時...覚えてる?と言っても一カ月前とかだけどね。」
「もちろん、オレがいきなりプロポーズしちゃったんだよね。」
....やっぱりレオ的にもあれはプロポーズだったんだ。
「うん、びっくりしたんだけどね。気持ちは嬉しかったよ。....それで、その。返事なんだけど....。」
レオも態度はこんなんだけど、真面目に気持ちを伝えてくれた。
私もきちんと答えたい。だけど、なんて説明したらいいの?私は半神で異世界人で、いずれ異世界に帰る。って?
「答えはNo、何でしょ?そんなつらそうな顔してたらわかるよ。」
「えっ。」
そんな顔、してたかな?
「それってオレが嫌いだから...とかじゃないよね、もしかしてオレ達が見た夢と関係ある?」
....夢、私以外の仲間が皆見ている、私の眷属...つまりこの世界の神からの助言だ。
私も夢を見たと嘘をついているけど、みんなは神々にミウシアについていけと名指しされてるんだよね、それじゃあ何となく私だけ違うってわかるか....。
「...最初のは不正解、後のは正解。...ほかの仲間には言わないでほしいんだけど、私は皆とはちょっと違うんだ。それで、いつかここからとっても遠くの故郷に帰らなきゃいけない。....多分2度と会えないくらい遠くに。」
私がそう答えると、レオは意外にも笑っていた。
「...やっぱりね。」
「??」
「オレは精霊使い。...正確には聖樹の友達。この世界を反映させた聖樹ドライアドと心を通わせることができるんだ。ドライアド達はミウシアちゃんのことを敬われているんだ。その神に最も近い存在から。...つまり君は神以上の何か(・・・・・・)。でしょ?」
驚いた。レオはここまでわかっていながら私に対して普通に接してくれていたんだ。
「ま、オレにとっては可愛い女の子以外の何物でもないんだけどね~~。」
ケラケラと笑って真面目な空気を茶化してくれるレオに感謝しつつ、私の正体に関する発言に対しては濁すことにした。
「レオが女の子好きなのは知ってたけどまさかここまでとはね~?....まぁそんなわけで、私は今恋愛をするつもりはないんだ。だから、ごめんなさい。」
レオは頭を掻きながらふー、とため息をつくと、ニコッと笑って私を見た。
「じゃあさ~~、仲のいいお友達としてだったら付き合ってくれるんだ~?」
「それは、もちろん。仲間だもんね!」
仲間としてレオは頼りになるし、一緒にいて楽しい。ノリが軽いから私との性格的にもあってるんだろうなぁ。
「ミウシアちゃん、こんな言葉知ってる?」
「?なに?」
ちょいちょい、と私に屈むようなジェスチャーをするレオ。
なんだろう?と思って前かがみになるとレオが内緒話をする時みたいに手で私の耳に向かってささやきだす。
手が触れてこしょばゆい。
「友達は友達でも...セフ....」
「あほ!!!!!!!!!!!!!!!!」
何てこというんだコイツは!!!
私は頭を振って、長い耳でレオの頭をはたいた。
「アホなこと言ってないで戻るよ!!!...ったく...。」
久々に聞いたわド下ネタ....。
心が乙女な私にはちょっとなれない発言だったため、顔が熱くなっているのを感じる。
もう私は男だった頃みたいに下ネタで男子と盛り上がることはできないのかな?と、余計な心配をしながら酒場の中に入ろうとすると、レオがかすかに呟くのが聞こえてしまう。
「振られたか...本気だったんだけどなぁ....。」
.....ごめんね。
聞こえなかったふりをして私はいまだに続くカナちゃんの命名式と、トルペタ君の英雄ごっこ会場へと向かった。
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◇SIDE:ジア
「ゴアアアアアアアアアア!!!」
おいおい、超楽しいじゃねぇか!!
ちびっ子がまた新しい発明品を作って期待はしてたが、まさか地上に降りてこんなに暴れまわれるなんてな!!
それにこのクマ...ちびっ子が言うにはアバター?ってやつらしいな。体格が俺ぴったりに成長したんだよな。
魔物を殺して殺して殺しまくっていくうちにどんどんと進化していき、気が付いたら今じゃこんなステータスだ。
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プレイヤー名:ジア
種族:スカーレットデストロイベアー
レベル:90/150
HP:12470/12470
MP:0/0
力:9800
防御:8000
魔力:0
早さ:8000
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神界でのんびりと過ごして、オレら神で遊ぶのも楽しいけどよ。
やっぱり戦いがオレの生きる道なんだな。
「シャーッ!」(ボス、竜の奴がこっちに近づいてきます。)
子分の一人、...なんちゃらスネークが報告しにオレの元にやってきた。
「ゴ!ゴアアアア!」(竜!強い奴が来たか!)
オレは立ち上がって上空から降りてくる竜に向かって冒険者が落としていった武器の大剣を構える。
「まて、私は敵ではない。其方はスカーレットデストロイベアーだな?その力を見込んで頼みがあるのだ。」
「ゴア?」(なんだ?)
オレは楽しく戦えればそれでいいんだけどよ、魔物にちゃんと声をかけられたのは初めてだ。それも人間も使う共通語で。
「我ら竜は今、魔物達と手を組み人間達の国を手に入れようと考えている。今こそ!はるか昔に我ら魔物を追いやり、この大陸に追いやった人間どもに復讐を果たす時だ!」
はぁ。下らねぇ。オレは一応...多分一応神だ。人間達は俺の可愛い子供たちだぞ?手を組むわけがねぇ。最低限必要な刺激として魔物と人間の争いは必要だとは思うがオレが手を貸すことはねぇな。
「ゴアアアアアア!」(帰れ!!オレは人間に恨みなどない!!俺の望みはただ強くなることだけだ!!!)
「.....では、手を組んだものに強くなる方法を教えると言ったら?どうだ?」
「グ.....。」(むむ....。)
強くはなりてぇがオレにとって強くなる意味は鬱憤晴らしと暇つぶしの遊戯のためでしかないんだよな。
....だったら魔物と敵対したほうがよくねぇか?この竜もなかなかに強そうだ。
そうだな、表面上は協力して魔物たちが集まったところでひと暴れしちまえばなかなかに楽しめそうだ。
「ゴア。」(わかった、協力しよう。)
「シャッ!?」(ボス!?)
「おお!それは良かった。スカーレットデストロイベアーと戦うのはこちらとしても極力避けたいところだったのでな。...では私の背中に乗るがいい。我らの国へと案内しよう。」
上に乗せてくれるのか、案外優遇されるじゃねぇか。
なんちゃらスネークをひょいと手に持ち竜の上に乗った。
割とフカフカしてて気持ちがいいな。ここなら安全だし一度睡眠状態で接続を切って、神界の皆に情報共有したほうがよさそうだな。
「ゴア?」(寝てもいいか?)
「どうぞどうぞ。」
「シャ~...。」(俺もいかなきゃダメなんすか~....。)
オレは目を閉じて睡眠状態に切り替えた後、ログアウト。と念じた。
....神界で少し剣技の練習でもするか...。