「61話 ドラゴンゾンビ 」
「ミウゥー。どうしてくれるです。本当に出てきたですよ!」
武器を構えながら私の方を焦り顔で見てくるカナちゃん。
「私のせいじゃないよね!?」
「ミウシアちゃん、どう攻めるべきだと思う?」
レオが珍しく冷静だ。横顔を見ると冷や汗も垂らしていることから、相当ヤバい相手だということがわかる。
幸い、ドラゴンゾンビに襲ってくる様子はない。
「とりあえず、<鑑定>アナライズ。」
私はこちらを向く大きなドラゴンのゾンビに向けて鑑定を行った。
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名前:ルドラル
種族:ブラックドラゴン(アンデッド)
職業:守護者
HP:9040/18800
MP:0/0
力:A-
防御:C+
魔力:-
早さ:C-
運:-
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「速さは私なら難なく避けられるけど皆はきついと思う。防御も低い。でも体力と力が恐ろしいよ...力がA-だから一回食らったら死ぬ可能性もある。....でも何だろう。HPが半分くらい消費してるから誰かと戦った後なのかもしれない、慎重にいけば勝てない相手じゃない。」
「わかったです。危ないですがミウには敵を引き付けてもらって、私達は逃げ回りつつ援護攻撃をすればいいですか?」
コクリと私が頷くとトルペタ君がゴーグルを装着して弓を構えた。
「マナ・ペネトレーション!マナ・アクティビティ!」
レオの唱えたマナ強化、身体強化のスキル効果が単体ではなく4人全員にかかる。
以前は単体スキルかと思ったけどこれって範囲だったのか。小さめの範囲なのかも。
トルペタ君がマナを集中させ、弓を引き絞る。
「ディ、ディザスター・アロー!」
スキル名を叫ぶことに躊躇しながらもスキルを放つトルペタ君を合図に戦闘が始まった。
無理して言わなくてもいいと思うんだけど...。
トルペタ君がスキル名を叫んだと同時に私は走り出した。
いっつも同じ戦法だなとは思うんだけど現状これくらいしかできないよね。
トルペタ君が放った矢が早すぎてドラゴンゾンビは反応ができず、脳天へと突き刺さる。
そう、貫通ではなく突き刺さったのだ。
ディザスター・アローの周囲を切り裂く特性を食らわないよう回り込んで走っていた私は、ドラゴンゾンビを冷静に観察できた。
確かにディザスター・アローのかまいたちはドラゴンゾンビの頭や体を切り裂いた。
しかし、切り裂かれた皮膚を覆うように、体内から黒い液体がドロッとあふれ出て新たな皮膚を形成した。
皮膚は腐ったんじゃない、あれがあの生き物の正しい構成なんだ。
肝心の矢はドラゴンゾンビの頭蓋に突き刺さったまま動かない。
あれほどの威力が無いと骨にダメージは与えられない。でも皮膚は切ると再生する。
さらにドラゴンゾンビはミミズキング以上の巨体でどこをどう切ればいいのか全く見当もつかない。
とりあえず私は飛び兎にマナを注ぐ。光属性のマナへと変わり刃が淡く光り始める。
...あ、スキル名も言わなきゃダメ?
「ホ、ホーリーソード!」
走りながらだから!走りながらだから噛んだのは許して!
トルペタ君に向かって走りだしたドラゴンゾンビは私よりは早くないけど、それでも三人が逃げる時間を確保できるほど遅くはなかった。
私はその場で一度止まってドラゴンゾンビが来るのを待った。
「<白炎>ホワイト・ファイア!」
レオがドラゴンゾンビに向けてはなった聖なる炎がドラゴンゾンビへと迫る。
それを避けようと私側へと避けてきたドラゴンゾンビ、やっぱり光属性の技が脅威となるみたいで、過剰な反応をしたのを私は見逃さなかった。
結果的に私が近くにいることに気が付き、ターゲットをトルペタ君から私へと変える。
腐った皮膚の中にきらりと光る宝石のような赤い目が近づいてくる。
ドラゴンゾンビは速度を落とさず、私へとかみつこうとしているみたいだった。
「遅いよっ!」
ドラゴンゾンビと同じくらいの速度で後ろに向かってジャンプをした私は、丁度ドラゴンゾンビの頭の上へと飛び上がる。
そのまま目に飛び兎を突き刺すと、妬けるような音と共に黒い液体が噴き出た。
「ゴアアアアアアアア!!」
予期せぬ攻撃と目を潰されたことで、顎から地面に倒れこんだ。
走っていた勢いはそのまま、がりがりと骨と地面がこすれるような音がする。
「穿て!!」
光属性の魔法の矢を剣先から放つスキルを放ち、頭を内側から破壊した。
「アアアアアアアアアアアア!!!」
脳が破壊されたら流石に動かなくなるはずだと想定していた私は、ドラゴンゾンビの頭の上に立ったまま顔についた体液をぬぐい取り仲間の方を見る。
と、その時私は強い衝撃と共に、状況が理解できないまま吹き飛ばされた。
「カハッ....」
完全に油断した、受け身も取れないし腕も足も肋骨も多分折れてる。
せめて地面に叩きつけられないように魔法で何かしないと....。
しかしあまりの激痛にうまくマナが制御できない。
ダメだ、ここで終わりだ....。目をつぶって死を覚悟したけど、なかなかその瞬間はやってこない。
目を開くと水のクッションが私を包み込んで衝撃を無くしていた。
きっとカナちゃんだ。
私が顔を見上げると今まで私を敵視していたドラゴンゾンビは、リミッターが外れたように狂暴化し、遠距離から攻撃しているカナちゃんたちへ向かって走り出した。
やばい、皆じゃあの攻撃を避けることはできない、私を置いていいから転移石で逃げて!
「に...げ....。」
声が出せない。左腕は変な方向に曲がってるし、右手は攻撃をとっさに庇って切り傷だらけ、足は血まみれだ。強い衝撃を受けて呼吸もままならない。
カナちゃんたちはとっさに自分たちとドラゴンゾンビの間に水、火、風で壁を作り、防御に徹していた。
ドラゴンゾンビはその魔法の壁に突進するもはじかれる。一応防げてはいるが、強大なマナの消費を感じるためあれが長く持たないことはわかる。
私に今できることはないか、回復魔法は使えない。
右手に持っている飛び兎もかろうじて握れている程度で、手に力は入らない。
私は死んだっていい、死んだその後どうなるかはわからないけど皆だけは助けたい。
私をもう助けられないと一目見てわかるくらいに、私が傷ついていれば皆は諦めて転移石を使ってくれるかもしれない。
...だったら責めて抗ってみよう。ドラゴンゾンビを倒せても倒せなくても皆は助かる。
それなら倒せた方がいい。
私は最後の力を振り絞り、何とか立ち上がる。
せめて飛び兎を握る方の手が傷ついていなければ...と思いながら、自分のマナを全て飛び兎に注ぎ込むと、刃が強い光に覆われて発光する。
不思議なことにその光を強く受けた切り傷だらけの右手の痛みが引いていく。
「....?」
この光には治癒効果がある?今までマナをここまで注ぎ切ったことはない。
スキルとはイメージ次第だとニカが言っていた。
それならこの治癒の光を持った状態のマナを飛び兎からもう一度体内に戻したら....?
傷が治るかもしれない、内部の傷すらも。
意識を集中し、飛び兎の刃に纏った光のマナを体内へと引っ張る。
しかし不可逆性を持つのか、なかなか体内にへとマナが流れてこない。
こうしている間にも皆のマナ切れは刻一刻と迫っている。
早く!!!早く!!この剣は私の体の一部、体内のマナを循環させることができるならできるはず!!!
来い、来い!来い!
次の瞬間、飛び兎と私の手の間にあった壁のようなものが決壊し、温かみのある光が体内へと流れ込んだ。
「気持ちいい...。」
こんな状況下でもうっとりとしてしまうほどの心地よさ、先ほどまでの痛みはすでに消え、それどころか戦う前以上に健康体に感じた。
自分が今どうなっているのか、状況を整理するために頭の中でステータスと念じる。
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名前:ミウシア:光
種族:バーニア族(半神)
職業:短剣士(Lv34)
HP:370/370
MP:1430/3430
力:C+(B)
防御:D(C-)
魔力:B-(B+)
早さ:A-(S)
運:A+
称号:善意の福兎(6柱の神の祝福により効果UP)
・自分以外のHPを回復する時の回復量+100%
・誰かのために行動する時全能力+50%アップ
・アイテムボックス容量+100%
・製作、採取速度+200%
※このスキルはスキル「鑑定」の対象外となる。
※このスキルを持っていると全NPCに好意的な印象を与える。
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細かく確認している暇はないけど、色々と突っ込みたい!!
それよりも今は皆を助けないと!!
床を蹴り上げて、未だに魔法の壁を突破できないドラゴンゾンビへと近づく.....。
「うぇっ。」
駆け出した瞬間、一瞬でドラゴンゾンビに接近してしまい、その腐った肉と黒い粘液に顔から突っ込んでしまう。
げぇ!口に入った!!!っぺぇ!!
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SIDE:レオ
やばいやばいやばい。
ミウシアちゃんが1撃でやられた。
まだ生きているだろうけど、早く助けないと取り返しのつかないことになる。
クソ、惚れた女の子を助けに行きたいのにこんな防御しかできない、トルっちもカナっちも早くミウシアちゃんを助けたいのに、守るしかできない現状に歯を食いしばっている。
その瞬間、魔法の壁の向こうにうっすらと光りが見えた。
ミウシアちゃんがまだ立ち向かおうとしてるのかもしれない、ダメだ、そんな身体じゃ...。
「カナっち、トルっち、魔法を解いてみんなで別々に別れながら攻撃しよう。今なら身体強化も聞いてるから逃げられるかもしれない。」
「....ですね。ミウの性格上、どれだけ傷付いても戦おうとするはずです。このままじゃ助ける前にミウが死ぬです。」
「やりましょう。」
皆自分の危険よりもミウシアちゃんのことを考えてる。凄くいいパーティだ。
「じゃあ行くよ、....3...2...1....今だ!!走...れ?」
オレたちが魔法の壁を解き、ドラゴンゾンビがはっきりと見えるようになった時、ドラゴンゾンビの様子がおかしかった。
後ろを見て固まっている。そういえばミウシアちゃんは?あれ?いなくない?
「ギアアアアアアアア!!」
とたんにドラゴンゾンビが大きな悲鳴を上げ、転げまわりながらオレたちから離れていく。
なになに?どういうこと!?
「うげー、ぺっぺ。口に入った~。」
ドラゴンゾンビがいた場所にはミウシアちゃんが5体満足で立っていた。
「ミウ....?ですよね?」
カナっちがそう聞きたくなるのもわかる。
「?うん、皆大丈夫だった?」
ミウシアちゃんは自分の変化に気が付いてないのかな。
「ミウシアさん、あの、髪の毛どうしたんですか?」
「へ?」
「ミウシアちゃん無事でよかった。ところで、いつの間にこげ茶ピンクメッシュから白髪ピンクメッシュに染めたのかな?」
そう、ミウシアちゃんの髪の毛はなぜか白髪ピンクメッシュになっていた。
しかも体中から光属性のマナを感じる。精霊たちもミウシアちゃんを見て喜んでいるのか、けたたましく動いている。
ミウシアちゃんは一体何したんだ?




